遠いどこかの無人の砂漠で音も無く砂が崩れた。
もし私が不思議の国の少女だったなら、と、本気で考えたことがある。
そして、今現在もそれを考えていた。
「……」
私はただ、目の前の光景に目を疑わずにはいられなかった。
否、疑うのではない。私は今まさに目の前の光景の前に立つ主人公だ。万が一にも私であろう者が疑うなどとあり得ない。私が処理するものはすべて真実であり、事実であり、正解だ。
私の目の前にあるものリスト。
血ぬれた小脳。
血ぬれた頭蓋。
血ぬれた脂肪。
血ぬれた臓物。
血ぬれた骨片。
血ぬれた肉片。
血ぬれた眼球。こちらを見ている。
私はその眼球を拾い上げた。しばらくそれをころころと玩ぶ。そして、最後にはその眼球にナイフを突き立て、ナイフもろともそこら辺にほうり投げた。眼球から滲み出した房水と硝子体液が放物線を画いて地に「ぴしゃり」と音を立てて落下した。五デシベル未満。
血だまりの上をしたり顔で渡り歩く。「ぱしゃぱしゃ」と足下で血が騒ぐ。二十五デシベル以上。
私はとくに散らかり放題の地点の真ん中に立つと、勢いよく後ろに倒れた。まだ温かい生の温もりが伝う。
私の脳はたまにエラーを起こす。だから、この感覚においてはごくたまに当てにならない。今回は、エラーだろうとなかろうとどちらでも平均以下の結果しかシミュレートしていない。万が一はない。すなわち、それは私の見るもの全てが真実であり、事実であり、正解だということだ。
私はその生の温もりを省みた。
やはり、殼だった。
私は立ち上がる。空を仰ぎ見た。
黒い雨だ。
黒い雨が降ってきた。重油のようだ、と表現すべきだ。
下を見ると殼が黒く染まってゆくのが確認できる。黒に優る色は無く、「これこそ」が変えられない、代えられないものの象徴だ。例外は、私が適当だ。
散らかり放題の地点を離れる。少し小高い段差に登り、私が眺める一帯を確認する。
果てしなく遠い地平線まで見えるものリスト。
殼。
瓦礫。
黒い雨。
水溜まり。
それは灰と黒。
段差から降りた。
降りて歩き始めた。
それらは段差の向こう。
向こうに隠れて見えない。
これを判断できるものリスト。
過去。
現在。
未來。
数ヶ月後、私は目覚めた。
そして、私は罪を知った。
私の中に生まれたもうひとりの私が、今まで私が積み重ねてきた罪を教えてくれたのだ。
もし、あのままであったなら、私は私が生きていたことそれすら知らずに今日を迎えていたのだろうか。だが、それはもしかしたらまったく愚かな疑問なのかもしれない。
言葉を知らず、我を知らず、それを知らずに生きていたのなら私がこのように思うことすらないのだ。単に、私の中にまぎれもなく有機体であると言える痕跡が芽生えただけだ。いずれにせよ、私が感じる気持ちは以前となんら変わりない。
ああ、生きているな。
それだけの気持ちのはずだ。
彼女とともに旅するまでは。