はなのきもち
エブリスタから転載、および加筆修正した作品です。
ハナコはイライラしていた。それは、彼の背があんまりにも高くて、彼女の大好きなおひさまを、無遠慮にさえぎっていたからだ。
それに、彼はひどく不恰好だった。葉っぱはギザギザで細いし、頑丈な茎には白くて細かい毛がいっぱい生えていて、体は大きいのに花は地味で小さい。何より頭にくるのは、バッタにかじられても、平気な顔で新しい葉っぱを生やすことだ。だから、やっと隙間が空いて陽が差したと思っても、すぐに陰になってしまう。
「あんたなんか、いなくなっちゃえばいいのに!」
ハナコがイライラをぶつけても、彼はへっちゃらだった。彼は何も言わないけれど、ハナコにはそう見えた。
ある日、世界はハナコが望んだとおりになった。彼は居なくなった。ニンゲンが来て、彼を根っこからすっぱり引き抜いてしまったのだ。ハナコは、これでおひさまを独り占めすることができると、おおいに喜んだのだった。
ところが、その次の日。バッタがやって来て、憎たらしいそいつは、ハナコの大事な葉っぱを一枚、きれいさっぱり食べてしまった。
「やあ、よかった。まだ食べられる葉っぱがあって、ほんとに助かった」
バッタは満足そうに言った。
「もう食べないで!」
ハナコは抗議したけれど、バッタはため息をついてこう言った。
「前は、あのノッポの草がたっぷり食べさせてくれたんだけどね。あいつはもういないし、しようがないじゃないか。ぼくだって、食べなきゃ死んじまう」
そうして、バッタはぴょんぴょん跳ねて、どこかへ行ってしまった。
次の日は嵐だった。ハナコが経験したことのない恐ろしい風が吹き、彼女の大事なつぼみを吹き飛ばそうとした。ハナコは泣きながら必死に耐えたが、嵐が過ぎ去ると、泣きすぎて葉っぱが一枚しおれてしまっていたのだった。
さらに次の日、ハナコが気付くと一本のツタが体に巻き付いていた。きっと、昨日の風に乗って、ツルを伸ばしてきたのだろう。図々しいツタは葉っぱを広げて、ハナコのおひさまを横取りしようとたくらんでいた。
「私から離れて。そんなに巻き付いたら苦しいじゃない!」
「すまないね、お嬢ちゃん。けれども見てのとおり、あたしゃ他の草に巻きつかなきゃ、生きていけないのさ」
そして、ツタは大きなため息をついた。
「あのノッポの草がいてくれたらねえ。もっともっと高いところまで、ツルを伸ばせたんだけど」
それからハナコは何度も抗議したが、ツタはまったく耳を貸さなかった。
その次の日は、またひどい嵐が訪れた。激しい風はハナコのつぼみを吹き飛ばそうとするが、今度はどんなに強い風が吹いても、つぼみはびくともしなかった。
「さあ、お嬢ちゃん。あたしがささえてあげるから、しっかり踏張りな!」
巻きついたツタが、ハナコのつぼみをしっかりと、地面につなぎとめてくれていたのだ。おかげで、ハナコはめそめそしないで嵐の夜を、やり過ごすことができた。
朝になって、ハナコは小さな声で、ツタに「ありがとう」と言った。ツタは何も言わずに、ハナコのおひさまをちょっとだけかすめとった。
嵐は風だけでなく、雨も運んでいた。ハナコもツタも、あの憎たらしいバッタも、みんな水玉で飾り立てられていた。水玉は、朝日を受けてきらきら輝いていた。
なんとなく、彼がいた場所を見てみると、そこには小さな緑の芽が生えていた。白い毛がいっぱい生えた頑丈な茎と、細くてぎざぎざの葉っぱは、ハナコと同じように、きらきらの水玉が輝いていて、ハナコはもう、彼を不格好だとは思わなくなった。




