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第23話「死神講習会(side リリーナ)」

 榊原の目は大きく見開いていた。

 私が彼に向けているのは銃。その銃口の先にあるのは、吹き飛んだサインペンだ。


「安心しろ。モデルガンだ。弾もゴム製だよ」


 実力が知りたいと申し出た彼に私が言ったのは「サインペンを片手で持て」だった。それをデモンストレーション用に持ってきたモデルガンで撃ち落とした。その結果、彼は石のように固まっている。


 驚愕に値するのは命中精度ではない。撃つまでの速度だ。おそらく彼には「狙いを定めずに速射した」としか情報は入っていないはず。銃撃に関しては経験が足りない私には本来、不可能な動きだが魔法が絡むことで実用化させている。

 それは索敵の目(サーチアイ)自動照準(オートターゲット)の魔法。索敵の目によりターゲットをロック。自動照準によりロックした対象へ体が勝手に動く(・・・・・)仕組みだ。私はそれに従って引き金を引くだけ。

 この自動照準は私のオリジナル魔法だ。元々はボウガンや弓を使う際に使用する。私はそれらの扱いが下手だから自分で作ったんだ。まさかこんな形で役に立つとは思わなかったが。


 だがその速射を見ても榊原は納得しなかった。


「射撃ではなく別な方法でお願いします」


「これでもだめか? それじゃ仕方ない。実力行使といくか」


 その結果、私の目の前で彼が大の字で倒れていた。

 彼を納得させるために私の実力を見せる必要がある。そのために私が選んだ方法は、実に合理的で誰の目にも力の差がはっきり理解できるものだった。そう、「腕相撲」だ。

 そんなことで決めるの的な空気の中、開催されたそれは「上位能力強化ハイポテンシャルブースト」により強化された膂力で彼を吹き飛ばしたことで終了した。勢いあまって床に倒れた榊原は肩を脱臼。


 ごめん。めっちゃ力いれすぎた。


 まさかの発足会で怪我人が出る状況。背中に刺さる赤坂の視線が辛い。


「怪我人を出せと言った覚えはないが?」


「いやまさか……あそこまで派手に吹き飛ぶとは思わなくてだな……」


「彼の治療費は君の給料から差し引く」


「ちょっと待て! そんな話は聞いていない!」


 慌てて食いつく私に向けられる赤坂の視線は氷のように冷たい。たぶんだがすごい怒ってる。


「当然だ。上に立つ者として部下に怪我を負わすなど情けない限りだ。ましてやモデルガンとはいえ部下に対して発砲するなど言語道断」


「いやしかし、君が説得しろって目してたし……」


「ほう? 責任転嫁か? そんな情けない上司など部下は必要としないだろう。私としても心苦しいが減給をしなければ部下への示しがつかない。……そういえば君の好きなゲームである聖剣乱武は近々、新キャラが実装されるそうだね」


「うぐっ」


 全身がビクンと跳ね上がったのを感じる。彼の言う通り聖剣乱武はアップデートで新キャラが実装だ。ワクテカが止まらない私としてはここで給料を減らされるわけにはいかない。ガチャが回せなくなる!

 それと同時に赤坂は敵にまわしたくないと心底、思った。


「……すみません。治療費、払わせていただきます……」


「理解が早くて助かるよ。リリーナ」


 内心、冷や汗をダラダラ流しながら言う私に赤坂は口元を少しほころばすと、「席に座りなさい」と短く言った。感情を押し殺して薄ら笑いを浮かべるその顔、すごく怖い。

 メンバーの一人に連れられて榊原は病院へ。この時、「腕相撲で軍人を病院送りにした」という不名誉な肩書きが追加されたと同時に誰一人として、彼の後に続く者はいなかった。

 椅子に腰かけた私を一瞥すると赤坂は、コホンと咳払いをして一呼吸。再びざっとメンバーを見渡す。


「……念のために聞くが、まだ意見のある者はいるか?」


「……いないと思いますよ。先程の彼は最後に配属となった関係で例の動画、見ていませんから」


「例の動画?」


 首を傾げてみせる私に、赤坂と同年代と思われるその男性はこちらに視線を合わせた。


菅原(すがわら)だ。例の動画っていうのは、銃器展示会にてあなたと死神との戦闘を記録したものだ」


「……そうか。あの時、感じた視線は君か」


「ここにいるメンバーのほとんどはその記録に目を通している。誰もあなたとまともにやり合おうなんて思わない。俺達は命令があれば人でも撃つ。だがそれは命令という枷があるからできること。しかしあなたは違う。自らの意思で人を殺せる。その人間の何十年という人生を何の憂いもなく一瞬で消し去ることができる人だ。俺は少なからずそう思った」


 何十年という人生を消すか。

 それならば私は何百年という人の生きる道を消してきたのか。数千年……いや、下手をすれば。

 脳裏をよぎるのは過去の記憶。小高い丘の上から見下ろす視点の先で無数に散らばるのは、焼け焦げた数千人におよぶ死体の山だ。

 

 ……今まで私は、数万年という人生をこの手で消してきたことだろう。


「君の言うことは間違ってはいない。私は殺人者だ。殺してきた人間の数は君達とはケタが違うよ。だがあえて言おう。そういう人間じゃないと奴は殺せない」


 そう。殺せない。ただの人間にはシオンを止めることはできない。

 人には理性がある。それにより確実に相手を破壊することをためらう。「殺せ」と命令され、止めようとする理性を「命令」という言い訳で抑え込み、弾丸を脳天に撃ちこむことで殺人を成せる。だが人はそこで銃口を下ろすだろう。何故なら相手は死ぬからだ。

 だがシオンは死なない。腕がもげようが足が潰れようが頭を撃ち抜こうがこちらへ向かってくる。その姿を見ただけで、普通の人間ならば恐怖に苛まれ反撃できなくなる。その時点で大鎌で真っ二つにされてデッドエンドだ。

 そんな化け物と渡り合っている私は、もはや人間ではないのかもしれない。


「こんな私だからこそ奴との戦闘で先陣を切るのにはふさわしい。化け物を狩るのは、同じ化け物だけだ」


 言葉の余韻が部屋に響く。誰一人として反論しない状況を「肯定」と見たのか、静まり返るその光景にうなずき赤坂が話を続けた。


「異論はなさそうだな。では実戦における死神への対処についてリリーナから説明してもらう」


 赤坂に促され、私は腰をあげた。

 ホワイトボードの前に立つと、胸ポケットからオーバル型の眼鏡を取り出して装着。映司との「グッズ争奪作戦会議」以降、何かを説明する際にこれをつけるのが癖になってしまった。もちろん指揮棒も準備万端。

 その姿を見て桐生がニヤリと笑うと一台のハンディカムカメラを取り出す。


「榊原の奴がこの場にいないし動画で撮るよ。眼鏡姿のリリーちゃんも様になってるし」


「口頭や書面で伝えればいいだろうが。撮る必要あるのか?」


「んじゃ俺も撮ろう」


 桐生のみならず菅原もカメラを私に向ける。お前もか。

 二台のカメラがじぃーと見つめる中、私は大きくため息を吐いた。どう見てもコイツら、個人的趣向で撮っているような気がしてならない。

 本来ならカメラぶち壊し案件だが、まぁ「見られる」というのは以前に比べてそんな悪くは思わない。女は見られて成長するというし。ちょっと変態が混ざっているような気はするが。


「はぁ。もう勝手にしろ」



 ◇ ◇ ◇



 ホワイトボードの表面で奇妙な光景が広がっていた。

 赤坂の指示で始まった私による「死神講習会」だが、当の赤坂本人でさえ驚きで何度も眼鏡をクイッと上げている。他のメンバーに至ってはポカーンと口をあけたままだ。その間抜けズラは妙に笑いに響く。

 彼らがそうなるのも無理はない。何故なら指揮棒を振るう私とは別に、空中に浮いた三本のサインペンが縦横無尽に動き回り、ホワイトボードに文字と図面を書き込んでいくからだ。


 念動力(サイコキネシス)による講習会。私にとっては特別に難しい芸当ではないが、慣れない彼らにしてみたら驚きの連続だろう。

 書き込まれていくのは死神に関する情報と、実際の戦闘におけるフォーメーションの解説だ。


「すげぇなコレ。動画配信サイトに投稿したら視聴率うなぎ登りじゃないか」


「桐生さん。俺も同じこと考えてましたよ。一儲けできますよコレ」


 そんなくだらない会話を切り裂くのは、念動力(サイコキネシス)で撃ち出された二本のペン。それは桐生と菅原の額をスコーンと直撃して、衝撃で二人はのけ反った。


「死にたくなかったら、くだらない会話してないで話を聞けアホども」


「はい。すいません」


 痛そうに額をさする彼らを一瞥して。再び説明に戻る。

 

 私が考えたのは後衛を担当する狙撃手を三人から四人で編成。そして一度、射撃をした後、すぐさま移動し別な場所から再度、狙撃する。移動中は別な狙撃手が担当。つまり固定のポイントから撃つのではなく、常に場所を変えながら狙撃をする作戦だ。

 理由はあのシオンならば射線から場所を特定しかねないこと。一度、弾道を予測されると回避する可能性もある。また、仮にポイントを特定された場合、私を無視して狙撃手を先に始末することも考えられる。魔法障壁のない彼らでは、死神と面と向かって対峙すると成す術もない。


「使用する狙撃銃は豊和1500だ。使用弾薬は.300ウィンチェスターマグナム弾。そして決め手となる切り札、対物ライフルとしてPGMヘカートⅡを採用する。使用する弾頭は12.7x99mm Raufoss Mk211多目的弾頭。これには私が<神聖魔法>を付与し死神を吹き飛ばす」


「それにより死神は死ぬのか?」


 桐生の質問に私は首を横に振った。


「無理だな。前提として言っておくが奴は死なない(・・・・)


「体が粉々になっても?」


「そうだ。霊子分解……この世界で言うなら原子分解のようなものか。それならすでに実行している(・・・・・・)。それでも奴は数年後には平然としたツラを引っ提げて私の前に現れたよ。奴を殺すことは不可能(・・・)だ」


 ごくりと息を呑む音が聞こえる。人智を超えた正真正銘の化け物。ここにいるメンバーはそんな奴と戦わなくてはならない。

 一応にみなそれは理解したのだろう。あの桐生でさえ真剣な表情で私の話を聞いている。


「だが銃器展示会での一件のように、奴の活動を一時的だが停止させることはできる。対物ライフルにより頭部を含めた体を半分以上、破壊できれば奴は肉体を維持できなくなる。そこを私の魂縛魔法で縛り上げる」


「こんば……なんだって?」


「魂縛魔法だ。魂を物や場所に固定させることができる。分かりやすく言えばそうだな。地縛霊を作れると思えばいいか」


「地縛霊ねぇ。それで、そこから先はどうする?」


「正直いってここから先はもう推論の域はでない。何故ならそこまであの女を追い詰めたことはないからな。あくまで予想だが魂の状態のまま固定された場合、徐々に弱ると思われる。ここから先は未だ検討中だ。ただ少なくとも奴がこれ以上、この世界でのさばることは阻止できるだろう」


 ここまで話をして私は指揮棒を折り畳み全員を見渡す。「他に意見は?」という問いかけにみな沈黙。


「ないようだな。ならば話は終わりだ」


 眼鏡を外し席に戻る私を見て、赤坂が再びホワイトボートの前に立った。


「各自、今の話を覚えておくように。菅原、撮ったのならば榊原に見せてやれ」


「了解」


「では今日は解散とする。常に連絡は取れるようにしておけ。いつ奴が現れるかわからない。死神が再びこの街に現れた時、それは我々にとって戦争の始まりだ」


 銀狼のメンバーは、赤坂の「解散」という言葉に続々と席を立ち部屋を出ていく。赤坂はいまだ椅子に座る私の前に近づいた。

 隣にいる桐生は撮った動画を確認しているのかカメラを見つめている。その妙にニヤつく顔、無性に殴りたい。


「講習会はなかなかだった。人に教えたことがあるのか? 思ったよりスジが良い」


「たまたまだ。あまり人に教える柄じゃない」


「オレもいい動画が撮れたよ」


「配信サイトに公開したら殺すぞオッサン」


「怖い怖い。しないって!」


「しかしこうして奴を仕留める準備は整っていく。だが幸か不幸か奴は今だ現れない。それについてリリーナ。君はどう思う?」


「正直に言って想定外(・・・)だ。奴の性格を考えたらもっと積極的に攻め込んでくるものだと思っていた。だが実際は雲隠れだ。最近、不安になるよ」


 私にとってもっともあってはならないこと。それはあの死神が「このまま現れないこと」だ。

 この街は平和になるかもしれない。だが映司はそれだと助からない。そして赤坂も復讐を成し遂げることはできない。

 もし仮にそうなったら。このままシオンが現れずその所在も突き止められなかったら。精神的に衰弱し刻印により死ぬ映司を私は見なければならないのか。


 ……そんなもの、私は見たくない。


 赤い目を浮かび上がらせて嘲笑するシオンの声が、頭の中にこだましていた。

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