✔ 1.酒場オムニア 8 〜 初・体・験 7 〜
──*──*──*── 3階
2階の階段を上がり、3階に来たマオは、今夜から泊まる部屋に向かって歩く。
其の途中にキィ──と何処かの部屋のドアが開く音がした。
マオ
「 ──?!
誰か居るの?!
クラウノさん……なの?? 」
声を出した後で、ハタ──と気付く。
クラッドウォウノが寝泊まりする部屋は2階にある──という事を教えてもらったのを思い出したのだ。
マオ的にはクラッドウォウノであってほしいが、クラッドウォウノではない可能性も考える。
深呼吸をして気持ちを落ち着けたマオは、慎重に音がしたドアへ向かって歩き出した。
何かが──いや、誰かが飛び出して来たり、襲い掛かって来たら、瞬時に対応が出来る様に用心してドアに近付く。
ドアは半開きになっており、マオの位置からは部屋の中は暗くて見えない。
マオはドアノブを掴み、慎重に用心しながらドアを開けた。
部屋の中はガラン──としており、誰の姿も見当たらない。
マオ
「 誰も居ない…か。
気にし過ぎかな? 」
ドアを閉め様としたマオは、背後に何かの気配を感じ取った。
とっさにドアノブから手を離し、バッ──とドアから離れる。
バキッ──とドアが衝撃を受けた音が耳に入る。
素早く振り向いたマオの視界に入ったのは、見た事のない男の姿だった。
武装をしているのを見ると冒険者だろう。
酒場に酒を飲み来ていた客の1人だろうか?
男は斧を持っていた。
彼が装備している武器は斧なのだろう。
ドアに突き刺さった斧を抜き、軽々と持ち上げた男は、マオへ目掛けて斧を降り下ろして来た。
重量のある斧を軽々と振り舞わせる男は、相当な筋力と腕力を持ち合わせているのだろう。
足腰も鍛えられており、丈夫そうだ。
身軽で小柄なマオは、素早く動き、降り下ろされる前に斧をかわす。
男は我を失っているのだろうか。
顔が赤く、鼻から血が垂れており、口からも涎が垂れている。
鼻息も荒い様に感じる。
マオは嫌な気分だった。
マグダラの言葉が頭の中でグルグルと激しく走り回っている。
目の前の男は、自分の被害者なのだろうか?
自分では分からないが、身体から発せられている──マグダラ曰く “ 狂喜のフェロモン ” とやらを嗅いだ所為で狂ってしまっているのだろうか?
セロが居てくれたら──。
マオはセロフィートの名前を心の中で何度も叫ぶ。
心の中で叫ぶ声なんて、遠く離れているセロフィートに聞こえる訳がない。
其でもマオはセロフィートの名前を心の中で叫び続けた。
目の前の男を殺さなければ、自分が助からないであろう状況に置かれている事をマオは嫌でも理解していた。
然し、其でもマオは、目の前の男の息の根を止める事を躊躇っていた。
自分の所為だからだ。
自分に責任があるからだ。
セロフィートに止められていたにも関わらず、セロフィートの忠告を無視して、お酒を飲んでしまった自分が起こしてしまった悲劇だからだ。
飲んでしまったのは仕方がないとしても、1杯のカクテルだけで止めておけば良かったのかも知れない。
酒瓶に入っていたお酒を飲み干してしまわなければ、こんな惨劇は起きなかったかも知れない。
自分が招いてしまった事件だ。
目の前の男は自分の被害者であり、悪くない。
知らなかったとは言え、大量のフェロモンを撒き散らしてしまった所為で、客達は望まない殺し合いをしなければならなくなってしまった。
無自覚だったとしても大勢の犠牲者を出してしまった以上、自分は責任を取らなければならない。
自分は罰せられなければならない。
マオは抵抗するのを止めようと思った。
自分のフェロモンに狂ってしまった此の憐れな男が、自分を激しく求めているのならば、いっその事好きにさせてしまったらどうだろう──とすら思う。
セロフィート以外から襲われるのも、押し倒されるのも、身体中を触られるのも耐えられないし、吐き気がする程に嫌だが、其の行為が自分が犯した大罪に対して自分に与える罰だと思えば耐えられない事はないかも知れない。
ホラーっぽく書きたい所でした。
ホラーっぽい曲を脳内再生しながら読んでください。




