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 結局、東京タワーとスカイツリーの神様などという、とんでもない奴らがやってきてから、一日が過ぎた。

 今日は月曜日。さて、俺は高校生である。高校二年生という生き物であるからには、学校へ行かなくてはならない。月曜日という名の強敵と、戦わなくてはいけないのだ。

 朝の日の光に目を覚まし、体を伸ばして寝ぼけ気味の頭を起こす。ベッドから這い上がると部屋を出て階段を下り、居間のテーブルへと向かう。理由は勿論、朝食を食べるためだ。


「秀介、おはようさん」

「おはようなのだ」


 横長の木製テーブルの前に先客が二人、並んで座って居た。

 東京タワー、そして東京スカイツリーの神様。俺の守り神である。やっぱり、昨日の出来事は夢などでは無かったらしい。……ちょっと、夢だと期待していたのだが。現実という物は小説よりも奇をてらっているものだなと、深く感じる。


「秀介、急がないと遅刻するわよ? もう出来てるから、早く食べなさい」

「はいはい」


 母さんに促され、俺は神様達と対面するように座る。

 机に置かれた皿の上には、ハムとチンゲン菜の炒め物にふっくらとした目玉焼き。茶碗に盛られた白米。由緒正しき、朝食が並べられていた。俺は手近に置いてある箸立てから自分の箸を掴み取ると、おかずに手を付けていく。

 タワーとスカイツリーを見てみると、それぞれ朝食を口に運んでいた。タワーの方は女性的に豪快に、スカイツリーの方は一品一品を味わうように食べている。こういう食卓の風景というのはよく見てみると性格の違いが現れてくるから面白いものだ。


 昨夜、母さんに自分の守り神が出来たと言うことを報告した。

 能力者という特異な体質が生んだ結果だというのに、母さんは全く動じていなかった。むしろやっぱりか、という感じで頷いていた。父さんと馴れ初め合った母だ、それなりに俺のような存在の事情を知っているのだろう……。


「秀介、神様に変なことをしちゃダメよ。罰が当たるんだから。あと、一つ屋根の下に一緒に居るからって、性的なことも禁止」

「わかってるよ。っていうか、そんなことしねぇよ!」


 母さんが冗談なのか本気なのかよくわからないトーンで注意する。

 うちの母は年の割に若いとよく言われるらしく、それなりに男性から色目で見られるというのが本人の談。そんなこと聞かされる息子の身にもなって欲しいものだ。


「まあそれはさておき。タワーさんとスカイツリーさん、私の秀介をよろしくね。言葉遣いは悪いけど、性根自体は悪い奴じゃないから、面倒見てあげてね」

「わかってますって!」

「了解なのだ」


 真面目な顔つきになった母さんは口元に笑みを浮かべ、俺の頭を優しく撫でてくる。

 ……い、いきなり褒められて、べ、別に嬉しくなんてないもんね!




「ここが秀介の通う学校だねん」


 東京タワーが右手をサンバイザー代わりにして目を見開く。俺の高校を校門前で見上げながら、呑気な声を上げた。

 俺の通う押上(おしあげ)高等学校はごく普通の公立高校である。偏差値もまあ並より上であり、部活動と勉強の両方に力を入れようとした結果、単なる特色の無い高校になってしまった――そんな感じのある高校だ。

 俺のこの学校に対する志望動機は家から近かったからである。世間の大きな夢を抱いている若者と違い、惰性で決定したというあんまり誇れない進路である。まあいいや、大学からは考えて進路を決めよう、うん。


「お前ら、頼むから変なことしないでくれよ」

「しないってぇー。そんなことする奴に見えないでしょっ?」

「思いっきり見えるのだ。バカも大概にするのだ」

「なんだってぇ!」


 話の流れでいがみ合う二人。もうちょっと仲良く出来ないのかい、お前達は。

 校門前にメタリックグリーンの瞳に金髪と目を引く美しさと可愛さを併せ持つタワーと、貧相な体型だけどワイルドなイケてる雰囲気のグラサン系女子、スカイツリー。この二人がいがみ合っている光景は大層、目を引く光景のハズだが……道行く生徒達は誰も神様二人のことを気にしてなどいない。

 それもそのはず。実は、この二人は俺にしか見えていない。

 この神様の二人、面白いことに人に見えるモードと人に見えないモードを使い分けることが出来るらしい。今朝、朝食を食べていた時は人に見えるモードに変わっていたために母さんと普通に接していたが、人に見えないモードに切り替わることで俺以外の人には視認することが出来なくなるようだ。便利なものである……。


「それより早く、秀介の好きな人見せてよー。そのためにここまでやってきたんだからさっ」

「俺を守るためについてきたんじゃないのか!?」


 一人の恋路を見守るためについてくるって、どんな神だという話だ。

 俺の人選……もとい、神選は失敗だったのではないだろうか。


「秀介、この金髪女はバカだから付き合う必要は無いのだ。私がしっかり守ってやるから、安心するのだ」

「うん、そうする」

「あっ、ひどいー! っていうかさりげなくまたバカって言ったな!」

「さりげなくじゃないのだ。むしろバカ呼ばわりすることが今の発言のメイン要素なのだ」


 しっかり守ってやるがメイン発言であって欲しかったな……と思う俺。 

 神様コンビのコントに付き合うのもほどほどに、俺は自分の教室を目指すことにするのであった。

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