4.治療小屋 2 〜 選択 2 〜
横目でセロフィートの様子を見ると、心底迷っているマオに、ニコリ…と笑顔を向けてくれる。
完全にマオへお任せモードだ。
マオが決断する迄、セロフィートは子供達に対して何の処置もしてはくれないだろう。
セロフィートは面白くない事は自分からしない質だ。
苦しんでいる子供達が、此のまま苦しみながら息を引き取り、死んでしまったとしても、セロフィートは何とも思わないし、感じもしないだろう。
セロフィートにとって死とは、今居る部屋から隣の部屋へ移る程度の事であり、魂は輪廻の流れに還り、来世に生まれ変わるだけだ。
人形であるセロフィートに命の尊さを説いても『 釈迦に説法、孔子に悟道 』だ。
マオは悩みに悩んでいる。
人間の敵となる〈 亜人種 〉だからという理由で、目の前で消えかけている魂の灯火を消してしまっても良いものなのか──と。
今なら未だ、子供達を助ける事が出来る。
助けられるチャンスが目の前に転がっているのに、見す見す助ける手立てを捨ててしまって良いのだろうか──と。
マオはもう人間ではなしいし、伯父も育て親のマーフィも2人の友人兼マオの剣術の師匠でもあるラオインダも既に人間ではなくなっている。
マオと血が繋がっている親族は、伯父以外だと実父の異母弟妹の子孫達ぐらいだ。
母方の親族は様々な揉め事に巻き込まれ、今や伯父とマオを残して絶えてしまっている。
伯父は現在も独身を貫いており、生涯伴侶を取る事はせず、子孫も残さない気でいる様だ。
そんな訳でマオの近い親族は今や王族だけという事になる。
〈 皇 〉になれば≪ エルゼシア大陸 ≫の陸民がマオの子供となるが、マオは〈 皇 〉になる気は更々ない為、『 何としてでも守らなければ!! 』という気持ちにはならない。
其でも人間の事を気にしてしまったり、肩を持ったりしてしまうのは、マオが元人間だからだ。
仮に人間が絶滅してしまってもマオは別に困る事はないのだが、良心が健在である所為か、マオは人間が絶滅する事を望んだりしていない。
人間を取るべきか、目の前の〈 亜人種 〉の子供を選ぶべきか──。
セロフィートはマオが結論を出す迄、黙って静かに待っている。
マオ
「………………セロ…」
セロフィート
「決めました?」
マオ
「…………助けてあげてほしい…」
セロフィート
「本当に良いです?」
マオ
「…………オレには出来ないよ…。
〈 亜人種 〉だからって差別するなんて…。
助けられる術があるのに…何もしないで此のまま見殺しにするなんて…オレには出来ないよ…」
セロフィート
「マオの望みなら叶えましょう」
マオ
「──セロ!
………………オレの選択は間違ってるのかな?」
セロフィート
「正解も不正解もないです。
表裏一体は見方により、悪が善,善が悪にもなります。
気にする事ないです」
マオ
「…………うん…。
でもさ、どうやって助けるんだ?」
セロフィート
「〈 魔法陣 〉の上に寝かせるだけです」
マオ
「は?
〈 魔法陣 〉の上に寝かす??
そ…其だけ?」
セロフィート
「そうです」
マオ
「何が原因で苦しんでるんだ?」
セロフィート
「〈 時空の亀裂 〉から出る負のエネルギーの影響を受けてます」
マオ
「えっ?
でもさ、其って〈 時空の亀裂 〉を通った誰でも──」
セロフィート
「直に通った者と其の子供や子孫では負のエネルギーに対する影響は違います。
マオ、其の子を右側に寝かせてください」
マオ
「う、うん。
分かった」
セロフィートが寝かせた子供の右側にお姫様抱っこをした子供を寝かせた。
真ん中の子供の左側には〈 器人形 〉がお姫様抱っこして移動させた子供が寝かされている。
マオ
「セロ…負のエネルギーを受ける影響が違う──って、どういう事だよ?」
セロフィート
「直に〈 時空の亀裂 〉の渡った者は、身体を作り変えられてしまう事は話しましたね?」
マオ
「うん…」
セロフィート
「負のエネルギーを受けなければならない身体になった者は、負のエネルギーを必要なエネルギーとして身体が欲します。
其の為、凶暴化はしても身体に異常は起きません。
但し、子供や子孫は違います。
負のエネルギーを必要とする両親の性質は子供に遺伝されません」
マオ
「えっ??
遺伝しない??」