❗2.宿泊室 3 〜 本を読もう 3 〜
セロフィート
「召喚は失敗してます。
何も召喚されてません」
マオ
「…………そんな…。
……後味の悪い物語だな…。
3つ子はどうなるんだよ?
父親を殺した竜と〈 創世の魔法使い 〉を恨まないのか?」
セロフィート
「どうでしょう?
3つ子を引き取った所で物語は終わってます。
続編もない様ですし…。
『 読者にお任せします 』的な終わり方ですね」
マオ
「…………竜が報われないよ…」
セロフィート
「竜視点で読めば、そう思うでしょうね」
マオ
「竜視点??」
セロフィート
「此の物語は、前編,中編,後編に分かれてます。
前編は〈 勇者 〉視点の世界を救う為の冒険物語として書かれてます。
中編は〈 勇者 〉達が必死に戦い救われた筈の世界が荒廃して行く中で、世界を救った〈 勇者 〉が “ 鬼畜勇者 ” となっていく経緯と “ 鬼畜勇者 ” が行う数々の諸行についてが書かれてます。
中々過激な内容となってます。
後編は『 とある計画 』を実現させる為、鬼畜勇者に連れ去られた〈 竜巫女 〉を救う旅に出る竜視点の物語が書かれてます。
〈 竜巫女 〉の救出は叶いませんでしたけど…」
マオ
「へ、へぇ……。
3部作なんだ…。
通りで分厚い本だと思ったよ…。
──じゃあ、セロがオレに聞かせてくれたのは後編の部分なんだな?」
セロフィート
「そうです。
後編は少々ディープな内容が入ってます」
マオ
「そ、そうなんだ?」
セロフィート
「此の物語の真の黒幕は、竜に協力した〈 創世の魔法使い 〉ですし」
マオ
「はぁぁ?!
〈 創世の魔法使い 〉がラスボスなのかよ??」
セロフィート
「そうです。
作中には読者へ匂わせる程度にしか書かれてませんし、1度読んだぐらいでは気付けません。
回数を重ねると、真の黒幕──世界の敵が、〈 創世の魔法使い 〉である事に気付きます。
鬼畜勇者は、悪ではなく〈 創世の魔法使い 〉の被害者であり、犠牲者である事にも気付きます。
そうなると『 鬼畜勇者 』と言われてでも、世界を救う為に、どうにかしてでも〈 創世の魔法使い 〉を殺したかった “ 悲劇の勇者 ” が主役の最後迄報われなかった悲しい物語──という見方も出来ます」
マオ
「お、おぅ……」
セロフィート
「後編の主役は竜ですから、鬼畜勇者は悪を強調する悪者として悪意を込めて書かれてますし、〈 創世の魔法使い 〉は主人公の竜を手助けする善人として書かれてます。
色々と小難しい物語ではあります。
面白いのでワタシは好きです」
マオ
「…………オレは遠慮したいかな…」
セロフィート
「ふふふ。
やっと絵本を最後迄読み終えれる様になったマオには難しいでしょうね。
──丁度時間になりました。
本の話は此で終わりにしましょう」
マオ
「──あっ、もう17時30分過ぎてるじゃんか。
夕食だ、夕食!!
早く《 食堂 》に行こう!」
セロフィート
「はいはい。
急かさないでください」
セロフィートは閉じた本を《 魔法陣 》の中へ入れると、静かにベッドから腰を浮かせて立ち上がった。
あくまでセロフィートのペースを崩さずにだ。
其の間にマオは、ブーツの代わりに履く為に用意されているルームシューズを履き終えており、ドアを開けた状態でセロフィートを待っていた。
マオ
「セぇ〜〜〜ロ゛ぉ〜〜〜〜!!
おーーそーーい〜〜〜!
早くしろぉ!!」
セロフィート
「はいはい。
マオのせっかちさん」
あくまでマイペースなセロフィートは、明らかに苛々しているマオの様子を楽しみながら、ルームシューズを履き替え、《 宿泊室 》を出た。
──*──*──*── 廊下
セロフィートが廊下に出たのを確認したマオは、すかさずドアを閉めた。
態々鍵を掛ける必要がない為、マオはセロフィートの後に立つと階段に向かって、セロフィートの背中を両手で押しながら歩いた。




