5.食堂 2 〜 酒が飲めるぞ 1 〜
グラスに口を付けたマオは、セロフィートに言われた通り、一口だけ口の中に含み、舌に酒を慣らしてみた。
マオ
「──ゥウ゛エ゛ッ!!
ゲホゴホ!!
…………な゛っ、な゛に゛ごで??
ま゛ずい゛──!!」
マオは口に含んだ少量の酒すらも飲み込めず、空の皿の上に吐き出してしまった。
苦虫を噛み潰した様な、クッソ不味い何かを味わった様な辛そうな表情で、口を右手で押さえている。
どうやらマオの舌は、酒の味に馴染めない様だ。
セロフィート
「──マオ、口に入れ過ぎました?」
マオ
「…………ゲホッ…。
い゛れ゛て゛ない゛よ!!」
涙ぐんだ目で、セロフィートに訴えるマオの顔は、中々そそられるものがある。
クルセイル
「はぁ?
不味いだって?
おぃおぃ、マオちゃん。
冗談言うなよ。
此でも初心者用の軽めの酒なんだぞ。
其を不味いってなぁ…」
マオ
「──だって、本当に不味いんだよ!
オレには飲めないよ……」
クルセイル
「大袈裟なんだよ。
貸してみろよ、オレが味見してやるよ」
マオ
「…………オレが飲む前に味見してよ…」
マオからグラスを引ったくったクルセイルは、グラスに口を付け、酒を飲む。
マオ
「…………不味いだろ?」
クルセイル
「──何処がだよ。
美味いじゃんか。
流石、兄貴が仕入れてる酒だ!
此の味が『 不味い 』なんて……。
マオ〜〜〜、お前の舌、オカシイんじゃないのかぁ?」
マオ
「そんな事……」
クルセイル
「試しに、もっ回飲んでみろよ。
美味いから!」
マオ
「──いっ、嫌だよ!!
もう口には入れたくないよ!
セロ、水!
水を──」
セロフィート
「はいはい」
口直しに水を欲しがるマオの為に、セロフィートは自分に出されていた水の入ったコップをマオに渡した。
未だセロフィートが口を付けていない水だ。
セロフィートからコップを受け取ったマオは、ゴクゴクと水をらっぱ飲みする。
良い飲みっぷりだ。
セロフィート
「マオの舌には合わないのかも知れませんね」
クルセイル
「此のままが飲めないって言うとなぁ……。
なら、ジュースで割ってみるか?」
マオ
「ジュース??」
クルセイル
「そっ!
酒が苦手な人でも飲み易い様に、酒をジュースで薄めるんだ。
例えばジュースが5で酒が1ってな割合にするんだ。
カクテルって言うんだぞ」
マオ
「ふぅん…。
其のカクテルってのなら、オレにも飲めるの??」
クルセイル
「慣れだな」
マオ
「な、慣れ??」
セロフィート
「マオ、折角ですし、一口だけでも飲んでみてはどうです。
カクテルが飲み易いのは本当ですし」
マオ
「う…うん……」
セロフィート
「クルスさん、お願いします」
クルセイル
「任しとけ!
よし、オレが軽くて飲み易いカクテルを作って来てやるよ。
マオ、待ってな」
マオ
「う、うん…」
気が乗らないのか、複雑な表情でマオは頷くのだった。
クルセイルが席を立ち、行ってしまった後、マオは口直しに料理を食べ始めた。
マオ
「…………酒を使った料理は食べれるのに何で飲めないんだよ…」
セロフィート
「料理に使うとアルコールが飛びます。
もしかしたら、アルコールが合わないのかも知れませんね」
マオ
「アルコール??
…………じゃあ、アルコールの飛んでないカクテルってのも、飲めないのかな??」
セロフィート
「其は飲んでみなければ分かりません」
マオ
「うん……」
セロフィート
「カクテルが飲めなければ、お酒は諦めてください」
マオ
「…………分かったよ…」
クルセイル
「待たせたな!
クルス様、特製の軽くて飲み易い初心者カクテルだぞ!」
クルセイルは作って来たカクテルをマオの前に置いた。
マオ
「…………此がカクテル??」
クルセイル
「どうだよ、綺麗だろ。
飲んでみろよ」
マオ
「うん……」
先程の事もあり、マオは恐る恐るグラスに口を付けた。
カクテルを一口分、口の中に含んだマオは、舌に慣らせ様としたが、マオには無理だった。
マオはカクテルも飲めなかったのだ。
クルセイル
「マジかよ…。
カクテルも飲めないのか?
美味いのになぁ」
カクテルを飲めないマオの代わりに、マオが残したカクテルを飲み干したクルセイルは、お酒を飲めないマオを不憫に思いながら言う。
マオ
「…………オレだけ飲めないなんて…」
クルセイル
「そうだよなぁ…。
酒は飲めないよりは飲めた方が良いんだよな。
大人の付き合いには酒は欠かせないからなぁ…」
マオ
「そう…だよな……」