4.治療小屋 1 〜 選択 1 〜
──*──*──*──40分後
1人でまったりと紅茶を満喫しているセロフィートに向かって、マオが血相を変えて走って来た。
テーブルの前に立ったマオは、息を切らせながらセロフィートの腕をガシッ──と掴んだ。
マオ
「──セ、セロ!!
大変なんだ!
直ぐ、来てくれよ!!」
心底困り果てた表情のマオは、セロフィートに助けを求めた。
つい先程の威勢の良いマオは、何処へやらだ。
マオが腕をグイッ──引っ張った所為で、紅茶がセロフィートのコートの上に溢れた。
然し、不思議とコートに紅茶が染みる事もなければ、汚れもしない。
セロフィート
「どうしました?」
マオを怒る事もせず、セロフィートは暢気に事情を聞こうとしている。
マオ
「──子供が、子供がっ、倒れたんだよ!!
凄く苦しんでるんだよっ!!
セロ、助けてあげてよ!!」
セロフィート
「〈 器人形 〉は何してます?」
マオ
「其の〈 器人形 〉が『 セロじゃないと助けられない 』って言ってるんだよ!!」
セロフィート
「ははぁ…。
〈 器人形 〉の手に負えない状態ですか。
分かりました。
見てみましょう」
マオ
「セロ〜〜!!」
マオは嬉しそうな顔で、微笑んで承諾してくれたセロフィートの腕に抱き付いた。
セロフィート
「マオ、腕を離してください。
抱き付かれていては立てません」
マオ
「──ご、ごめんっ(////)」
やんわりと言われたマオは、慌ててセロフィートの腕を離すと、少し離れた。
椅子から腰を浮かせ、立ち上がったたセロフィートはテーブルと椅子を一瞬で消すとマオの隣に立つ。
申し訳なさそうな顔をしているマオの左手を握ったセロフィートはマオに「 案内してください 」と言うと、マオは「 此方だよ! 」と言い、セロフィートの手を引っ張りながら歩き出した。
走らないのは、走れないからである。
マオは走って直ぐにでも向かいたいのだが、力ずくでセロフィートの手を引っ張ってもセロフィートが重くて走れないのだ。
セロフィートは今の今迄1度も走った事がなく、何時も歩きだ。
走ると疲れるし、汗が出るから嫌だ──という理由で走らない。
セロフィートは汗を掻かないのだが……。
セロフィートは自分の体重を自在に変えられる為、マオが引っ張ってもビクともしない重さに変えて歩いていた。
其の為、マオはセロフィートのペースで歩かざるを得ないのであった。
──*──*──*── 治療小屋
即席で作った一時的な《 治療小屋 》の中に問題の子供達が横になっていた。
どの子供達も顔色が悪く、譫言を言いながら魘されており、見ているだけでも苦しくて辛そうなのが分かる。
マオ
「セロ、此の子達だよ。
助けられるよな??」
セロフィート
「マオは助けたいです?」
マオ
「はぁ?
当たり前だろ!
目の前で苦しんでるんだ。
治せるなら治してやりたいじゃんか!」
セロフィート
「本当に良いです?
後悔しません?」
マオ
「……ど…どういう意味だよ?」
セロフィート
「彼等は将来、必ず人間に危害を与える存在となります。
人間にしてみれば敵です。
此のまま見殺しにすれば、子孫が育たない〈 亜人種 〉は勝手に絶えます。
人間に対する脅威の存在が1つ消えます。
助けてしまえば、繁殖力の高い〈 亜人種 〉の人口は確実に増えます。
生きていくには此の≪ 無人島 ≫では足りなくなり、何時かは≪ 無人島 ≫を出て陸地を目指す事なるでしょう。
そうなれば領土を守る人間と奪う〈 亜人種 〉で戦う事になります。
言わなくとも結果は判りますね?
人間が束になって挑んでも〈 亜人種 〉には勝てません。
人間の領土は〈 亜人種 〉に奪われてしまいます。
此の子達の命を助けるという事は後者の未来を選ぶという事です。
大勢の人間が〈 亜人種 〉との戦いで命を落とす事になります。
マオは其でも良いです?」
マオ
「其は…嫌だけど……」
セロフィート
「ワタシはどちらでも構いません。
興味ないですし。
マオが選んでください。
助けるのか、見捨てるのか──。
ワタシはマオの望みを叶えます」
マオ
「…………。
( 助けなかったら…人間の敵を減らせる。
……助けたら…人間の敵を増やす事になって…大勢の人間が死ぬ……。
〈 時空の亀裂 〉が存在し続ける限り…。
オレは……オレは…どうしたら良いんだよ…… )」
マオは苦しんでいる子供達の様子を目の当たりにして悩む。
将来、人間の脅威となる〈 亜人種 〉の子供達を助けるべきなのか、此のまま助けずに死なせるべきなのか──。