ルール (iii)
クラスの怪訝な顔つきは強まり、手もとの端末を確認する者、そんなもの今はどうでもいいと突っぱねる者とさまざまだ。
「私、ずっとこの『プリムズゲーム』をチェックしてたんだけど――」「副委員長としての責任感ですかー」
環の話をさえぎるように、船井夏恋が茶化す口調で言った。まじめに聞いて、とクラス委員は動じない。「場合によると私たちも死ぬかもしれないことなんだから」
張りつめた面もちの彼女に、ほかの生徒は穏やかならざるものを感じとった。「死ぬ」というキーワードは、遠目ながらも目撃した惨劇と、目の前で当事者となった3人の男子の話から、じゅうぶんなインパクトをもって彼らに伝わった。
環は自身の端末を操作しながら「アプリの下のほうにあるヘルプを開いてみて」と指示する。クラス委員が仕切って、などとは誰も言わなかった。いろいろな疑念のこもったまなざしで、各自のアプリを操る。
プレイヤーの一覧、モンスターの状態、ランキング、アイテム、剣技、魔法など各種項目の最後尾にヘルプがあった。
アプリをじっくり見た生徒はあまり多くなく、多少チェックした者も、ながめたのは武器などの興味深そうなものばかりだ。ヘルプによくよく目をとおしたのは環以外にほとんどいなかった。
そんな彼らを驚かせるほどの文量で、その子細な「ルール」は用意されていた。
個人が用意したとにわかには想像のつかない規模で、「ゲーム」に関するあらゆる事項がことこまかく記されている。微に入り細に入り。まるで商業ゲーム並だ。
文量もだが、真に驚くべきはその内容だった。
読み進めるうち、しだいに教室内がまた騒がしくなりはじめる。
「……んだよ、これ……」「え、マジに……?」「冗談……だよね?」