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探師-異形を追うもの達-  作者: カクマル
一章 探師
1/3

-1-舞踏会の知らせ

 「踊りましょ?」


目の前の女性は楽しそうに踊る。音楽が奏でられる中で何度も服装が変わり彼女を見ていても飽きないなと思う。たくさん踊り、時間が過ぎ去っていくなかで違和感を覚えた。


何処からか血が垂れていた。彼女の足下に垂れていた。


怪我してるの?

聞いても答えは気にしなくて良いよと一言だけ。


繋がれた手をふと見つめた。綺麗な手だった。何人もの人を魅了し何人も‥殺しているような手に見えた。


そう感じていた時、再び垂れていた血が目にはいった。

先程とは違い血が床に続いていた。

それは僕の首から流れていた。彼女の顔はどこか悲しげで―




 *********


 目を覚ましたときには通知係からの依頼書が机に刺さっていた。毎回器用に置いてある。

 依頼の報告書を上げて中2日で依頼が刺さってるのは労働環境的に危ないと思う。休暇で音楽の街と言われているミューンの外れの宿に着いた所なのに‥木造の建物の前では簡易的な設備で音楽会が行われて心が落ち着いてとても良い。

 このリズムで依頼書も読んでみよう。悪い事ばかり書いてないかも知れない。実は休日のお知らせというのも前例ではあった。


 依頼書の中身はいつも通りの依頼だった。休みの通知ではなかった、休暇地として選んだミューンが任務地だった。合流する探師のために情報を集め、異形を倒せ。

 簡単にいうとこんな内容だ。

 異形について分かってることは非常に少ない。種類は多く、人を殺したり食べたりする、そして領域を作る事ぐらいだ。ただの獣でもない。非常に厄介極まりない化物どもを処理する専門職を総じて『探師-さがし-』と呼んでいて自分もそれだ。


 異形は異なる世界から、この世に現れ自分の領域-異点-を作る。異形が力をつけ領域を変質させると迷宮とよばれる物に変わる、この厄介さは体験しないと分からない。いや、もちろん体験したくはないが。

 無口でジト目な相棒を軽く撫で朝食を食べ終えた後、この依頼がでる事になった一般側の依頼者に話を聞きに行くことにしよう。

 そう、休暇地(予定)だったミューンヘ。



「貴方が探師さんですか?」


 依頼者が居ると書いていた楽器工房に彼女はいた。赤毛の美人さんというのが印象だ。この仕事をしていて比較的可愛い、美しい女の人に会えるのは数少ない利点だ。


「僕の名前はガルム‥探師です、よろしく。」


 依頼書を片手に情報の確認、依頼書から漏れてる情報が無いかという作業を行う。この仕事をしていると腕っぷしで解決していくと思われがちだが基本的に事前に情報は整理した上で脳筋の人も動いているから手を抜けない。異形と出くわしても何度も生き残れるとは限らない。


「私の友達が行方不明になったんです。

  元々音楽や踊りが好きな男の人で。最近は仮面舞踏会に出てみようかなって‥躍りも好きだからありだよね~って楽しそうに。」


「へぇ~仮面舞踏会があるんですね。

  友達が消えたのもその日とか?」


 最悪を想定して聞いてみた。仮面舞踏会は大体規模がでかい。そこに異形が隠れてるなら選別するのも一苦労する。違っていてほしい。


「いえ‥開催の一週間くらい前に慌てて舞踏会の用意を持って出ていったんです。彼の家から5分もかからない所で本来あるはずの舞踏会に。

 その時は覚え間違ってるのだろうと深く気に止めなかったのですけど‥こんな事になってて」


 彼に異形は目をつけていたのか?イベントごとの通知なら日時は確り書いているはすだし慌ててなんて違和感しかない‥なんで男は異形と出くわすキッカケがあったのだろうか‥最初から力で殺していくタイプじゃない、知力があるパターン‥面倒だ、他の探師に丸投げしたい。

 音楽が身近の街だから舞踏会に紛れるとか‥舞踏会の予定が月30以上もあるミューンで。

 通知係許さねぇ、こんな依頼を投げて。




 食堂は歓声に溢れていた。飲んで歌って賭け事の結果に一喜一憂している。汚い鎧姿の人がいたり綺麗な正装を纏っている男の人もいる。だが殆どの人間の共通点としては剣、銃火器、その他色んな武器を身に付けている事。

 そう、ここは探師が多く使っている食堂らしい。探師は様々な拠点があり、全員の顔を知ってるなんて基本的にいない。内勤の受付員くらいだと思う。まぁ‥今の世の中武器に出来るものを持たない人の方が一般人でも少ないだろうけど。


「イケッ!!そこっ!!あ~違う!!」


「お嬢ちゃん‥10連敗なんだから止めたら?」

 

「11連敗するとは限らないでしょ!?次!」


 灰色の髪の見た目はお嬢様。10代半ばくらいの女の子が槍と細身の剣を持っているのは不思議に感じるかも知れない。何も知らなければ。

 彼女の腕には太陽の中に三日月模様が有るような腕章がついていた。そう彼女も探師だ。

 探師は人によって腕章が違うが共通模様は有るのでそれは確認方法として分かりやすい。

 まぁ探師はまともな奴は少ないから何れ分かるってのもある。これは付き合いが長くなる探師同士でないと分からないとは思うけど。


 探師は年齢制限は基本ない。どのような手段であれ異形を倒す。またはその他の依頼をこなす能力があればなれるのだ、探師には。

 命の保証は無いが。


 探師は異形と関わる間に『起源』(ルーツ)を身につける。生きとし生きる者は自分の原点に近い何かを求めるらしい。記録によると探師は異形と関わる事が増えていくと同時にその力を発現するようになったのだと。身体能力、戦闘力が高ければ良いが、それが低くても『起源』があれば生き残り易くなるからだ。つまり彼女は強い。

 ほぼ同じ時期に探師になったが年齢からは考えられない戦闘力に魅力的な起源もある。僕と違って。


「ガルム!!金貸して!!」


 灰色のお嬢様はついに20連敗し、それでも尚遊びたいらしく見つけた同門に金を借りようと来た。未だに全額返済された事はない。25%くらいで返済が止まるのが常だ。師匠の悪影響だね。


「リン諦めて。金貯めたほうが良い」


 知っている顔を見れたのは良かったがコイツを相手しているよりも任務を丸投げ出来そうな探師と合流するのが先だと。


 彼女の手を見ると皺くちゃな依頼書がある。

 依頼書‥依頼書だ。何だろうか、似てる。


「‥任務手伝わないぞ」


 脳筋な彼女だが‥全力で乗っかろう。

 戦闘力は僕より上なんだ。悪いやつじゃない。

 頼み込んでいる顔は普段より可愛らしい。

 これを僕の御褒美と思ったら耐えれるかも。


「今回だけだからね?」





 僕はこの日財布の悲鳴を聞いた。





「ねぇ、異形はどう?見つかった?」


「そんなすぐ見つけやすい奴じゃなさそうだし、まぁあれかな、音楽に関係してるだろうって事くらいかな。」


「情報担当なのにそれだけ?

  しっかりした方が良いよ?」


 探師の中でも腕っぷしが強い奴は情報担当の扱いが荒いのだ。かといって適当な情報を流すと怒られるし部屋に異形の死体投げ込んできたりするのが当たり前なのが探師(やべーやつ)なのだ。自分で調べたら良いと思う。


「起源は不向きだし、能力的にも無いからガルムに全投げしてるんだよ?」


「自然に心を読めてるから大丈夫、出来るさ」


 やはり彼女はレベルが違うのだろう。

 探師も能力が高くなると人間離れする。

 そこには天才と呼ばれる者達しか残らない。



 人は異形と戦う後に人から離れていることに気づき孤独を感じ、狂いを生じてしまう。

 だから人は起源を得るようになり、一定の繋がりを持ち続けようとしているのだろう。


 師匠の言葉である。



 ****



 相棒が震えていた。

 手乗りサイズの相棒はある条件下で震える。

 嫌な感覚を朝から感じて気分は下降気味だ。


 泊まっていた宿の部屋から出て朝御飯を食べるために机で待っていると外から声が聞こえた。

 三人の男達は何処から歩いて来たようだ。


「何なんだよ‥あんな所に‥人間なのか?」


「人間だろうけど‥酷いな‥」


「うぇっ‥手足が曲がりすぎだろ、逆向きだ。

 あんなの人のやり方じゃねぇだろ」


 宿から歩いて十分くらいの場所。

 音楽を奏でれるピアノがある小屋がある。

 資材置き場にも使われるらしい。

 そこの資材に体を貫かれた死体があった。

 両手足は逆向きに向いて骨が見える。

 大量の血を含んだ資材は少し膨らんでいる。

 そんなふうに見えた。


「毎回吐き気する事件ばっかだ。

  警備隊とかで対処しきれないのだろうけど。

  もっと笑顔で取り組むタイプが良いって。

  僕は不向きにしか思えない」


「情報担当は好き嫌いは禁止」


「好き嫌いは僕の権利だよ」


 槍を抱えたリンが僕を覗き込んでいる。

 相変わらずのお嬢様な服装だが下には軽い鎧も着けていて、防御面も確りしている。


「教会所属の探師が‥師匠も泣くよ?」


「師匠から戦闘技能とか習ってないし。

  リンと僕とは最初から指導内容違うじゃん」


「まぁガルムは補助役(サポーター)だし。」


 そう、僕は補助役‥基本的に戦闘で攻撃をメインにする事は少ない。個人でやるなら別だが。

 チームを組むと裏方に回る。

 この役割は純粋な戦闘や技術の能力と身につけた起源によって変わってくる。


 例えば彼女は『(サソリ)』『戦士』『火種』

 という3種類身に付けている。

 起源は1種類しか使えないという縛りはなく、1種類だと弱いともいえない。

 起源の能力をどこまで伸ばし扱えるかだ。

 それが明日の生死に関わる。


「ナキャップが反応してるなら異形が関わっているのは間違いないわけだし。

 貴方の起源が産み出したんだから。

 私は素直に信じておくけどね~。」


 正面から誉められた僕は少し照れくさくなって顔を横に反らしてしまった。

 ただ、相棒への感謝を伝えなきゃいけないなとも思ったのでユックリ撫でた。



 

 腕章が探師の在り方を示している。

 日が上がっていても、月が明かりを照らすような時間帯であっても。異形を倒し、生存者、または死者の証を探していく。


 探師(さがし)英雄(えいゆう)ではない。


 あくまで探し続けるだけなのだ。

 人が人である間に。

 命が消えてしまうその前に。


 相棒を撫でながら小屋を出て、辺りを捜索していた僕達だがその日は他に何も出なかった。


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