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第5話「彼女はミリタリーがお好き」

 俺はリリーナに刻印のことを話した。

 卒業式の日、あの女が通行人を殺して死体を食っていたこと。そして俺に「死んで頂戴」と言ったこと。だけど俺は生きていたこと。そしてその時から頭の上に奇妙な数字が浮かんでいたことを。

 まずリリーナはそれについて、刻印をつけた理由は不明。そしてあの女は人を食料とはしない、おそらく食べることによって被害者の情報を得ていると答えた。それなら俺に「死んで頂戴」と流暢な日本語を言ったのは納得できる。


「ちなみにその死神って普段、なに食ってんの?」


「……トマト……かな」


 やけに健康的な死神だ。

 

 その後、リリーナと死神……シオン・デスサイズの話も聞いた。

 彼女達は以前いた世界「アフトクラトラス」という異世界で敵同士だったらしい。そして死神を倒すために魔法使い達が次元の狭間へ叩き落すための魔法を使った時、リリーナも巻き込まれ俺のいる世界へ転移してきたとのことだった。

 リリーナはそれを話した時に「あれはわざとだろう」と吐き捨てるように言った。彼女の話だと「意図的に巻き込むように発動した」とのこと。


「おそらく私が邪魔だったんだろう」


「邪魔って? でもあんた、向こうじゃ偉かったんじゃないの?」


「銀の賢者ってね。十五歳で魔法使用者の頂点にたったのは私が初らしい。それゆえに妬まれもする。だからこそ私も始末したかったんだ。でもまさか死神ごと転移するとは思わなかったがな」


「出る杭は打たれるってやつか。この世界もあんたのいたとこも変わらないんだな。……んじゃリリーナって十五歳?」


「うん? それは賢者になった時の年齢だ。今は十八だ」


「あんた、その見た目で俺と同じ歳なの!?」


 どこからどう見ても中学生にしか見えない。完全に合法ロリ案件だ。

 そんな思考を読んでかリリーナは俺をジト目で見つめる。「どうせいかがわしいことでも考えてるんだろう」という疑念の声を俺は素知らぬ顔して受け流した。


 そして肝心の話。「どうすれば刻印から解放されるか」についてリリーナはこう言った。


『死神を殺す。もしくは刻印を維持できないほどに無力化させる』


 俺が生き残る道はそれだけしかないらしい。だけどリリーナは「精霊魔法」とかいう死神に有効な魔法が使えないようだ。何故かと聞いたら「この世界は精霊が感じられない」とのことだった。何となく納得した。

 だから死神を何とかしなければならないというのに、その手段がないという言わば前提条件が揃っていない。これについてリリーナは俺に一つ頼み事をした。


「武器が欲しい。あの女を殺せるこの世界の武器が」


 いや、リリーナさん。言いたいことはわかるし俺も刻印をなんとかしたい。

 だけどこの国には「銃刀法」というものがあるんです……。



 ◇ ◇ ◇



 翌日。その日は澄んだ青空が広がっていた。

 日曜日だけあって椋見市の繁華街は人で賑わっている。俺とリリーナはそんな街中を二人で歩いていた。

 昨日の一件以来、どこか彼女は柔らかくなった気がする。確かに無表情なことが多いけど、初日に比べたら多弁になったし、時より笑うようにもなった。一時はどうなることかと心配したけど、ぶつかり合った後に結局、こうして二人で出かけられるようになったのを嬉しく思った。

 これぞ雨降って地固まるってやつか。


 俺達の行く先は展示場だ。そこで今、銃器展示会っていうのをやっている。日本だけでなく世界の銃火器のモデルガンを展示しているらしい。厳重警備の中、実銃も置いてあるとか。

 

 ここにきた経緯はもちろんリリーナが『武器が欲しい』と言ったからだ。当然のことながら高校生の俺なんかが武器を調達することなんてできないし、そもそも警察にみつかれば銃刀法違反で捕まる。

 しかしこの世界の武器、つまり銃を模型でなら見せることはできる。

 そこでネットで調べたらたまたま翌日の日曜日に椋見市内で銃器展示会が開催されることを知り、こうしてリリーナを連れてきたわけだ。

 ちなみにティナも連れていこうと思ったけど、まだ日本語が不自由なのとたとえ模型とはいえ「人を殺す武器」は見たくないと断られた。なんとも平和主義的な部分は優しい彼女らしい。


 三階建ての展示場に到着した時、リリーナが何やら一点を見つめ小首を傾げていた。

 どうしたのかと話かけると、可愛らしく映るその仕草とはまったく不釣り合いな言葉が彼女の口から聞こえてきた。


「オークがいるが殺していいのか?」


「は? オークなんていねぇよ! どこにいるんだよ!?」


 俺の声に反応しリリーナが細く白い指をある場所へさす。その直線上にいるのは、体が横に広いオタクだ。しかも迷彩服を着ている。たぶん同じ目的地を目指しているミリオタだろう。


「これは稀有な事例だ。オークが服を着るとはな。しかも人間と共存している」


「オークじゃねぇよ!」


「あれが人間だと? 君の目は節穴か」


「あんたの目のほうが節穴だよ!」


 いまだ眉をひそめ見据えるリリーナの手を掴むと半ば強引に展示場の中へと入った。そのまま放置しておくと、オーク疑惑で本当にあのミリオタが潰されそうだ。

 そう思ったと同時にあのバイクの一件が頭をよぎる。あれから警察が家に来たという話もないし結局、事故で終わったのだろうか。


 そしてあの時もリリーナの手を掴んだ。抵抗されたけど、今はそんなことはない。むしろ展示場の中に入って手を離したとたん、俺の服の袖をキュッと掴まれた。

 上目遣いでじっと何かを求めるように見つめるリリーナを見て一瞬、俺の心臓がビクンと跳ね上がる。普段の冷たく無表情な彼女からは、想像できないしおらしい行動にどぎまぎしてしまった。


「な……なんだよ。どうした?」


「ジロジロ見るな。どうしたって? これだけ人がいる中で君を見失ったらどうするつもりだ。本来なら首に縄でもつけたいところだがそうもいかないしな」


「えーとデレたとかじゃなく?」


「は? 何を言ってんだ? 日本語をしゃべろ」


 上目遣いの演出はただ単に背が低いだけ。キュッと掴んだのは縄と同意義。デレの欠片もない。一瞬、期待してしまった俺が馬鹿だった。


 馬を縄で打つがごとく掴んだ袖をツンツンされ、俺はため息を吐きながらも館内を見て回る。所狭しと並べられるのは実銃を忠実に再現したモデルガンの数々。

 えーと、アサルトライフル、ハンドガン、ライフル、ショットガンなどなど。俺はあまり銃には詳しくないからよくわからないが、リリーナはかなり興味深そうに見ていた。

 実際に手に取り、資料を熱心に読み、射撃フォームまで見様見真似でしていた。まさか憧れのファンタジーの定番「魔法使い」が現実にいるというのに、そんな彼女が銃器に目覚めるとは奇妙な光景だ。

 実銃もあった。「レミントンM870」と書いてあった。どうやらショットガンのようだ。


 さらに館内を見て回る。気が付いたらリリーナから煽られながら進んでいたはずなのに立場が逆転していた。

 いつしか彼女のほうが俺の袖を引っ張りながら前へと踏み出していた。彼女の動きに合わせて銀髪が揺れる。宝石みたいに綺麗な青い瞳をさらに輝かせて、立ち並ぶモデルガンを一心不乱に見つめていた。


 途中でチラチラと俺の存在を確認する仕草も見ていて可愛らしさを感じる。彼女に必要とされている充実感とおもちゃに夢中になる子供のようなリリーナに、俺は思わずにんまりしてしまう。

 しかしこのままこの世界にいれば彼女はミリオタ一直線なのだろうか。機嫌を損ねようものなら拳銃を頭に突き付けられるイメージがわいて俺は苦笑した。微妙に似合っている。

 ただ銃を使う美少女とかアニメとかでも見たけど、可能ならファンタジーファンの俺としてはぜひとも魔法を披露していただきたい。


 このまま、この世界にいれば……か。


 リリーナは『元の世界に戻る』と言っていた。その思いは今でも変わらないのだろうか。

 今はこうして楽しんで。だけどすぐにいなくなるのだろうか。刻印を仮に消せたとしてその後はもう手の届かない場所へ行ってしまうのか。その時、俺はどうするんだろうか。


 可愛らしい彼女の横顔を見つめて。そして脳裏にティナの笑顔を浮かべて。この三人が揃っているのは、ほんの短い間だけでしかないのだろうか。


 突然、浮かび上がった不安が頭をよぎる。

 そして何故か背筋に走る悪寒のようなぞくぞくとした寒気。それはまるで頭の上に浮かんでいる刻印から舞い降りているかのようだった。

 全身に感じるのはそれだけじゃない。俺への視線。明らかに誰かが見ている。


 ゾクッと背筋を震わせ、俺は周囲を見渡した。

 視線の主はどこにもいない。

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