チュートリアル (v)
「じゃあこうしよう。ここは君たちが大好きなVRMMOの世界なんだ」
担任の明るい提示に、澤寅が「はあ?」とすっとんきょうな声をあげた。「『じゃあ』ってなんなんすか」
身長こそともなわないものの、その名が体を表す威勢のよさで食ってかかると、日ごろから彼に追従する内巾絲が「明らかに今思いついたでまかせですよね、それ?」と同調する。
彼女と同じく、どちらかといえばおとなしい部類の子たちも不信感をにじませており、口さがない生徒の当たりはもっと強い。数学教師は計算違いに少しばかりのあせりを押し隠さなくてはならなかった。
「まあ、聞くんだ。ここは仮想世界のなかだ。現実とは異なる法則の支配する世界なんだ」
枡田はなだめる手つきとともに説明を続けるが、「そういうのいいですから」「ちゃんとまじめに説明してください」と聞く耳を持とうとしない。
勝ち気な層を中心に苦情が相つぎ、押し黙っているのはD組の無口トリオの須磨総和、春日積、難波瀬織ぐらいだ(もっとも、最後の1名ははなから無関心で、ひとり席についたままなのだが)。
「とにかく聞いてほしい。ここは君たちの好きなVRMMOと同じように、普通じゃ味わえない戦闘を体験できる」
騒動を鎮め好奇心に訴えかけようとする枡田の試みもむなしく、火に油。
「なんで、僕らみんなVR好きって前提になってんですか」「別にVRとか興味ねーし」「そもそも、それなんなの? 田井良の好きな戦争ごっこ的なやつ?」「FPSイコールVRMMOじゃねえし。つか、戦争ごっこ言うな」――FPSは遊びじゃねえんだよ――おまえ、それ言いたいだけだろ――「VRってのは、なんだっけ、仮想現実? 目んとこに飯ごう炊さんみたいなやつをつけてやるゲームだよ」「あー、あれ。弟が持ってるバカデカい水中眼鏡みたいなの」「1ミリも興味ない」
枡田は、教え子からの惨憺たる反応にとまどった。どうも思っていたよりもあまり受けがよくないみたいだ。というか誰ひとり乗ってこない。というより抗議しか受けていない。あてはずれもはなはだしかった。自分が彼らぐらいの歳だったら飛びついているのだが。今の高校生は現実的なんだろうか。
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