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 ボウリング大会は大盛況に終わった。結果的に俺の調子が良かったこともあり、豪達のチームにまさかの大逆転を見せることになった。俺は半分英雄扱いで、みんなから存分に祝福をしてもらった。


「あー、楽しかったね」


 帰り道、肩と腕を伸ばしながら余韻の声を漏らす味沢さん。俺はその隣を歩いている。二人きり、である。帰りはこれまた豪達の策略というか機転というか……で、豪達三人とはばらばらで帰ることになったのだ。そんなこんなで、俺は今味沢さんと二人で帰るという貴重な時間を過ごさせて貰っている。ありがとう、友よ。


「今日は調子が良かったからなぁ。次はこうはいかないと思うよ」

「そんなことないよー。港君、すごくボウリング上手いね。何回も助けて貰っちゃった」

「味沢さんも途中から普通にやれてたじゃん。才能有るよ」

「そうかなぁ? 最初はダメダメだったけどね……」


 しょぼくれる味沢さん。味沢さんは結構表情が豊かだ。おしとやかな雰囲気でありながら、ころころと変わる喜怒哀楽。おまけに優しいときたもんだ。本当に良い子だと思う。


「……浮かない顔してるね?」

「えっ?」


 唐突に味沢さんに掛けられた言葉は、思いも寄らない言葉だった。俺としては、しまりのない顔でもしていそうな気がしたのだが、聞かれたのは全く逆だった。


「……そう?」

「うん。というか、ここ最近の港君はなんだか元気が無いような気がする……かな。何かあったの?」

「……ううん、何も無いよ」


 『実は』なんて言葉が出そうになったけれど、やめた。


「俺って、そんなに顔に出やすい? そういえば前も俺の雰囲気がいつもと変わったって、言ってなかった?」


 前にも教室内で味沢さんに指摘されたことを思い出す。あの時は……あいつらが俺につきまとった矢先だった。知らず知らずのうちに、俺はいつもとは違う、何らかの空気を醸し出しているのかもしれない。


「あ、ごめんね。気にしないで。なんとなくそう思っただけなんだ。私って、昔から目利きが良いって言われるんだよね」

「目利き?」

「うん。些細なことによく気がつくというか、本当に良い物を選ぶのが得意だったりとか。本当になんとなく、だけどね。安くて良い物を選び出すのとか、得意だよ!」


 みるみるうちに得意げな顔になる味沢さん。どうやら物事を見る目に長けているらしい。多くの品から素晴らしい物を選別する……なんという、主婦スキル。


「それじゃあね。今日はすごく楽しかったよ。また遊びに行こうね!」

「うん。また今度」


 道の途中で味沢さんと手を振って別れる。なんかこう、デートの別れ際みたいだ。帰ってしまうのが惜しい気持ちになってくる。また近いうちに遊びの企画を予定したいものだ。是非とも、近いうちに。


「さて……」


 携帯を取り出す。時刻はそろそろ夕日が沈もうかという頃合いだった。そんな折、携帯がコール音を鳴らし出す。


「誰だ?」


 掛かってきた相手を確認してみると、母だった。何か連絡事だろうか。俺は携帯を操作して電話を繋ぐ。


『タワーちゃんとスカイツリーちゃん、帰ってきたー!?』

「帰ってきてねぇよ」

『えー、残念』


 第一声は俺じゃなく、神様連中を心配する明るい声であった。母さんは二人がいなくなってから毎日のように作っていた料理をストップすることになったせいで、実に悲しんでいたのである。


『本当に愛想尽かされたみたいね。……ま、いいわ。それより秀介。お母さん、今から出かけなくちゃいけなくなっちゃったから、夕飯を外で食べるか、買って帰るかしてもらえる?』

「ああ、そういうことか。オッケー、解ったよ」

『ごめんね! 埋め合わせで今度御馳走にするから!』


 申し訳なさそうな母の声を聞き終え、携帯の通話を切る。さて、どうするか。夕飯が無い。スーパーかどこかで惣菜物かお弁当でも買って帰るか? そんな思考を働かせながらとぼとぼと街中を歩く俺。辺りを見渡すとチェーン店の牛丼屋がさんさんと存在感を露わにしていた……が、今は食べたい気分じゃない。他に何か無いかと考えつつ、目を向けた先に見えたのはラーメン屋であった。


「ラーメンか……」


 この前に豪と一緒にラーメンを食べて以来だ。どうやらこの前出向いたラーメン屋とは全く毛色の違う、細麺を売りにした店――というのが、傍にある広告旗からうかがえる。

 ラーメン屋は店ごとにそれぞれ独自の味を持っていることだろう。このお店は一体、どんな味がするのか。気になってしまったらとまらない。

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