(3)
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エスカレーターが憎い。
動く階段など、何を考えているのか理解できない。
先駆者であるこの俺の用途に、少しばかり性能を付加しただけではないか。
エレベーターが憎い。
人が動かずして高低差を覆す、常識を逸脱した行為が許せない。
本来、人は歩いて上下移動を行わなくてはならないはず。
だというのに、何故お前達は俺より人の気を引くのか。
何故、俺は振り向いて貰えないのか。
それはひとえに、お前らがこの世に現れたことに原因がある。
故に、俺は奴らを憎んでいる。
新参者である癖に、俺を抜いていくようなその姿勢がたまらなく嫌いだ。
そして、何より。
俺がこんな意志を持たなくてはならなくなった原因を作った奴が、何より憎い。
いつも踏まれてやっている俺だが、今回は逆だ。
今度は俺がお前を、踏み潰す。
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「新参者の癖に、生意気なっ!」
金髪美女……もとい、東京タワーの神様は、声を荒げて吠えた。
「第一ね、東京スカイツリーなんてものが出てこなければ、電波塔は東京タワーの独擅場だったわけだよ。二番煎じは流行らないんだよっ!」
「うるさい! むしろ東京タワーなんて無くて良かったのだ! 東京スカイツリーが初の電波塔で良かったのだ! お前が居なければ私が日本電波塔の目玉だったのだ!」
DVDを見終わって彼女らの正体が判明し、一安心……かと思いきや。
金髪美女とグラサン幼女はまた喧嘩を始めてしまった。
理由は『東京タワーがあるんだから東京スカイツリーなんて無くていい』という訳のわからない意見が発端となり、起きてしまった喧嘩だった。
このままだとまた取っ組み合いの喧嘩に発展しそうだなと思った俺は、話題を変えるように二人に声を掛けてみた。
「ええっと、お前らって守り神なんだろ? 守るって、俺を何から守るんだよ?」
俺は本当に疑問に思っていることを口にした。
この質問ならばイエスかノーかで答えられる質問ではないので注意を逸らせるに違いない。
思惑通り、二人は喧嘩を一時中止すると俺を見つめてきた。
「そう言われても、私は呼ばれてやってきただけだしなぁ」
「そんなこと、私が知るよしは無いのだ。お前は何者かに襲われているわけではないのだ?」
首を傾げて訪ねてくるグラサン幼女こと、スカイツリー。
しかしこの幼女、語尾が『のだ』って。面白いな。
そんな言葉遣い、漫画とかアニメでしか見たことない。
ジャングルの王者とか、太郎って名前のハムスターとか……。
「襲われるって……女じゃないんだから。まあ人並みに外には危険が広がってるだろうけど、特別何かに狙われてるなんてことはこれっぽっちも無いよ。映画の世界みたいに、テロリストに追われてるとか無いし。ごく普通の一般人の高校生だ」
「ふむぅ……」
狙われる理由が無いことを教えてやると、頭をポリポリと掻いて怪訝な顔をする東京タワー。
「じゃあもしかしたら、キミの……港秀介くんの体質が、襲われる理由になるのかもね」
「秀介でいいよ。――俺の体質が、襲われる理由?」
「うん」
俺に原因があるのだと目測を立てるタワー。
その奇抜な意見に今度はスカイツリーが補足をするように口を開いた。
「要するに、お前――秀介のような体質は、一般的ではない。普通の人にはない、特別なのだ。特別と言うことは、つまりは希少価値が高いのだ。希少価値が高い物というのは、得てして狙われることになりやすい、というわけなのだ」
希少価値が高い者は狙われやすい……確かにそうである。
この世に数点しか存在しないと言われる物があったら、喉から手が出るほど欲しいと考える奴は少なからず居るだろう。悪趣味な奴はこの世にたくさんいる。
俺の能力者だという訳のわからない体質が事実だった場合……といっても、このタワーとスカイツリーが出て来た時点で俺は普通じゃないことがほぼ確定しているわけだけども。この体質が原因でトラブルに巻き込まれることはないと言い切れない。
「もしくは――」
スカイツリーは天を仰ぎ見るようにして、口を開く。
「もしくは、そんな体質を持った奴が居るせいで迷惑してるのがいて――秀介を潰しにくる、とかが考えられるのだ」
可愛い声と顔をして物騒な意見を告げるスカイツリー。
……俺の体質が原因で、迷惑する? 失礼な。迷惑しているのはこの俺だというのに。全く、どういうことだよ。父さんめ、なんてものを俺に寄越したんだ……。
「あー、なんか聞いてて頭おかしくなりそうだ……」
タワーにスカイツリー。守り神。敵。誕生日だというのに、わけのわからないことが多すぎる。
こういう時は気分転換だ。気分転換……。
俺は気分が落ち込んだときに見る、あれを取り出すことにした。