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はなのきもち

作者: 烏屋マイニ
掲載日:2019/06/03

エブリスタから転載、および加筆修正した作品です。

 ハナコはイライラしていた。それは、彼の背があんまりにも高くて、彼女の大好きなおひさまを、無遠慮にさえぎっていたからだ。

 それに、彼はひどく不恰好だった。葉っぱはギザギザで細いし、頑丈な茎には白くて細かい毛がいっぱい生えていて、体は大きいのに花は地味で小さい。何より頭にくるのは、バッタにかじられても、平気な顔で新しい葉っぱを生やすことだ。だから、やっと隙間が空いて陽が差したと思っても、すぐに陰になってしまう。

「あんたなんか、いなくなっちゃえばいいのに!」

 ハナコがイライラをぶつけても、彼はへっちゃらだった。彼は何も言わないけれど、ハナコにはそう見えた。

 ある日、世界はハナコが望んだとおりになった。彼は居なくなった。ニンゲンが来て、彼を根っこからすっぱり引き抜いてしまったのだ。ハナコは、これでおひさまを独り占めすることができると、おおいに喜んだのだった。

 ところが、その次の日。バッタがやって来て、憎たらしいそいつは、ハナコの大事な葉っぱを一枚、きれいさっぱり食べてしまった。

「やあ、よかった。まだ食べられる葉っぱがあって、ほんとに助かった」

 バッタは満足そうに言った。

「もう食べないで!」

 ハナコは抗議したけれど、バッタはため息をついてこう言った。

「前は、あのノッポの草がたっぷり食べさせてくれたんだけどね。あいつはもういないし、しようがないじゃないか。ぼくだって、食べなきゃ死んじまう」

 そうして、バッタはぴょんぴょん跳ねて、どこかへ行ってしまった。

 次の日は嵐だった。ハナコが経験したことのない恐ろしい風が吹き、彼女の大事なつぼみを吹き飛ばそうとした。ハナコは泣きながら必死に耐えたが、嵐が過ぎ去ると、泣きすぎて葉っぱが一枚しおれてしまっていたのだった。

 さらに次の日、ハナコが気付くと一本のツタが体に巻き付いていた。きっと、昨日の風に乗って、ツルを伸ばしてきたのだろう。図々しいツタは葉っぱを広げて、ハナコのおひさまを横取りしようとたくらんでいた。

「私から離れて。そんなに巻き付いたら苦しいじゃない!」

「すまないね、お嬢ちゃん。けれども見てのとおり、あたしゃ他の草に巻きつかなきゃ、生きていけないのさ」

 そして、ツタは大きなため息をついた。

「あのノッポの草がいてくれたらねえ。もっともっと高いところまで、ツルを伸ばせたんだけど」

 それからハナコは何度も抗議したが、ツタはまったく耳を貸さなかった。

 その次の日は、またひどい嵐が訪れた。激しい風はハナコのつぼみを吹き飛ばそうとするが、今度はどんなに強い風が吹いても、つぼみはびくともしなかった。

「さあ、お嬢ちゃん。あたしがささえてあげるから、しっかり踏張りな!」

 巻きついたツタが、ハナコのつぼみをしっかりと、地面につなぎとめてくれていたのだ。おかげで、ハナコはめそめそしないで嵐の夜を、やり過ごすことができた。

 朝になって、ハナコは小さな声で、ツタに「ありがとう」と言った。ツタは何も言わずに、ハナコのおひさまをちょっとだけかすめとった。

 嵐は風だけでなく、雨も運んでいた。ハナコもツタも、あの憎たらしいバッタも、みんな水玉で飾り立てられていた。水玉は、朝日を受けてきらきら輝いていた。

 なんとなく、彼がいた場所を見てみると、そこには小さな緑の芽が生えていた。白い毛がいっぱい生えた頑丈な茎と、細くてぎざぎざの葉っぱは、ハナコと同じように、きらきらの水玉が輝いていて、ハナコはもう、彼を不格好だとは思わなくなった。

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