旭原高校 (v)
事件当日の朝。
まもなく当事者、それも被害者となる生徒たちは、その多くが二度と生きて帰宅できないことも知らず、いつもと変わらない様子で、
今度の日曜にヒカリエへ遊びにいこうよと友達を誘い、
遅くまで深夜アニメを見て大あくびをし、
お気に入りのグループの曲を大音量で音漏れさせ、
レアアイテムの入手のためワールドを渡り歩き、
クラインの壺とメビウスの帯の魅力を表す最適の措辞をめぐらせ、
先輩と同じ大学へ進学するには厳しい模試の結果を憂い、
亡くなった祖父母が今朝、夢枕に立ち母親が皿を落として割り父親の靴ひもが切れて近所の電線に見たこともない大量のカラスが止まっていて黒猫に2回横ぎられたと友達に話し、
それヤバすぎない、なにそのベタな前触れ、と笑いあって、
それぞれが登校し、死の入り口たる校門を、昇降口を、教室の出入り口を、越えた。
けして、絶対に、なにがあろうと越えてはならない一線を、それと知らずに。
地獄の扉が、担任の手によってスライドし閉ざされる。
悪夢の始まりを告げるチャイムが嗚る。
もう、誰も、この教室から、
逃げられない。