────さて、皆さん。
マオの身に何が起きたのか、お分かりいただけただろうか?
《 酒場オムニア 》で起こった惨殺事件を引き起こしてしまった真犯人は、誰でもなく、お酒を飲んでしまったマオである。
マオはクラッドウォウノと話した後、お酒を飲まず、3階の部屋へ戻り、眠った──という偽りの記憶にセロフィートが改竄した。
マオから発せられていたフェロモンに惑わされ正気を失い斧を振り回していた〈 冒険者 〉は、《 酒場オムニア 》に居た常連客を惨殺した犯人として、セロフィートから記憶の改竄をされた。
セロフィートは今回、クラッドウォウノを助ける事にした。
宿泊する部屋を提供してくれたから、見逃してあげる事にしたのだ。
此が本当の『 情けは人の為ならず 』である。
命拾いしたクラッドウォウノも勿論、セロフィートによって記憶を改竄されている。
マオにカクテルを作り、飲ませた記憶と、斧を構えて来店した〈 冒険者 〉を目撃した後の記憶が、ごっそりと改竄されている。
マオを完全なる被害者にする為だ。
《 飲食街 》でマオと離れたセロフィートは、彼のチャラい5人組から〈 旅人 〉や〈 旅行者 〉が頻繁に〈 魅了魔法 〉を悪用した傷害事件に巻き込まれている事を聞いた。
《 酒場オムニア 》でマオが、お酒を飲んでしまった事を知ったセロフィートは、〈 魅了魔法 〉を悪用した傷害事件を利用し、便乗する事を思い付いたのだ。
セロフィートは、マオ,クラッドウォウノ,犯人の記憶を都合良く辻褄が合う様に改竄し、〈 魅了魔法 〉傷害事件と結び付けたのである。
記憶の改竄をする事は、セロフィートにしてみれば至って容易な事だった。
〈 古代魔法 〉を使えば、朝飯前のチョチョイノチョイの新右衛門さんなのだ。
マオには『 記憶をどうこうする事は出来ない 』と言ってはいたが、出来てしまうのがセロフィートだ。
最後の仕上げは、〈 旅人 〉や〈 旅行者 〉に〈 魅了魔法 〉を掛けた愉快犯の1人の記憶を改竄してしまえば良いだけだ。
そう、《 港 》に停泊した船から降りて来たマオに目を付け、〈 魅了魔法 〉を掛けた──という記憶の改竄をするのだ。
そうすれば、マオは完全な被害者となるからだ。
多くの被害者を出している〈 魅了魔法 〉傷害事件は、多くの犠牲者を出した《 酒場オムニア 》惨殺事件の真実を隠蔽する為、セロフィートに悪用されるのだった。