チュートリアル (xliii)
「じゃあとりあえず、距離は5kmにする?」「片道で? それだと行きの時間は計算しやすいけど、帰りは5/3でちょっと計算しにくくない? 5と3の倍数にしようよ」「なら片道15km? 遠っ」15kmも走ったらマスティー、死んじゃうよー、と笑う古賀音色に、本人が「聞こえてるぞー」と冷静に突っ込む。音色はちろりと舌を出した。
「行きが時速5kmで走って15/5=3時間。帰りが時速3kmで歩いて15/3=5時間。合計8時間、往復30km」それなんの苦行、8時間て、30kmて。けらけら笑いながら計算する。
「30/8=……誰かスマホで計算してー」と左木円月が言うと、用意のいい天戸羊が、言われるまでもないとばかりに結果を読みあげた。
時速3.75km。行きの時速5km、帰りの時速3kmの単純な平均とは異なる答えに、多くの生徒が意外そうな顔をみせた。
本当にあってるのこれ、と疑う声が少なくない。念のため、いくつか距離を変えて試した。結果は変わらなかった。
「先生、答えが出たよ」磯垣空架が呼びかけた。
むくり、と何度めかわからない回復を遂げ、起き上がるプルスから目を離さず、枡田は伝えた。「さっき言ったとおり、解答は黒板に書くと有効になる」
臨戦態勢に入るプルスに先んじようと、漂木隼冊が黒板に駆け寄りチョークをひったくった。
「3.75km/h」と乱雑な字で書きつける。機転をきかせて単位を「km/h」とすばやく記述した。
瞬間、ウサギの前面に、薄青いガラスのような壁が浮びあがり――
ガシャンッ
盛大に四散した。
硬いものの砕ける音が、端末のスピーカーからだけでなく直接、5階の教室にまで届いた。飛び散った青いかけらは宙に溶けて消えた。
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