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老人

 猪擬きを倒した俺の前には一人の老人がいた。


 どうすっかなぁ、異世界にきて初めての人だから意志疎通に失敗したくないが、言葉は通じなさそうだしなぁ、ここはアクションを待ってみるか....お?


 「縺贋クサ縲√b縺励°縺励◆繧峨Μ繝?ぅ縺ァ縺ッ縺ェ縺?°縺ョ?」

 「······は?」


 喋りかけられたと思ったら今なんて言った?思わず変な声出たが想像はしてたとおり異世界言語かぁ、全然わからん。なんか小文字とか濁音半濁音が多めだったな。


 「縺ェ繧薙§繧?Ρ繧キ縺ョ縺薙→繧貞ソ倥l縺溘?縺九??」


 やっぱりわからん!この爺さんは俺に何を求めているんだ、警戒心とかなさそうだから元々のこの体だったやつの知り合いっぽそうなんだが....


 「縺オ繧??溘♀縺ャ縺玲欠霈ェ縺ッ縺ゥ縺?@縺溘s縺倥c?」


 ん?なんだ?今度は自分の手を指しながら話しかけてきたぞ.....手?違うな、指の付け根をアピールしてる?なんだ?指...指...指...あっ!!


 何を求められているのかわかった俺は急いでポケットを漁ると、何の変哲もない銀の指輪を取り出す。爺さんは正解というような笑顔で数度頷いていた。物分かりが悪くてごめんよ爺さん。


 爺さんの意図を理解した俺は指輪を渡そうと近づく。爺さんは素直に受け取ったかと思うと優しい手つきで俺の手を取り指輪をはめた。すると⎯⎯⎯


 「縺薙l縺ァ 聞き取れるようになったのではないかの?」

「おぉっ!」


 指輪をはめながらしゃべるから最初のほうは分からなかったがちゃんと理解できるようになり、思わず驚いて声が出てしまった。


 「リディ、お主が来たということはもう準備は済んだのかの?」

 「ありがとうございます、お爺さん! これで言葉に苦労しなくて済む! ん? 準備ってなんのことです?」


 言葉が理解できたことの嬉しさで頭が一杯だったが、爺さんの謎ワードですぐ正気に戻る。


 「うむ? 忘れたのかの? 次にワシの前に現れたときは王国に亡命する約束じゃったじゃろう?その準備ができたからここに来たのではないのかの?」


 俺は絶句した。異世界にきて早々亡命?一体全体どうなってるんだ、俺は何も知識のない異世界人だぞ?ちょ、ちょっと待てーい


 「あ、あのですねお爺さん、俺はあなたの言うリディじゃないと思います。異世界から来た宝徳 凉輔って言うんです....そりゃ見た目が一緒だったのかもしれないけどすみません、人違いだと思います」

 「異世界....人違い.....」


 事実を伝えると、俺の発言にショックを受けたのか同じ言葉を繰り返し、次第にそれは小声になりブツブツとしか聞こえなくなってしまった。


 すまない爺さん、さてこれからどうするか。言語面では理屈はわからないが指輪のおかげで助かった。魔道具なのかな? この爺さんからこの世界のこととか一般常識とか教えてもらいたいんだがこの様子じゃあなぁ....


 などと一人で考えていると、現実に戻ってきたのか爺さんはこちらを振り向いた。


 「いや、ワシの知っているリディはお前さんで合っておるよ、容姿はともかく魔力まで見間違うはずがなかろう。お前さんの言うその、異世界から来た? はよくわからんがそうだとしてもワシの知っているリディはお前さんだけじゃ」


 先程まで考え込んでいた爺さんとはうって変わり、自信に満ちた顔で言い切られてしまった。ここまで言われてしまってはしょうがない。


 「そう、ですか、お爺さんがそれで良いならいいんだ。さっきも言ったとおり俺は異世界から来た、だからこの世界のことをなにも知りません。お爺さんがよければだが色々と教えてくれませんか? 代価とかはすぐ用意できないけれど、出来る範囲でならなんでもするつもりです」


 最初こそ意気揚々に喋れていたが後のことを考えていなかったので最後は少し小声になってしまった、知り合いっぽいからさすがに無理難題吹っ掛けられないだろうという勝手な先入観で話してしまった自分に少し嫌気がした。だが爺さんはと言うと⎯⎯⎯


 「はははっ、自分の名前もワシの名前も間違えたり言えない、さらには約束を忘れているときた。これはお前さんを別人と認める他なかろうて。よかろう、小さい頃のようにまた面倒見てやるとするかの。あと別に金とかはいらんから家事とかしてくれればええよ、最近腰が痛くてのぉ」


 軽く笑ったかと思うと、爺さんは俺のお願いを聞き入れてくれたようだ。助かる。

 爺さんは踵を返し歩き始めた。付いてこいということかな?俺は黙って爺さんの後ろを歩き始めた。


 そういえばなにか忘れているような...あ。


 「お爺さん、さっき猪みたいなの倒したんだけど持ち帰らなくていいの?大きかったから運べるか分からないけど」

 「うむ? あぁ、その猪は食べれんよ、魔獣化しておるからの。放っておけばよかろうて。そうじゃ、猪で思い出したがリディ、お前さんいつのまに魔法を使えるようになったんじゃ? 魔法の素質が一切なかったお前さんが魔法を使えるようになっていてすごく驚いたんじゃが...まぁ今のお前さんに聞いてもどうしようもないかの」


 命からがら(まぐれで)倒した猪が、実は魔獣だったこととそれが食料として見られないことにも驚きだが、魔法の素質が俺にはなかったと言われたことのほうが驚きだった。


 「いやぁ、俺も使えるとは思わなかったんですけど、イメージしたらできたというか、出来てしまったというか」

 「む?イメージだけでそうおいそれと出来ることでもないのじゃがなぁ...そもそも素質がなかったお前さんがどうしてか魔法を使えるようになったことだけでも喜ぶべきじゃな」


 子供の成長を喜んでいるかのような笑顔で言われてしまうとなにかむず痒いもの感じるがまぁいっか。





 しばらく歩くと急に開けた空間に出た。木々のなかを歩いているときには聞こえなかった鳥の鳴き声や川の音が一斉に聞こえてくる。まるで木とこの空間の間に壁でもあったかのような変わりようだった。


 辺りを見渡していると、少し離れた位置に異世界においても立派な部類に入るのではと思えるログハウスが建っていた。


 「どれ着いたかの、ワシの家じゃ。また今日からお前さんの家でもある、小さい頃のように家事全般をしてもらうからよろしく頼むのリディ」

 「いえいえ、こちらこそ面倒を見てもらうんだからそれくらいはさせてもらいます、よろしくお願いします」



 異世界生活において十分なスタートだと思える瞬間だった。





 そういえば「お爺さん」で呼び方慣れたからあれだけど、名前聞いてないや。


説明回。

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