和解 (xvii)
正確には、ひとりだけこのコスプレまがいの経験者がいるにはいる。それも今日、先ほど体験したばかりのほやほやの男子生徒が。
「うおぉおわあっ?」
午角力が、マッサージチェアで初めて尻の揉みほぐしモード(強)でも体験したかのような情けない声と姿勢で、地上から数十cmほどへ浮き上がっていた。彼を囲む一同も、おお、と感嘆の声をあげる。浮遊能力を付加する靴の効力だ。歩行困難のステータス異常の力を救済し、また、虎のリーチの範囲外から弓で攻撃するという、守勢から攻勢に転じる作戦だ。
「気分はどう?」1mほどの高さに上昇した力に、天戸羊が感想を尋ねる。
「どうもこうもねえよ。なんかふわふわしてて落ちそうで怖えーって、これ」
「なら俺によこせ。つーかギューカク、一瞬でいいから試させて」
澤寅にねだられて「おもちゃで遊んでるわけじゃねえから」と1.5m程度の高さからおっかなびっくりの体勢で抗議。
「いーなー。あたしも飛んでみたいー」
うらやましがる市川あまねは「この2mぐらいの高度でもうパンツ丸見えだぞ」と冷ややかに頭上から返され「あっ」とスカートを押さえた。
皆、忘れているふしがあるが、現在、ステージの真っ最中であり、数十m先で不穏当な生き物が待機状態である。先ほどまで全員、足が震えていたのはなんだったのか。
「思ったんだけど」
地上3mの高度まで上昇し、高いところに乗せられた犬のようにへっぴり腰の力の姿に、三宅まどかが言った。「その靴があれば、ギューカクを教室に戻して誰かと交代できるんじゃない?」
提案に、プレイヤーだけでなく教室のサポーター勢も「あっ」「ほんとだ」と反応する。
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