4.浜辺 8 〜 楽しい手品 2 〜
紙袋の中には、クッキーを1つしか入れていない筈だ。
其なのに子供達の人数分のクッキーが入っていた。
テーブルの上に目を向けると、皿の上にはクッキーが載っている。
皿の上のクッキーが紙袋の中に入っている訳ではない様だ。
──と、するならば、紙袋の中に入っているクッキーは一体何処から現れたと言うのだろうか。
マオにはサッパリ分からない。
セロフィート
「マオ、どうしました?
紙袋の中を子供達にも見せてあげてください」
マオ
「あ…う、うん…」
言われて気付いたマオは、尻尾を振りながら見てくれている子供達に紙袋の中身を見せてあげた。
好奇心の強い子供達は、紙袋の中に手を入れるとクッキーを取り出した。
1つしか入っていなかった筈のクッキーが、今は1つずつ子供達の手の中にあった。
子供達は不思議そうな表情でクッキーを見詰めている。
セロフィート
「マオ、食べれる事を教えてあげてください」
セロフィートはクッキーを1つ、マオに手渡した。
『 食べる所を見せてやれ 』と言う事だ。
セロフィートからクッキーを受け取ったマオは、口を開けてクッキーを食べて見せた。
クッキーを美味しそうに食べるマオを見て、子供達はマオの仕草を真似て、クッキーを口の中に入れると頬張った。
生まれて初めて食べたクッキーのしっとりとり感とサクサク感に驚きつつも、頬を赤く染めながらクッキーの美味しさを味わっている。
尻尾をブンブンと振りながら、両耳をピョコピョコと上下に動かしている。
はっきり言って〈 獣人 〉の子供は可愛い。
マオの心はキュンキュンしっぱなしだった。
セロフィート
「気に入ってもらえてワタシも嬉しいです。
もう1つ見せましょう」
空になった紙袋の中にセロフィートは綺麗な貝殻を入れた。
マオが砂浜で拾い集めた様々な貝殻で、首飾りや腕飾りを作った時の余りだ。
マオはセロフィートの指示通り、先程と同じ様に紙袋の口を合わせると、下に向かってクルクルと折り曲げた。
子供達は興味深々に紙袋をガン見している。
まるで獲物を狩る時に見せる鋭さのある目だ。
子供達だと思って油断をしていたら首を一噛みされて終わりだろう。
セロフィートの指示通りに紙袋を上下にシャカシャカと振る。
今度は貝殻の数が増えるのか──と思いながらマオは紙袋を振り続けた。
セロフィートから振るのを止める様に言われたマオは、紙袋を開ける為に、折り曲げている箇所を上に向けて戻していく。
紙袋の口を開け、中身を見てみるとバラバラの貝殻ではなく、マオとセロフィートが作っていた貝殻の首飾りと腕飾りが入っていた。
マオ
「セロ、此って──」
セロフィート
「マオ、紙袋の中を見せてあげてください」
マオ
「う、うん…」
聞きたい事があるが、言葉を飲み込んだマオは、ワクワクしながら待ち遠しそうに見ている子供達に紙袋の中を見せてあげた。
紙袋の中へ手を入れた最初の子供が、中に入っている物を掴んだのだろう、不思議そうな顔をした。
恐る恐る紙袋の中から手を出した子供は、自分が手で掴んでいた物を見て、歓喜の声を発した。
キラキラと光る貝殻で作られた首飾りを見て、喜んでいるのだ。
其の様子を見ていた子供達も紙袋の中へ手を入れ、貝飾りを掴んでから手を出していった。
子供達は初めて見る貝飾りを持ちながら興奮している。
セロフィートは首飾りを持っている子供に声を掛けると、首飾りを受け取り、糸の部分を広げると頭から首へ通してあげた。
腕飾りを持つ子供達には、腕飾り手首に通してあげる。
子供達は余程嬉しいのだろう、キャッキャッとはしゃいで喜んでいる。
マオ
「あげちゃうんだな」
セロフィート
「其の為に作ってましたし」
マオ
「でもさ、まさか手品を使って渡すなんて思わなかったよ」
セロフィート
「喜んでもらえて良かったですね」
マオ
「──だな。
作った甲斐があったよな!
オレは1つしか作れなかったけどさ…」
子供:A
「ねぇねぇ、お兄ちゃん!
此の作り方教えて〜〜〜」
マオ
「えっ?!
オレ??
オレは……」
セロフィート
「良いではないですか。
一緒に貝殻拾いから始めましょう」
子供:B
「やった〜〜!
有り難う、綺麗なお姉ちゃん!」
セロフィート
「ワタシは『 お兄さん 』です。
『 セロ 』と呼んでください。
彼は『 マオ 』です」