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(6)

 教室へと辿り着いた俺は自分の席へ腰を下ろす。

 教室内はまだ生徒がまばらに居る程度で、朝独特のゆるやかな雰囲気が辺りに満ちている。安穏とした日常の風景だ。

 俺の元に神様が二人居るということ以外は別段変わりが無い。

 てか、思ったんだけど神様を二“人”って数えるのはどうなんだろう。神様って確か、(はしら)って数えるんじゃなかったか? 一柱ひとはしら二柱ふたはしら三柱みはしらってな具合に。まあこいつらはどうみても人間の姿をしているし、別に人間と同じ数え方で問題ないか……。そもそもこいつらはなんで女の姿をしているのだろうか、という疑問もあるんだけどな。


「で、秀介の好きな子はどれだい。どれなんだいっ」

「まだ来てねーよ……」


 物事を考えていた俺をよそに、きょろきょろと辺りを物色するように眺め回すタワー。

 俺は机に頬杖を突きながら、呆れるように言ってやった。


「――ふむ。まだ来てない、ということは……この教室の人物が秀介の好きな人に該当する、ということなのだ」

「しまったぁ! ……っていうか、スカイツリー。お前も気になるのかよっ!」

「な、何を言うのだ。ぜ、全然気になんてならないのだ。私はワイルドだから、庶民の恋愛事情などに全く興味なんて持たないのだ」


 じゃあなんで声色が若干変化しつつ、そんなに体をそわそわとさせているのかと問い詰めたい。

 結局のところ、神様二人は俺の想いを寄せる人物が超気になるらしい。なんて暇な神様であろうか。


「だって、純粋に気になるじゃん。秀介みたいなロンリーボーイがどんな子を好きになるのかっていう、重大な疑問がさ!」

「全然重大じゃねぇだろ! 俺みたいな一般市民の純情を覗いて何が楽しいんだよっ! つうかロンリーボーイじゃねぇよ俺は!」


 タワーの発言に噛みつくように言葉を吐き出す俺。

 視線を前に戻す――と、何だか周りの生徒達が俺のことを不思議な目で見ている。なんだか俺にドン引きしているような、冷たい視線が俺に――

 ……あれ、今、気づいたんだけど。

 この二人の神様って、周りに見えてないんだったよな。ってことは、周りの人間には今の俺がどう見えているのか。

 教室内で自分の席に座ったまま誰も居ない空間に向かって怒ったりツッコミを入れたりうんたらかんたら……。

 の、のわあああああああああああああっ!?


「どしたのさ、秀介。なんだかとても恥ずかしい行動を取っちゃった人みたいなものまねをしちゃって」

「ものまねじゃねーよ、現にしてんだよ! っていうかああもうっ、俺に大声を出させないでくれぇっ」


 後半小声になりつつ、涙声になる俺。ううっ、死にたい。

 教室内の人達は完全に俺のことをおかしな目で見ているだろう。いきなり一人でわけのわからないことを言っているぞ……と。

 まだクラスの中にあまり人が来ていないのが幸いであるが、この状況は間違いなく、グッドかバッドかで言ったらバッドだ。最悪の状況だ。

 自分のやってしまったことに後悔の念を激しく抱きつつ、タワーとツリーの声も聞く耳持たずに落ち込んでいた俺だったが、そんな俺の元に声を掛ける人物がいた。


「港くん……?」

「へっ?」


 怪訝そうな声で俺に語りかける、女子の声。

 俺はその女子の声がする方へと顔を向けると、目の前には一人の女子生徒がいた。


「あ、味沢さん!? ど、どうしたの?」

「え、ええと……。なんだか頭を抱えながらうんうん唸ってたから……どうしたのかな、と思って。大丈夫?」

「あ、ああっ、うん。全然大丈夫だよ! いつも通り、どこも悪くないから!」


 傍からみて完全に動揺していることが判るんじゃないかというくらい、大げさな動きで俺は自分が万全の状態であると告げた。

 びっくりした。まさか声を掛けてくれたのが味沢さんだったとは。

 味沢(あじさわ) もも。彼女は俺のクラスメイトである。

 うちの制服である濃紺のセーラーとスカートに身を包んでいる。

 流れる河のように煌煌としている黒髪は肩に触れるくらいのショートカット。

 内面から滲み出る優しさとマッチするような、とろんとした垂れ目が印象的な女の子である。雰囲気は穏やかで、庭園にさんさんと降り注ぐ陽だまりを人間にしてみたら、こういう子になるのではないだろうかという人だ。

 

「それならよかった。私の思い過ごしだったみたいだね」

「う、うん。そうかもね。俺は至って元――」

「なんだか今日の港くん、いつもと違う感じがしたから」


 元気――と言おうとした俺に、彼女は心を見透かすように告げてきた。


「……え?」

「あ、見た目が変だとか、そういうわけじゃないよ。その……上手く言えないんだけれど、何かが違うというか……それに港くんの周りにも違和感を感じるというか……ごめんね、よくわからないことを言っちゃって」

「そ、そう。気にしないでいいよっ、あはっ、あははは」


 乾いた笑いをする俺。その理由は勿論、味沢さんの発言と行動によるものだ。

 彼女は俺の周りに視線を向けていたのだが……その視線の先には、タワーとツリーが棒立ちしていたからである。まるで見えないはずの二人の姿が見えているように。

 そのまま味沢さんは教室内の席へと足を進め、自分の席へと着席する。


「な、なんなのだあの子は。まるで私達に感づいているように見えたのだ」

「感が強いのかな? 神を感じ取れるなんて……感受性の高い子なんだねぇ」

「……そういう問題か?」


 ツリーとタワーは二人して驚きを隠せないようだ。

 俺だってびっくりである。家を出てからここまで、俺のことを不思議そうに見る人なんて誰も居なかった。(教室内での失態は除く)

 味沢さんは、そういう不思議な物が見える人なのだろうか? 世の中には霊感とかいう言葉もあるし、彼女はそういう物に敏感なのかも知れない。


「ところで秀介、あの子が秀介の想い人かな?」

「……なんでそう思うんだ?」

「そいつぁ、私のカンって奴ですよ!」

 

 自分の頭にびしっとツッコミを入れて嬉しそうな顔をするタワー。こいつはなんかこう、妙なところでカンが冴え渡るというか、鋭い奴だな……アホっぽいのに。

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