犠牲者 (xxxvii)
ぼんやりと開かれた目がもはやなにも見えていないのだと、3人の男子生徒は受け入れるよう迫られる。
「先生っ、先生っ……!」
「おい、嘘だろ……? し、死んじまった……?」
とり乱す天祀と放心する真砂鉉に、征従が「もうじき救急車が来る、心臓マッサージとかで生き返らせんだ!」と怒鳴った。
枡田の脇に膝をつくと胸部に体重をかけ、見よう見まねの蘇生術を施す。
「真砂鉉っ、心臓マッサのやりかたネットで調べろ。天祀っ、おまえはアプリに蘇生かなんかの魔法がないか探せっ」
うろ覚えで教師の胸を圧迫しながら征従は指示をとばした。今まで盤上で追い込まれたどの難局よりも目まぐるしく、音をたてて脳がフル回転していた。
普段、3人のなかでなんとなくリーダー的ポジションに収まっている彼は、自分がしっかりしなければと奮いたった。
「俺、スマホが見つから……あった、あんなところに」
辺りを見回して天祀が端末を拾いにいく。もたつく親友に征従の焦燥は募る。
くそっ、やりかたこれであってんのか、保健の授業でコンドームがどうとかのページばっか見ずにちゃんと聞いてりゃよかった、たしかダイダイが看護の専門行くとか言ってた、あいつらに聞けば――
妙なあだ名をつけられている大偶いぶきと大原珠子、ふたりの女子生徒を選択肢にのぼらせつつ、蘇生方法を検索させた真砂鉉をちら見する。
相棒はなにかほうけた顔でたたずみ固まっていた。端末を見つめる手は止まり、調べものをしているようには見えない。一刻を争っているときに。
「真砂つ――」声を荒らげようとした征従に、友人がぼそりとつぶやいた。「アプリに、出てる……」
「出てる、ってなにがっ?」ヒステリックに聞き返した彼とは対照的に、真砂鉉の声色は力なく、不吉な響きに満ちていた。
「先生……………死んだって……」
真砂鉉の差し出す画面、『プリムズゲーム』のシンプルなインターフェイスに、担任の名前が表示されていた。
枡田数素 死亡 享年37歳
征従は手を止め、端末を見つめた。「なんだよ……これ」