5.食堂 4 〜 酒が飲めるぞ 3 〜
酒を頼めば、つまみも欲しくなるのが人の性だ。
男達は、つまみも頼む、頼む。
〈 従業員 〉も〈 料理長 〉も、てんてこ舞で忙しくなった。
マオ
「…………す、凄いな…」
クルセイル
「ほら、行くぞ。
喋らなくて良いから、笑顔な、笑顔!」
マオ
「…………努力はするよ…。
だけど、『 マーリン 』って何だよ…」
クルセイル
「可愛い名前だろ!
マーリメイエ・リーンフェってのが本名でな、彼の偉大な英雄マカロニウス・ケルレインの幻の妻さ」
マオ
「幻の妻ぁ??」
クルセイル
「マーリンは愛称だよ。
ほら、行くぞ。
皆がお前を待ってるんだからな!
マーリンちゃん♪」
マオ
「『 マーリンちゃん 』止めろ!!」
マオは笑っているクルセイルをキッと睨んだ。
クルセイルはマオの背中をポンと軽く叩くと「 付いて来い 」と合図した。
今だけ “ マーリン ” のマオは、クルセイルと共にテーブルを回り始めた。
──*──*──*── 3時間後
マオ
「{ …………。
クルスさん……、未だお酌しないと駄目なのか? }」
クルセイル
「{ そうだなぁ。
そろそろ、止めるか。
明日の事をセロさんと話さないといけないしな }」
マオ
「{ やった!! }」
クルセイル
「よし、ラストだ!
テーブル1周して終わるぞ!」
クルセイルが大声で言うと、もっとマーリンにお酌をしてほしい宿泊客達はブーイングを始めた。
クルセイル
「う・る・さ・いっ!!!!
もう、酒がないんだよ!
其に、お酌はマーリンちゃんの善意だ。
其のマーリンちゃんが疲れてるんだよ!
お前等は鬼畜か??
此の辺で勘弁してやれ」
クルセイルが再び言うと、宿泊客達はブーイングを止めた。
どうやら嫌々ながらも了承してくれた様だ。
漸くお酌から解放される事になったマオは、ホッと胸を撫で下ろした。
最後のお酌をする為にクルセイルと共に各テーブルを回った。
──*──*──*── 1時間後
漸くお酌係りから解放されたマオは、ヘバッておりグロッキー状態だった。
飢えた猛獣の中に放り込まれた仔犬の様な心境だった。
宿泊客達のマーリンを見る目は、血走っており、かなりヤバめだった。
クルセイルが隣に居てくれなければ、襲い掛かられ、身ぐるみを剥がされて居たかもしれない。
若しくは《 遊戯室 》に連れ込まれ、理性を失った飢えた男達からムニャムニャな事をされていたかも知れない。
マオにとっては、ゾッとする4時間だった。
明らかに罰ゲームだとマオは思った。
仮にだが自分が男達に拉致られたら、セロフィートは助けてくれただろうか??
面白い事が何よりも好きなセロフィートでも、伴侶なのだから助けてくれる筈だとマオは思っていたが、自信はなかった。
セロフィートの御気に入りだからといって、必ず助けてもらえるとは限らないし、甘えた考えなのかも知れない。
自力で何とかするだろうとか思われていて、傍観を決め込まれるかも知れない。
セロフィートだし。
マオは何も起こらずに、お酌を終えれた事に心の底から安堵していた。
セロフィートとクルセイルが間にテーブルを挟んで向かい合う状態で話をしている間中、マオはテーブルの上に頭を載せて休んでいた。
セロフィートとクルセイルの会話の内容は、マオの耳に入るものの、右から左へ流れていく。
聞き漏らし状態となってしまう程にマオは疲れていた。
ピィンとはりつめていた緊張の糸が切れた状態だと言えば分かるだろうか。
マオ
「( セロめぇ〜〜〜!!
女装の何処が『 いいこと 』なんだよ〜〜〜!!
許さん、絶対に許さないんだからなっ!!
セロと2人きりで『 いいこと 』出来るって、期待してたのにぃ!
朝迄抱き枕……いや、朝迄ベッドの刑だっ!! )」
マオは脳内で、仰向けの状態でベッドの上に寝転がっているセロフィートの上に俯せの状態でセロフィートの上に寝そべっている自分の姿を思い浮かべていた。
まるでラッコの親子の様な光景が目に浮かぶ。
中々微笑ましい光景ではないだろうか。