チュートリアル (liii)
枡田は教室を見上げ携帯端末で「プリムズゲームはこんな感じだ。雰囲気をつかんでもらえたかな」と言った。
「なんかすげえおもしろそう」「俺、やってみたい」「俺も俺も」「男子ってこういうの好きだよねー」「まあ、見てるぶんには楽しいかな」それぞれの感想が並ぶ。
副本実希与などの内気な生徒も浮かされているようで、上々の手ごたえだ。枡田は満足げにうなずき生徒に水を向ける。
「もうじき次のモンスターが出現する。やってみたい人は?」
はいはいはい、俺やる、俺やりたい、と威勢のいい男子たちが名乗りをあげる。
「じゃあ3人、参加してもらおう。丹下と西院と湖西、みんなにお手本を見せてやってくれ」
「やりっ!」「うっしゃ!」「えええー。せんせー、俺もやりてえー」「俺も俺もー」
選ばれた生徒とそうでない者の悲喜こもごもが携帯端末から聞こえた。
窓ぎわを離れさっそく教室を出ようと勇む彼らを枡田は制する。「歩いて降りてくる必要はないよ」
枡田の手中から悲鳴、あるいは悲鳴に似た騒ぎが伝わった。
グラウンドに複数の光が生じる。薄いブルーの内側のそれぞれに人影が見てとれた。モンスターや枡田と同じように、3人の生徒たちが光球からいでる。
「うおおっ、ワープした!?」「すっげえええっ!!」「おいマジかよ、どうなってんだこれ!?」
彼らは生まれて初めての体験に大騒ぎだ。きょろきょろと校庭を見渡し、数秒前までいた5階の窓を仰ぎ、地面を踏みつけて、自分たちの身に起こった現象を確かめる。
「やべえっ、俺、上履きじゃん!」「この事態に冷静かよっ」「みんなーっ、俺、なんかワープしたー!!」「先生、質問! 先生はアニメとかの異世界人的ななんかですかっ?」
興奮する教え子に、枡田は、僕はただの数学教師だよ、と苦笑した。頭上の教室からもきゃあきゃあと声が降っていた。
笑みと少しの真剣味を交えた顔で担任教師は伝える。「さあ、来るぞ」
《毎日、更新中》




