❗3.海 4 〜 海賊船 1 〜
ジェリエンツが必死に漕いでいる船は、遠くに見える大きな船に向かって進んでいた。
マオ
「うわぁ〜!
大きそうな船をだなぁ。
あれってさ、〈 海賊 〉に襲われて、奪われた船かな?」
セロフィート
「そうかも知れません。
〈 亜人種 〉が船を操縦出来るだけの知力を持ち合わせているのか、元々船に乗船していた者達に操縦をさせているのか、分かりませんけど…」
マオ
「こんだけ距離があると≪ 港町 ≫から出航した船なのか、≪ 港町 ≫から出航した船なのか、分からないよな…」
ジェリエンツ
「船底が赤色なら≪ 港町 ≫から出航した船ですよ。
船底が青色なら≪ 港町 ≫から出航した船になります」
マオ
「へぇ、≪ 港町 ≫に依って船底の色が違うんだな〜」
セロフィート
「ある程度、船に近付いたら櫓を壊しましょう」
ジェリエンツ
「えぇっ?!
壊しちゃうんですか?!
何でそんな事を……」
セロフィート
「遭難者と思わせる為です。
櫓を壊したら、ワタシが詩歌を歌います。
ジェリさんは船に向かい白旗を左右に大きく降ってください。
マオは両手を元気良く、左右に降ってください。
遭難者である事を2人でアピールしてください」
ジェリエンツ
「白旗って……。
何処に白旗があるんですか?」
セロフィート
「作りました。
少し汚れてる方が遭難してるっぽく見えません?」
毎度お馴染み〈 テフ 〉を構成して作ったのだろう──とマオは思う。
マオは何時もセロフィートによる『 思い付き作戦 』に振り回され、言葉では語り尽くせない程に散々な苦労をして来ている事もあり、ほぼほぼ慣れてはいるが、何故だか巻き込まれてしまったジェリエンツにとっては迷惑千万に違いない。
本来ならば、船を手配し、船を必要としているセロフィートとマオへ用意しておいた船を渡して、サヨナラバイバイする筈だったのだ。
其がどうした事か、あれよあれよと言うままに船に乗せられ、船頭の代わりに船を漕がされ、今度は海賊船に向かって白旗を振る様に言われている。
堪ったものではないだろう。
全く以て関係無いにも関わらず、同行させられている此の現状に心底迷惑しているに違いない。
ジェリエンツにとっては『 諸悪の根源 』と言えるであろうセロフィートは、慈母神の様な笑顔で、白旗をジェリエンツに手渡す。
マオ
「…………海で遭難した事ないから分からないよ。
ジェリさんはどう思う?」
ジェリエンツ
「ど…どうと聞かれましても…。
自分も遭難の経験がないので……」
セロフィート
「そろそろ、櫓を壊しましょう」
マオ
「本当に壊しちゃうのかよ…。
気付かれなかったらどうする気だよ…」
セロフィート
「ふふふ。
安心してください。
気付いてくれます」
セロフィートに言われたマオは、セロフィートの言う通りに「 えいやっ!! 」と櫓を壊した。
此で2度と櫓は使えず、船は漕げなくなった。
セロフィートにしてみれば、破壊した櫓は瞬時に元通りに出来るのだから、何の問題もないのだが。
セロフィートは櫓が壊れたのを合図にしたのか、アカペラで詩歌を歌い始めた。
セロフィートの口から紡がれる詩歌の歌詞の意味は、マオとジェリエンツにはサッパリ分からなかった。
何故かと言うとエルゼシア語ではなかったからだ。
聞いた事もない知らない言葉で歌われる詩歌は、不思議な感じがした。
ジェリエンツはセロフィートの歌声に聞き惚れており、夢心地な気分でいた。
〈 漁師 〉を惑わせる〈 人魚族 〉も思わず聞き惚れてしまう程の罪深い歌声だった。
一体何処から、そんな美しい歌声を発する事が出来るのだろうか。
マオ
「──ジェリさん!
聞き惚れてないで旗を振らないと!!」
ハタ──と気付いたマオは、歌声に惚けているジェリエンツの右腕を掴んで何度も強く揺さぶったが、ジェリエンツは正気に戻らない。
致し方無く思ったマオは、ジェリエンツが握っている白旗を奪うとジェリエンツの代わりに《 海賊船 》へ向かって白旗を懸命に振りだした。




