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ホームルーム (ii) ――― h / r
枡田数素は、旭原高校の数学教師である。今年はこの3年D組のクラス担任を受け持っている。
「丹下」「へーい」「西院」「うーす」「湖西」「はいっす」
朝、始業前のホームルームで出欠をとる。気だるげな返事が順番にあがる。今日も欠席者はなし。
「朝からおまえたち元気がないぞー」
枡田は、眼鏡の奥の目を軽く細め、笑顔で呼びかける。
「今日は1時間目が数学だからだと思いまーす」
あさってのほうを向いて口さがない生徒が言った。そこかしこで「朝っぱらからだりーよなあ」「朝イチと午後イチの数学はマジ眠すぎ」とぼやく声があがる。枡田の授業は生徒たちから「難しすぎる」と評判が悪かった。
授業の範囲は無駄に広く、指導要領を平然と逸脱し、教科書に書いていない内容を容赦なく詰め込ませる。ほとんどの生徒は気づいていないが、大学レベルの知識を問うのはざら。年中無休の柔和な表情と物腰とは対照的な極悪ぶりだった。