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圧倒的摘出

 脚部のオウラクロウが大地を踏みしめ、合体アヴィスーツの全身からプラズマがほとばしる。電流が空気を震わせ、光が衝撃を紡ぐ。青白い旋律がV・グラウ、そしてハルマゲドンを包み込んだ。

「タキオンドライヴ、フルパワー。AGS、ホッパータスクで固定」

『ウィルコ』

 アンタレスの求めに応じて、グラウがアヴィスーツの動力を調整する。胸元の結晶体、タキオンドライヴの輝きが増し、フットパーツの人工筋肉が膨張する。五つのカメラアイがハルマゲドンの姿を捉え、出力上昇に伴い異常発光する。

 立ち込めた蒸気が晴れていく。V・グラウのハンドパーツ、細長く収束していたクロウが展開し、蜘蛛の足のように禍々しく広がる。身の丈の半分ほどにまで伸びた爪が、青白い光を発した。直後、ハルマゲドンの左の拳が、V・グラウに振り下ろされた。

 プラズマがほとばしり、消えた。

 砕かれた瓦礫とともに、ハルマゲドンの後ろ脚の甲殻が舞い散った。青い足跡が宙に描かれ、空中に着地したアヴィスーツが尾に向けて突進する。クロウが右後ろ脚に絡みつき、関節を引き裂いた。

 突撃、着宙、突撃、着地する。移動から攻撃まで1秒にも満たない。反重力制御システム、AGSを搭載した脚部によって重力のベクトルを操作し、疑似重力と併用することによって、超加速と三次元軌道を可能とした。

 空を蹴り、大地を飛ぶ。ハルマゲドンの左前脚、尾、右第三脚、腹部、左第二脚がドス黒く染め上げられる。オウラクロウの纏うプラズマが細胞を破壊し、再生不可能なレベルで死滅させる。

 黒い悪魔の絶叫が咲き誇り、支えを失った体が地面に倒れた。瓦礫が砕け、砂埃がもうもうと立ち込める。それを払いのけるように、V・グラウがハルマゴンの目前に着地した。

 粉塵と体表に残留したプラズマがはじけ、バチリと音が鳴る。金属の足が大地を踏みしめ、伏せたハルマゲドンに迫る。

 カメラアイが水色から赤色に変わり、展開したクロウを再び収束させる。鋭く、尖ったそれをハルマゲドンの頭に振り下ろそうとして、V・グラウが巨大な影に覆われた。

 騙し討ち。瞬時にハルマゲドンの上半身が起き上がり、先端の欠けた前脚を振り下ろす。ダメージを負ってもなお、速度が衰えることはない。摩擦と風圧で押しのけられた空気が破裂する。断頭台のごとく重く、致命的な一打がV・グラウに迫る。

 直前、V・グラウが前かがみになる。背部のレーザーキャノンが展開する。二筋の青い光がハルマゲドンの両脚を飲み込んだ。

 切除された脚が地面に転がり、ハルマゲドンが狂ったようにのたうち回る。

 ――私を撃って。全部、終わらせて。

 痛みと屈辱に塗れ、ハルマゲドンが怒る。残された最後の武器、口に生えた無数の牙がせり上がり、溶解液の混じるよだれを滴らせる。砕けた脚を強引につき立て、地面を震わせながら突進した。

 圧倒的質量の濁流、それをV・グラウは二本のクローで受け止めた。AGSユニットが疑似重力を形成し、運動エネルギーを減衰させる。殺しきれなかった衝撃が地面の瓦礫を吹っ飛ばし、オウラメタルを軋ませる。

 アヴィスーツの頭を喰いちぎらんと、悪魔の口が大きく開く。肉片のついた牙を伸ばし、喰らった子供たちのようにかみ砕こうとする。

 ――お願い、だから、ね。あなたの手で、私を。

 青いレーザーが、ハルマゲドンの口を貫いた。光の筋が側面をなぞり、緑の鮮血とともに肉を抉る。ハルマゲドンの顎がダラりと垂れる。

「オウラクロウ、出力最大」

 Vグラウがつぶやくと同時に、腕におびただしい量の電流がはしりだした。空間が弾け、クローに掴まれた甲殻に亀裂が入る。肉が焦げ、爪が溶け、黒煙と白煙が歪に入り混じる。

 そしてハルマゲドンの側頭部が、Vグラウの腕に引きちぎられた。

 細胞が破壊し尽され、脆くなった筋肉がボロボロと零れ落ちる。悪魔の複眼がひっくり返らんばかりに暴れまわり、露出した脳がプルプルと震える。白い筋が無数にはしる神経中枢、ボウリングのボールほどの大きさのそれを、クローを排出したVグラウの手が鷲掴みにした。

 太陽の逆光の中で、輝きを増したカメラアイが脳を見下ろす。冷たい装甲が紅く染まり、指に纏った影に陰りが増す。

 ――ごめんなさい。わたし、あなたのこと……。

 ちぎれる神経、血しぶき、断末魔、体液が滴り落ちる。ハルマゲドンの脳髄が、Vグラウによって摘出された。



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