チュートリアル (xi)
枡田が消えた。
「えっ!?」「きゃあ――!!」「なんだあっ??」「なにこれ!?」
今度こそ教室は騒然となった。
グラウンドに「ウサギ」が出現したときとちょうど逆だ。担任教諭は、同様の青っぽくて白い光に包まれたかと思うと、すみやかに、宙へ溶けるように姿をくらませた。輝きのあとには枡田の影も形もなかった。
あれ見ろ、と八ツ橋禅がよく通る声を張った。再びクラスの注目が窓の外へ向けられる。うそっ、マジかよ、とそれぞれが自身の目を疑った。
グラウンドのなかほど、巨大なウサギの付近。ほんの今しがた、衆人環視のなか、煙のごとく教室から失せた担任が立っている。
次から次へと起こる現実感を欠いた現象。おかしな夢を見ているとしか思えなかった。あるいは担任の言う仮想の世界に紛れ込んだのか。
枡田は、そばでじっと見すえる巨大ウサギを気にもとめず、教室に向かって片手を振った。携帯端末を掲げている。そこで、鳴りっぱなしの、環の端末に皆の意識が戻る。
「電話にでろ、って言ってるんだよね」ぼそりと山崎壱夫が言った。
何人かが環を見た。彼女は彼らを見渡し窮した。電話が鳴りやむ気配はない。通常であればとっくに留守電に切り替わっているはずだが、わけのわからないことがたて続けに起きている今、些末ごとでしかなかった。
騒々しい着信音をいつまでも放置できない。
席に戻り、鞄から端末をとり出す。スクリーンには枡田のものらしき番号が表示されていた。
切断して着信拒否の番号に登録しようかとも考えたが、やめた。暗黙のうちに、彼女には電話にでる義務が生じていた。一方的にではあるが、状況の進行の一端をになわされている。
クラス一のきまじめな性格が、彼女に「応答」の2文字をタップさせた。
「もしもし――」
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