ルール (xix)
教室中の視線が天祀に向けられる。居心地悪そうに跳ね返して彼は続けた。
「先生は体を張って俺を助けてくれた。あんなでかいのにふっ飛ばされたら今ごろどうなってたか。それに先生、最期にすまなそうに謝ってた」
担任を擁護する天祀に、多数の生徒が鼻白んだ。
「自分が助けられたからってお人好しすぎない?」「もとはといえば枡田がやったことなんだよ」「そうそう。あいつのマッチポンプ」「不良がたまにいいことしたらすごい評価されるやつ」
それそれ、枡田って不良って柄じゃなくね、むしろ不良にカツアゲされるがわ、などとやいやい言いはじめる。
「なにか事情があるんだよ」天祀は言ったが「どんな事情だよ」「こーゆーことをしていい正当な理由があるなら教えてくださーい」「19字以内で理由を述べよ」と非難轟々だ。
天祀とグループの征従と真砂鉉、クラス委員の環が擁護するも多勢に無勢。今や枡田はクラスの共通の敵と認識されつつあった。教室はざわつきをとり戻していく。
「枡田先生って、もともとちょっと変わってるとこあるよね」「『弧独』にこだわりがあったり」「出た、弧独」「『子偏の孤独という言葉は好きじゃない、弓偏の弧独という言葉を使うようにしたい』」
担任の口まねをする楠麻鳥を、紂文久が、似てねー、と冷やかした。
「弧を描くように伸びやかで、ただ独つの存在だとかなんとか。そんな言葉あるんだと思って検索したら、マスティーのツイッターとブログしかヒットしないし」
しかもフォロワーほとんどいないし、さすが「孤独」の枡田、寂しいほうの、と山崎壱夫が茶化す。委員長の九十九が「そういうことを言うのは先生に失礼だよ」とやんわりいさめたが、まじめか、のひとことで一蹴された。
「古典の久古先生に注意されたらしいよ。個人的な造語を生徒に吹き込まないように、って」「なにそれウケる」「でも、使うのやめなかったよね」「久古先生、ガン無視じゃん」
平方紅亜はけたけた笑ったが、陣羽真帆は少し改まった態度をのぞかせた。「死んじゃったんだよね……先生」