ホームルーム (v)
本物の、というところに力を込めて、彼は教卓へ前のめり気味に生徒を見渡した。
スマホゲーでもやるんですかー、と西井銀がやや小柄な体をそらせ、冗談めかして挙手する。いいねそれ、俺、『ハンティング・オブ・ザ・モンスターズ』やりてー、などと生徒たちが笑った。枡田はにこやかに「もっとおもしろくてスリルのあるゲームだよ」と言った。
「マス目のなかに数字を入れていって、どこから足しても同じになる、みたいなあれですか?」
左木円月が、いかにも高飛車でお嬢様然とした目を、つまらなそうに細める。
「なんだ、そういうのかよ」「うわー、くっそおもしろそー」「すげースリルあるわ、それ」「オラ、ワクワクしてきたぞ」「導関数がどうとかよりよっぽどましじゃん」
悪乗りするほかの生徒たちをいなして、枡田は「左木さんが言ったのは魔方陣だね。それもけして悪くない知的遊戯ではある」とうなずき、しかし、両手を広げ否定する。「これはもっとわくわくするような最高のゲームだよ」
普段の淡々と、無味乾燥に授業を進める枡田にしては妙に熱っぽい語り口だった。眠たげに話半分でいた生徒も、次第に関心を示しはじめた。