奴隷屋イリテムの需要と供給
ええ、ええ。こちらをご希望と言うことでございますね。お勧めできませんが勿論御客様のご希望には適う限り沿うよう努力するのが私どもでございます。
えっどうしてお勧めできないかでございますか？ はい、ご提示されたご予算を超える為、でございます。ご高名なゴウツクバリ卿においてはご存知のことですが、当店では一切の値引きが叶いませんので――ええ、店主の意向です――ええ、はい、左様でございますね。私どももご協力したいのは山々なのですが、ええ――ご理解頂き光栄でございます。
類似したものが在るか、ですか？ 類似の程度によりますが、ええございますよ。ただいまご希望の条件を全て備えたものは、全てただいまお見せしたものよりも高値でございます、はい、残念ですけれども。
幾つかの条件で構わないと言うことでございましたら、今よりもお買い求めやすくなります。現在ご提示の条件を一度確認いたしますね――蜂蜜色の髪、海色の瞳、薔薇の唇、優しげな美しい顔、透き通るような白い肌、華奢でありながら頑丈で柔軟な体躯、美巨乳、美尻、肉感的大腿部、美しいくびれ、ほっそりした二の腕、引き締まった足首、くっきりした鎖骨、家事全般、護衛術、語学、算術、房中術、礼儀作法、従順、明朗、健気、嫉妬（中）、好色、貞操、年齢十五未満、それからええと――（以下十八禁条件長々と続く）――以上で宜しいですね？ ええ、はいもちろん。よろしければ他にも幾つかお見繕いいたしましょうか？ ええ、勿論ご予算に収まる範囲内で。
はいお待たせいたしました。こちらはいかがですか？ ええとても美しいでしょう？ きっとお気に召す外見だと思いまして。ああ、どの条件を削ったかですか。ええまず美巨乳を巨乳に変更いたしております、なに少し垂れておりますが質感柔らかさは随一ですよ。又従順さと健気さ、嫉妬（中）、貞操は備えておりませんね。代わりに反逆心、殺意（大）、暗殺術が――え？ そうですか、こちらは見送られますか。かしこまりました、では次を連れて来なさい。
まあ先程の彼女は既に主を片手では足りぬほど失っておりますし、少しばかり縁起が悪いかも知れませんね。ご高名なゴウツクバリ卿はご存知でしょうが、ほら、半年ほど前、ございましたでしょう？ ええ、スヌーズの乱でございます。かのスヌーズ公爵の盾たる騎士隊は美姫で構成されていたのですが、まあご覧になったことがおありなのですか？ 羨ましいですな。そう、その騎士隊に公爵がどこからか連れてきた、それはそれは美しい姫を隊列に加えた途端、騎士隊はいずこかへ消えてしまったのです。盾を失った公爵はいとも容易く民衆に飲み込まれてしまったと。そういう顛末だったのですが。ええ、勿論ご存知でしたね、お耳汚しをお許しください。助手達にも聞かせておるのだと平にご容赦を。
そう、そしてその美しい姫ですが。噂では、左の乳房に隠れるように蛇型の痣があるそうでございますよ。ああ承知いたしました、先程の彼女をもう一度お連れいたしましょう。
さあどうぞ、君、両手を高く上に上げたまえ？ そう、いい子だね。さあどうぞゴウツクバリ卿、え、気が利くと？ 恐悦至極でございますね、卿ならばきっとそうおっしゃるだろうと着替えさせましたのでね。ええ、極上の絹糸で織った透ける布でございます。お手を触れていただくにはお買い上げいただかねばなりませんから、ええ、店主の意向でございます、せめてよくご覧になっていただけるようにとの私どもの精一杯の気配りでございますよ。ぐいと乳房を持ち上げる衣装で腕を高く上げれば件の痣も――ああ、それは乳房でございますよ！ 持ち上げずともよく見えておりますのに！ 触れてしまわれましたか……残念ですが、彼女をお買い上げいただかなければなりませんね。入店の際に確認させていただきましたでしょう？ 商品にお手を触れられたならばお買い上げの意思有りとみなされるのです。え、俺を誰だと思っていると？ ようく存じておりますとも。ゴウツクバリ卿、げに名高きラース・ベガースが御領地の、御領主代行でいらっしゃる。
さて偶然にもこのものはちょうどご提示いただきましたご予算ぴったりでございます。お買い上げいただけない場合は――ええ、ええ、勿論店主の定めたルールでございます――ご来店が叶わなくなる、というだけのことでございますね。いかが致しましょうか、あ、お買い上げ頂ける。ようございました、今後ともどうぞ末永くご贔屓を。
◇ ◇ ◇
さてさて、無事お買い上げいただけましたね。ええ、きちんと意に沿った形での販売になりますから、きっとあなたの希望がすぐに叶うでしょう。いえなにこれが私の仕事です。さてそれでは、あなたの前途が明るいものでありますように。いってらっしゃい。
◇ ◇ ◇
ああ、おかえりなさい。希望は叶いましたか？ ああ、叶った、それは上々。彼はあなたを楽しませてくれたようですね。さてそれでは、また私に売りますか？ それとも別な道を歩みますか？ はい、売っていただける、ありがとうございます。それでは彼の最後の言葉を教えてください。なるほど――許さんと。おのれ。やめろ。あとは悲鳴、ですか。謀略を巡らせ実権を握った代行様にしては、あまり冴えたものではありませんね。安穏と十数年を過ごすうちに刃も鈍ったのですかねえ。いくら言っても商品に手を付けることを止めてくださいませんでしたからね。まあ、おかげさまで事が運びやすかったのは間違いありませんでしたし感謝しておきましょう。さあて、次に備えてあなたはまた綺麗にならなければね。では、ごきげんよう。
