0.導入
三人称方式を筆頭に、能力系バトルやダンジョンその他諸々。作者としては何かと初めて触れる要素が多い作品でした。温かい目で見守っていただければ幸いです。
また、感想、ご指摘、苦言、何でも大歓迎です。"第三者視点から見えるもの"心待ちにしております。
それでは幕開けです。
玉座の間――。
だだっ広く高い天井、上品で豪華な内装。その空間は国を治める者の為に繕われたような印象を抱かせるには十分だ。しかしその中心、上座に佇む男の纏う雰囲気は空間そのものとは調和していなかった。
「城下での戦いも、終幕は時間の問題よ。お前達がこと切れるのが先になりそうだがな」
喉元をひけらかし、他者を見下すような印象を与えるこの男こそが現王である。
空間とはミスマッチな人柄が、王としての歴史の浅さを物語る。そして、そんな王は打倒されるのが世の常だ。この場に相対するは――三人の若者。
「アッシュ、これ以上長引かせるのはよくない」
「ああ、こいつで終わらせる」
アッシュと呼ばれた青年が、ボロボロの体を引きずり前へと出る。
その青年は右手には剣を、左手には――炎を握っていた。
「俺には親父みたいな翼はない。自由を示すには相応しくない存在かもしれない。けれど、闇を照らす灯にはなれる。いいや――そうなるべくして、ここに立っているんだ」
傷だらけの体、絶え絶えの息に相反し、アッシュの手にある炎は歩みを進めるたび、想いに呼応するようにして勢いを増していく。
「ほう、良い気概だ。我が玉座に就いて以降、それを見せる者はひどく稀有となった。今や民衆達にとっては貴様らが最後の灯とも言っても過言ではなかろう。故に――」
発言の最中、王の背を中心として辺り一面に墓石を思わせるような、無慈悲で、哀しい、深い寒気が張り詰める。
「我も全力を以ってそれを打ち払ってくれよう」
王の右手にはアッシュのそれに相対するかのように、暗くうごめく、夜の闇全てを凝縮したような何かが姿を現していた。
王の場合はその限りではないだろうが、アッシュには後がないことは明白である。
残りの命、全てを賭けるような一撃。力と力の、全力のぶつかり合いがこの後に行われるであろうことはこの場にいる誰の目から見ても明らかだった。
「この一撃に全てを賭ける――。炎よ、我が身を燃やせ。この一撃を、この国を照らす陽光とせしめろ! 行くぞ闇の体現者! その身を焦がし、民草の瞋恚を魂に刻むがいい!」
「吠えるな小僧。死より深い闇を以ってそれを打ち払ってくれる。――来い!」
アッシュと王。同時に駆け出し、今や互いに避けようともせずに正面から技をぶつけ合う腹積もりだ。立場や思想は異なれど、そこには清々しいまでの共通の想いがあった。「どちらが上か、”これ”で決める」突き出した拳にその想いを乗せ、駆け、その結果を決定付ける瞬間を一歩、また一歩と近づけていく。
残り数歩でその瞬間が訪れる――。傍目から見ればそれは一瞬のことだっただろう。だがしかし、当人達からすれば命を、人生を乗せた瞬間だ。まるでこの時が永遠に続くかのように永く、ゆっくりと感じているであろうことは、当事者でない二人の若者にも感じ取れた。……それ故、その場にいる誰もが”それ”を目撃した。
このままいけば二人の想いがぶつかり合うであろうポイント、その上部に突然空間が裂かれたようにして――形容するのなら『門』のようなものが現れたのだ。
そして、
「――クソ! せめて入口にしてくれよ!」
「は……!?」
「なッ……!?」
その空中に開いた『門』から、その場へと落ちてくる人型。
アッシュと王の二人は勿論のこと、その場にいた誰もがそれを目撃した。
何の脈絡もなく突然も突然。誰もが予想し得なかった事態だ。二人の拳は勢いをおさめることもなく、狙いを変えることもなく、差し当たってとなるが……互いに突然その場に落ちてきた人型へと向かい――。
――――。
何ともしまらない形でその場は決着した。