アルフォンド家における日々 2
今回はキュステさん視点とライト視点です。
キュステ視点
キュステには悩みがあった。
何を隠そう、レイアのことである。
道場に通い始めてからというもの、意識的なのか無意識なのかはわからないが、日に日にレイアの言葉遣いが男の子らしくなっていくのだ。
レイアから道場に通い始める当初にこれから軍に入る予行練習も兼ねて男の子らしくしていくつもりであるという話は聞いていた。
キュステとてそれは納得していた。
しかし、しかしだ。キュステは見誤ったのだ。道場は男所帯。レイアが男の子らしくなったとしても、それは外だけでの話だろうと予想していた。だが、現在、男所帯で過ごす弊害だろうか、レイアは自然に男の子らしくなった。なり過ぎた。最近では家の中でもたまに男の子らしい言葉遣いをするぐらいだ。
キュステは悲しくなった。一緒に過ごし始めた頃と比べるとあの可愛らしいレイアは消えてしまい、十分過ぎるほど逞しく成長した。本人は筋肉が付きにくい体型を気にしていると言っていたが、キュステから見れば胸を潰して道場に向かうレイアの姿は立派な少年体型である。
ーーこのままではいけない。
キュステは思った。レイアはこれから益々男の子らしくなるだろう。軍に入るなら当然のことだ。わかってはいる。わかってはいるが、それでもレイアは可愛い女の子なのだ。キュステにとっては娘も同然。少しでも、少しでもいいから、逞しく成長していく彼女にも女の子らしさを残したい。考えに考えた結果、キュステはレイアに一つお願いをした。
「レイア、貴方が軍を目指す為に男の子らしくなっていくことは見守るつもりだよ。でもね、それでも中身は女の子なのだから、せめて、髪は伸ばしなさい。体型も言葉遣いも今のレイアは本当に男の子らしくなったのだから、髪ぐらい伸ばしても大丈夫だと思うんだ。お願いだから」
レイアは拒んだ。当然だろう。髪など伸ばしたら女の子に見えてしまうかもしれない。
しかしキュステは押した。強く押し続けた。レイアの髪を切った時、どんなに悲しかったかを懇々と語り聞かせ、貴族の師弟や軍にも髪の長い男性は多くいると語り聞かせた。
実際レイアも道場や街中で長髪の男性を見かけたことはあった。
最終的にはキュステが涙を流しお願いする姿に負け、レイアは髪を伸ばすことにしたのであった。
しかし、以上はキュステから見たレイアの話であり、道場でのレイアは凄く綺麗な顔をしているくせに実力は有り得ないくらい強い美少年として通っているということを、二人は知らなかった。
ライト視点
気に入らない。気に入らないと言ったら気に入らない。誰がと言ったら答えは一つだ。レイ。あの女みたいな顔した女男のことだ。夏真っ盛りの現在、彼は益々稽古に打ち込んでいる。それは以前と変わらない。
しかし、何がどうしてそうなったのかーー
「ライトくん!」
ほら、来た。
何があったのか知らないが、ここ最近、レイはやけにライトに構ってくるのだ。
「丁度良かった。少し聞きたいんだがーー」
ライトに話しかけてきては戦い方や技の出し方について相談してくる。理解出来ない。ライトとしては気に入らない相手にアドバイスなどしてやるつもりは無い。だからいつも適当にあしらってる。にも関わらず、奴はめげない。正直ウザイ。夏の陽射しの暑さも相俟ってイライラする。
「ああもう、毎日毎日何なんだよお前!態度でわかるだろ!僕はアンタが嫌いなんだよ!話しかけてくんなッ!!」
シ…………ン。
積もりに積もった鬱憤が、爆発してしまった瞬間だった。予想以上に大声でしてしまった発言は当然響きわたり、道場は静まり返った。
(し、しまったーー)
流石に今のは、言い過ぎた。
恐る恐るレイアの様子を見るが、彼は顔を俯けていて、表情を伺うことは出来ない。
「お、おい、ライト、何もそこまで言うこと無いだろ」
「突然どうしたんだよ、お前」
「……っ、う、うるさい!」
わかってる。こんなのただの子供の癇癪みたいなものだ。もう十五歳になるのに、何て子供っぽいーー。急に自分が恥ずかしくなった。
しかし、
「あー、違うんだ。皆。俺がしつこ過ぎたんだ。最近ライトくんにばかり質問してたし。ごめんな。これから気をつけるよ」
レイは笑ってそう言ったが、無理してることは一目瞭然だった。悲しそうな目をみて、胸の中がもやもやした。ああ、今の僕は間違いなくかっこ悪い。
「おい……ちょっと、」
「え?」
「ちょっと、こっち来い」
そのまま道場居続けるのもいたたまれなくなって、ライトはレイを道場の裏の方に引っ張って言った。
「で、何を聞きてぇんだよ。」
「え、」
「なんだよ。時間ねえからさっさとしろよ。昼休みが終わっちまうだろ」
「あ、えっと、どうやったら木刀を打つ瞬間の力が強くなるか知りたいんだ。俺は皆と比べて腕の筋肉が付きにくいせいか、どうしたって力の部分が弱くなってしまうから。ラ、ライトくんにばかり聞いてしまったのは、上級組の中で周りは筋肉高々な大人ばかりの中でどうしたって細身に見えるのに、同じぐらい力強い打ち筋を見せてて、純粋に憧れてしまって……しつこくして、すまなかった」
(なんだコイツ、凄く……)
凄く恥ずかしいことを、堂々と。ライトは照れくささから顔が赤くなるのを抑えられなかった。
(憧れてってなんだよ……っ!!)
自分は一方的に敵視してばかりだったのに。ライトは、レイは自分なんてその視界にすら入れてないと思っていた。凄まじい成長スピードを持つレイは、自分なんて気にしてないと思っていた。それが、とてつもなく悔しかったのだ。なのに、実際は全くの逆だった。
(馬鹿みたいだ、僕)
はぁ、ライトは溜息をついた。レイはまだ不安そうにこちらを伺っている。
「別に、もう気にしてねえよ。……俺こそ、さっきは悪かった。言い過ぎた……ちょっとイラついてて、八つ当たりしちまった」
レイの反応を伺うと、驚いた顔でこちらをみていた。
「なんだよ、その顔。俺が素直に謝ったらおかしいか」
「えっ!いや、そんな事はない!!ちょっとびっくりして……」
「やっぱおかしいって思ってんじゃねーか!!」
「そ、そんな事ないってばーっ!!」
暫く押し問答を続けたが、一息ついて、ライトは空気を切り替えた。道場で稽古に打ち込む時の、それだ。レイもそれを感じ取ってすぐ様精神を切り替えた。
「一回そこで素振りしてみろ」
レイアは言われた通りに素振りをした。
振り下ろす瞬間の木刀をライトは受け止めた。そして口を開く。
「今、何処に力入れてる?」
「え、何処って……勿論腕に……」
「それが駄目なんだよ」
ライトはレイアに一度楽な姿勢になるように言うと、説明を続ける。
「さっきお前は俺に自分は周りと比べて腕の筋力が足りない。だから打つ力が弱い。それを何とかしたいって言ってたな?」
「う、うん」
「だったら腕に力入れたって駄目だ。意識するのは、肩、背中だ」
もう一度素振りの体制になって振りかぶってみろ、とライトは言った。レイアは言われた通り振りかぶった状態で静止する。
するとライトはレイアの肩を強く押し、背中と肩の筋肉に力を入れるように指示した。
(……あ、)
「わかっただろ?」
レイアはコクコクと頷いた。
「腕の筋肉と肩の筋肉は繋がってる。背中の筋肉だってそうだ。腕の筋肉だけじゃ力が弱いってんなら、肩の筋肉も使えばいい。体全体の筋肉を使って木刀を打つ力を強めれば良いんだよ」
そう言ってライトは道場に戻ろうとした。
すると突然強い力で背中を押された。レイが飛びついて来たのだ。思わずこけそうになり、あぶねぇだろ!と振り返りざまに怒鳴ろうとして、口に出せなかった。何故なら振り返った先のレイが余りにもキラキラとした目でこちらを見ていたのだ。
「ライトくん、凄いね……!!凄い……っ!!」
「なっ、」
「俺、全然そこまで考えられてなかった。素振り一つでこんなに感覚が変わるなんて……!!本当に凄いよ!!」
余りにも嬉しそうな笑顔を向けて、真っ直ぐに照れること無く尊敬の言葉を向けてくる。
ライトは幼い頃から優秀だった。いつしかそれが当たり前になっていた彼は褒められることに慣れていないのだ。
顔が熱い。この熱は夏の暑さのせいなんかじゃない。目の前の笑顔を見ると心臓がドクドクと脈うつ。
(なんだコレ、何だこれ、心臓が、うるせぇ!)
道場の方から集合をかける声が聞こえた。
「あ!集合だって!行こう、ライトくん!」
そう言ってレイはライトの腕を握って走り出す。
掌から伝わる熱がやけに熱く感じた。ライトはこの感情の名前を、まだ知らない。
ふー、前回に引き続きようやく恋愛っぽい要素が出てきましたね。ですが肝心のヒーローがまだまだ出てきません。彼を早く出したいけど、まだまだ出番は先になりそうです……
あと内容に素振り伝々の話であがありますが、作者は中高と剣道をやっていただけの個人的解釈ですので、あてにしないでください。
いつも読んで下さりありがとうございます!




