11月14日号 『母の面影』
貴重なお時間を割いてまで、
このような無駄文に目を通してくださいまして、本当にありがとうございます。
「ほんじつのむだぶん」は少々重めの内容になっています。
楽しいお話をご所望の方は、今のうちにお戻りいただければと思います。
相変わらず、クイズバラエティというコンテンツは盛況のようです。
今日も夜のバラエティ番組の内容はクイズ番組が並べられており、
知の覇を争う戦いが繰り広げられていました。
その中で当たり前のように問題の範疇に入っているのは、『漢字問題』でしょう。
読み・書き問題を皮切りに共通する部首であったり、書き順であったりと、
問題の種類も多岐にわたります。
確かにITの普及により、急速に書く事が失われていきました。
「読む事はできるけど書く事ができなくなってきた」と実感される方も増えてきている事もあり、
問題としてはうってつけの種類の問題になっています。
そんな漢字の書き取りの問題で、こんな問題が出されました。
『クしくも』
小説などを読んでいると、結構な頻度で出てくる言葉であり、
事実、逸般人も「むだぶん」で幾度となくこの言葉を使ってきました。
しかし、使ってきた言葉をなぞろうとしても、指は宙を彷徨うばかり。
答えは『奇しくも』。
ちなみに大辞泉先生のご登場いただきますと、『偶然にも』という意味で使われます。
使っている言葉なのに答えが出てこなかった事実に、
若干苛立ちを覚えたのか、
以前書けなかった『相撲』『流鏑馬』と併せて忘れまいと宙で何度もその漢字をなぞります。
繰り返し続けないと覚えられない事もあり、
丁寧には書かずに走り書きでなぞっていたのです。
それを繰り返しているうちに、妙な記憶が掘り起こされたのです。
「あれ?どこかで見たような気がする…」という疑念は広がっていくまま。
ふとテーブルの脇に紙とシャープペンシルがあったので、
なぞったように「奇」の文字を走り書いてみたのです。
理由は明白でした。
その文字の形が、母の文字にとても似ていたのです。
私自身は、母の痕跡をなるべく消そうとしていました。
それだけ母が父にやってきた頃があまりにも非道いものでした。
父が働いてこれぐらいは溜まっているだろうと思っていると、
その大半が母のギャンブル代として消え、大きな借金を抱えていたから
新聞配達をやっていたり、
身内には懐疑的なのに、他人には甘く色々と騙されて買わされたり
お金が入ったと思いきや、家事を放り出して閉店までパチンコ屋さんにいたりと、
散々な事を父に対してやってきました。
しかも、私自身が母に瓜二つな事もあり、
嫌な事を思い出させないようにと懸命にその痕跡を消そうと躍起になっていましたし、
極力、鏡に映る自分の顔を見ないように努めてきました。
しかし、不意に忍び寄ってくる母の影。
この呪縛と生涯付き合わないといけないのかと、重々しい溜息を1つ落としてしまいました。