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第44話「亀裂」

「リリーナを殺せだって? できるわけねぇだろ!」


 ティナの姿をしたままの死神シオン・デスサイズの提案に、俺は拳を握りしめ声を張り上げた。

 死神は「ティナの解放」と「俺の刻印の解除」、そして「この世界の人間を殺さない」という約束をする代わりに条件を出した。それが「リリーナの殺害」だ。

 俺達が平和になるために彼女を殺せという。そんな事できるはずがない!

 しかし死神は小首を傾げてみせた。


「そうかしら? いたって簡単な事よ? そこの女は本来、この世界にいるべき存在ではない。殺した所で何の影響も出ない。そうでしょ?」


「だからってそんな条件、呑むと思うのかよ?」


「はっきり言うわ、刻印のあなた。……そこの女、この小娘を殺すわよ? 私の知っているリリーナ・シルフィリアという女なら確実にそうする」


 ティナを殺す。死神のその言葉に一瞬、ビクンと体が震えた。

 脳裏に過るのはティナへ銃を向けるリリーナの光景。今にも撃ちそうな程、鋭い瞳で死神を睨む彼女は殺意の塊だった。躊躇う事なくティナに銃を向けたんだ。それが俺には信じられなかった。

 死神は口元に笑みを浮かべてゆっくりと自分(ティナ)の体を撫でる。綺麗な金髪から頬、首筋、胸元、腰元まで艶めかしくじっくりと。


「あなたの愛しいこの娘を生かしたければ私の話を聞いた方がいいわ。そこの女が以前いた世界で何をしていたのか、少なからずあなたも知っているのでしょう? 何千人と殺してきた女が小娘一人を殺すのに躊躇すると思う?」


「それはアイツだって好きでそうして生きてきたわけじゃ……」


「違うわね。自ら進んで命を犠牲にしてきたのよ。生きるため(・・・・・)ではない。目的のため(・・・・・)よ。達成するためならば手段は選ばない。あなたを助けるためなら依代を殺すこともいとわない。そういう女よ」


 ゆっくりとリリーナへ視線を移す。彼女は銃口を下げたまま身動き一つしなかった。サファイアの瞳は悲しさに溢れていて。口を固く結んだまま銃身を見つめる瞳は、死神の言葉を肯定しているように思えた。

 何故、なんでリリーナは動かない。何故、お前は反論しないんだ……。


「そこの女を殺せばあなたもこの娘も救われる。そこの男達も平穏な生活へ戻れる。悪くない話よ」


 死神はそこまで口にするとゆっくりと目を閉じた。


「それじゃ、吉報を待っているわ」


 ガタッとティナが椅子から崩れ落ちた。

 慌てて脱力するティナを支える。体は温かくて、あの死神が居た時のような寒気も殺意も消え失せていた。

 流れる沈黙。だけど桐生さんの声が突然、響く。


「……まさかさっきの条件、本気にしていないよな。赤坂」


「信じろという方が無理だ。何故ならあの死神が約束を守る保証など何もない。仮に我々がリリーナの首を差し出した所で、直後に私達を皆殺しにするくらい平気でやるだろう」


「そうだな」


「まずはティナさんの身柄を保護し、対策を練る必要がある」


「……対策って何ですか」


 自分でも声が震えているのはわかっていた。ティナの綺麗な顔を見つめながら、怒りを押し殺した声だった。

 俺は苦しみながらそれでも真実を求めてここにいる。ティナだって過去を全て話すのは傷口を掘り返すようなもの。それに自分が俺に刻印をつけた死神の依代だという事実は、彼女を相当、傷つけているはずだ。

 それなのに赤坂さん達の会話はとても無機質で淡々としていて。まるで劇場を見ている観客が内容について論議してるだけのように思えた。ただの演劇を見ているだけの彼らにはわからないんだ。その役が芝居ではなく実際に死んでいることに。

 

「正直に言おう。現時点で明確な対策はない」


「……ティナを殺す事が対策ではないんですか」


「確かに依代を殺せば死神は安息地を失うかもしれない。だが我々は殺すつもりはない」


「信じていいんですか」


 俺の言葉に赤坂さんは答えない。

 どうして答えてくれない!? 何故はっきりと約束してくれない!? 殺すつもりはない。だけど結果的に不本意だが殺してしまった(・・・・・・・)。それが成立してしまう言葉しか言わない! 何故、はっきりと否定してくれないんだ!

 その時、俺はハッとリリーナへ視線を移した。そうだ。彼女ならティナを殺すような事はしない。

 リリーナにとってティナは家族だ。たとえ死神が宿っていようとそれでも俺とティナと二人を助ける道を模索するはずだ。「ティナは殺さない」って約束してくれるはずだ!


「リリーナ。お前はどうするつもりなんだ? お前ならティナを殺すなんて言わないよな?」


 俺の言葉に彼女は一瞬、ビクンと震えて。ぶらんと下げた銀色の銃身を眺めながら、困惑しているのかなかなか答えない。

 だけど俺は信じていた。予想通りに「ティナは殺さない」って、そう言ってくれるって。

 しかし震える声で彼女が言った言葉に、俺には目を見開いた。


「……私は、ティナを無力化(・・・)する」


「無力化? 無力化ってなんだ? それ、どういう意味だよ? 殺すってことかよ?」


 その瞬間、俺の中で何かが弾けた。

 どす黒い怒りに混ざって「ティナは死なせない」って言葉が俺の脳内を駆け巡った。

 リリーナも観客に過ぎないのか。死神の言う通りに「手段は選ばない」のか。たとえ俺を守るためだとはいえティナを殺すのか。みんなで生きる道を探すんじゃないのか!?

 俺はそんな事望まない。俺は彼女を犠牲にしてまで生きたいなんて思わない!


「お前があの世界で大勢、殺したみたいに、ティナも殺すっていうのか!?」


 怒声が響き渡った。その時、リリーナのサファイアの瞳が大きく見開いて。壁にもたれかかると怯えるように体を小刻みに震えていた。

 俺はそんな彼女を置いてティナを抱きかかえる。


「……ティナを休ませる部屋はどこですか」


「案内するよ」


 間髪いれず桐生さんの返事が聞こえた。

 率先して部屋を出た彼を追って歩き始めた俺は一度、立ち止まる。


「……ティナは絶対、殺させない」


 短くそうつぶやいて。俺はリリーナ達のいた部屋を後にした。

 その時、俺と彼女の間で大きな亀裂が音を立てて走っていったような気がした。


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