58《元上司と部下》
本来、動いている標的に弾を命中させることなど簡単に出来る事ではない。だが、鬼ち……過酷な訓練の賜物だろう、ジェラレオ達の放つ弾丸は的確に敵を貫き、その数を減らしていく。
「魔法兵が増えて来たね……これは近いよ。……お土産の準備は良いかな!?」
M134は右手の上腕部へと新たに装着されたシールドと手の甲側の間に挟み込むようにして黒い銃身束を覗かせている。その右手を掲げると、勿論だ、という意味を込めてその銃身をきゅいん、と一瞬空転させて見せる。
ドーナツ型に展開する人馬の中心部へと向かう中。立ちはだかろうとする兵士は割合で言えば半々だ。
進むに連れて密度自体は濃くなるものの、俺達の進軍に比例して伝播してゆく見慣れない高速船や強力な重火器の情報、加えて北側からはドラゴンの叫び声がこだまするといった状況で、正規軍の士気は下がり続ける一方に見える。
魔法を使用出来る人材はやはり貴重な存在らしく、ここまで来てやっと火球や土塊などがちらほらと飛来し始めたが、元来魔力を吸収する性質を持つ青銀鉱石で構成される竜騎装には通用せず、衝突手前で見えない手にかき消されるかの如く、崩れ消えてゆく。前を突き進むラフトも、巧みな運転で魔法をかわし続けており目立ったダメージは見受けられない。
(このまま、行かせてくれ……!)
そう念じた瞬間、尻込む魔導兵達をかき分け、一際大柄な騎馬に乗る重装騎兵が躍り出る。板金技術の乏しいこの世界で初めて目にするプレートアーマーを身に着けた騎兵は右手で長大な剣を抜き放つと、左手には魔力を収束させながら言い放つ。
「……ここから先へは通さん」
「おっ! っと!? ……これはこれは、懐かしい顔じゃないか……」
「ジェラレオ……、あの器用な男は知り合いか?」
無線を通して話しているにも関わらず、何となく小声で話しかけてしまう。
「そりゃまぁ、知り合いも何もねぇ……。元同僚さ」
「……貴様達、何をコソコソと話している!」
「……やぁやぁ! 久しいね、魔剣のユーゴー! 今は……繰り上がって総隊長殿かな? 今日はお出迎えかい? そうなら僕はとても嬉しいね!」
「まさか……ジェラレオ……副隊長殿? ……生きておられたのですか……」
「勿論さ、僕が簡単に死ぬようなタマだと思っていたのかい? ……閣下、申し訳ないんだけどさ、此処からは一人で行って貰ってもいいかな。公爵の顔は見たら分かると思うよ、そりゃあ悪そうな顔してるからね! ははは!」
「……それは構わんが……」
「分かってる。危なくなったら即座に退くよ。”勇猛さより慎重さ”……そうでしょ?」
「……その通りだ。」
「じゃあこの場は僕に任せてよ。上手くやるからさ。そうそう言い忘れる所だった。戻ったら戸棚の奥に隠してる”クースー”ってお酒を頂いても? 世紀の告白劇ってビッグ催し物のお供には良い酒じゃないとねぇ?」
「なぁっ!? ……はっ! 獅冬か!!」
片頬を釣り上げ、ニヒルな笑みを浮かべるジェラレオには、色んな意味で……もはや溜め息しか返せない。
獅冬、グスタブ、ジェラレオと多くの酒豪達が出入りする自宅に美酒を安全に保管できる場所は極々少ない。ゴルナートといい、この世界の者達は酒好きが多く、またアルコールにも強い傾向が有る。リアマーラやエリアスですら酒に強いのだ。
元から家に保存していた物や木村経由で送って貰った一品を含めて、安全な所に分散して隠してある。中でもキッチンの戸棚の奥、様々な調味料瓶に紛れ込ませて保管していた筈の”クースー”は泡盛古酒。帰ってからの約束も含めて何故ジェラレオが知っているのか。
「クソ……あれは秘蔵の品なんだ。……期待してろ」
「そうこなくっちゃね! それじゃ……また後で!」
「副隊……いや、賊軍共よ!! さっきからペラペラと何を話している! 私がここを通すとでも思っているのかっ!」
「……すまんが通させて貰う。ジェラレオ、ここは任せる! ……四十年物のクースーに見合う仕事をしろ!」
叫ぶと同時に竜騎装の身をグッと地面に屈めてスラスターの出力を調整。足のブロックパターンが地面をガッチリと掴んだことを認識すると勢い良く魔力を開放し、大きく体を伸ばして前方に一気に飛び上がった。ずばん、という衝撃音が周囲の者達の体を揺らす。
自分達の総隊長と、元近衛隊副隊長? との会話に割り込んで良いものか、と真明達の周りを取り囲むだけに留まっていた騎兵たちの殆どが、衝撃波に驚き飛び跳ねる馬から振り落とされ、暴風から顔を守ろうとする魔導兵達を巻き込んでいく。
「なに……!? 行かせるかっ!」
ただ一頭、竜騎装の大ジャンプにも動じない馬に乗るユーゴーは、すぐさま追おうと手綱を巧みに操り鼻先を向けるが、前に滑り込んだラフトが強引にその進路を塞ぐ。
「……そこを退けぇ! この……裏切り者が!」
憎々しげなユーゴーの口調とは対照的に、ジェラレオの口調は軽やかで、僅かに楽しげな色合いを帯びる。
「いやぁー”任せる”なんてはっきり言われたの初めてだからねぇ、給料分は働かないとさ。それに……久しぶりの再会だよ? もう少しゆっくり話そうじゃないか」
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長大な外周防壁、正門のすぐ内側。
兵士たちの体を冷やさないようにとグスタブの指示でストーブ型魔道具が、かき集められている。その一角でちびちびと舐めるようにして蒸留酒を飲みながら話を続けていた獅冬達の元へと走りこんできた元近衛の通信兵がやや緊張した面持ちで伝える。
「グスタブ様! たった今斥候部隊より、敵を視認したと連絡! ……今だカタパルトを押している模様!」
「おぅおぅ、遂にここまで来やがったな……。ん? グスタブ。カタパルトは弾切れじゃなかったのかよ」
「うむ。確かに石弾は突きておった筈……。しかしシトウ殿よ、弾の事より此処まであれを運んできた事の方が不可解ではないか?」
急造された砦と壁は木造建築。だがその基部は晴彦が意地で吸い上げた金属製でその高さは数十センチは有るのだ。巨大なカタパルトが簡単に乗り越えれる物でもそう簡単に破壊出来る物でもない。無理やり引っ張り上げて通したのか、大きく迂回したのかは不明だが……。なによりここは森なのだ。林道が有るとはいえ、決して楽な道のりでは無いはず。そこまでして弾の切れたカタパルトを運ぶ理由が分からない。
「まぁ……なにかしら、企んでやがるってこったろうなぁ……」
「相違ない……。だが、何人足りともこの壁の中の土は踏ませぬ」
「言うねぇ。ま、五体満足で帰ってこいや。この歳で飲み友達が減るのは辛い。非力な民間人のオッサンは倉庫に引っ込んでるからよ。
「我よりまだまだ若いくせに……ふ、任された! ……シュピンナー隊は前へ出ろ!! スケイル隊も総員配置に付けい!!」
三機のシュピンナーは、オリーブドラブを基調とするシックな三色迷彩に塗装され、後部からはM2ブローニング重機関銃を構える射手が米軍仕様のヘルメットに包まれた頭を覗かせている。その後ろに控えているのは毒々しいカラーリングが施された夏美の専用機だ。
「うふふ、うふ、うふふふふふ。やっと私の出番……いや、私の愛機、マダラグモちゃんの出番と言うわけですね……真明さぁーん! 留守は私がしっかり守りますからねー!!」
四本足のシュピンナー達は、ゆっくりと地面を踏みしめて進む。




