ルール (lix)
環の失言を気にするそぶりは見られなかったが、気分を害したり傷ついたりしてないだろうかと気を揉む。彼女の心配をよそに、瀬織は別段、意に介する様子はなく「電話とメールがあればじゅうぶん」と言った。
LINEを教えたくなくて嘘をついているのかもしれないが、そうとう変わり者だ。家庭内もなんらかのトラブルを抱えていることは想像にかたくない。家族との連絡用途もないことはありうる。
本当にLINEがないのだとしたらどうしようもない。アプリのダウンロードはおそらくルール違反だろうから、強制するのは、はばかられた。これ以上、失言を重ねるわけにもいかない。
「もういいよ。無理にとは言わない」
環は苦々しさを隠しきれないトーンで切りあげ瀬織の席を離れた。
ほかの孤立組の須磨総和や春日積に声をかけていた九十九と目があって、環は小さく首を振る。瀬織の説得は空振りだったと。
本当なら、瀬織に問題を解くチームの一員として協力を頼みたかった。
彼女が、プレイヤーに選ばれにくい自信があったように、その選出率は秘匿される上位層だ。戦力になることを期待したのだが。
瀬織ひとりにばかりかまってはいられない。もうすぐ時間だ。環はクラスに呼びかける。
「まだ準備はじゅうぶんとはいえないし、情報も不足している。とにかく身の安全を最優先に乗り切ろ。誰が選ばれても全員が全力でサポートする。プレイヤーになった人も、必ず無傷で教室に帰ってこられるよう、細心の注意を払うこと」
皆、うなずいてくれたが、環は引っかかりを覚えていた。
「全員」などと言ったが、ひとり、例外を認めてしまった矢先だ。そらぞらしく聞こえたのではないか。だが気に病んでいるひまはない。
時計が9時52分50秒を示す。
次のステージが始まるまであと10秒。
クラスじゅうが張りつめる。
5、4、3、2、1――
正確に時間どおり、全員の端末がいっせいに切り替わった。
アプリ『プリムズゲーム』にアナウンスが表示される。
ステージ5 モンスター ミナスが出