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「……ほへ?」

「秀介、私は、一体何のためにここにいるのだ?」

「え、何って……」


 スカイツリーの問いに、思わず考えてしまう。一体、何のために。

 それは、スカイツリーは、俺にとっての守り神って奴で――


「いずれやってくる敵を、守ってくれるっていう俺の守り神で――」

「いずれ? 来ないじゃないか、いつまで経っても。何からお前を守れというのだ? お前にここ最近で降りかかった災難など、あのしょぼい盗難事件ぐらいのものなのだ」


 しびれをきらすようにスカイツリーは愚痴を零した。その顔は笑っていない。現状に我慢がいっていない様子で、言葉の節々にもトゲが見える。


「そして今、私がやっていることと言えば、このバカ電波塔に振り回されての恋愛相談……はっ、ふざけるんじゃないのだ。そんなものは恋愛成就の神にでも頼むが良いのだ」

「なっ……」


 これ以上お前に協力する覚えは無いと言わんばかりに、スカイツリーは悪態をついていた。サングラスの向こう側に存在するその瞳は、恐らく穏やかなものではない。


「おやおや、どうやら機嫌を損ねちゃったのかなー? 東京タワーに勝てないことが解ったからって、秀介にもやつあたり? 子供だねぇ」

「ぐっ、いい気になるんじゃないのだ! 私は負けてなどいない! お前に比べて全て上なのだ! 器量、品の良さ、頭の回転……お前に負ける部分など何一つ無い!」

「見た目の方は私の圧勝だけどね!」

「そのアホ面のどこが圧勝なのだ!」

「はぁ!? アホ面じゃないよっ!」


 お互いに自分を譲れないようで、一言飛ばしてはまた一言、罵倒の連鎖が飛び交う。余裕の表情を見せたり、怒りの色を見せたり……表情はくるくる変わり、場の空気は次第に嫌な物へと変わる。


「そもそも“東京タワー”の癖に、どうしてそんな西洋被れの見た目なのだ!? 日本の神ならばもっと和の雰囲気を醸し出していたって不思議じゃないのだ!」

「うっさいな! それを言うなら、“東京スカイツリー”のその見た目はなんだよぅ! サングラスとか何も関係ないじゃん。そのちっこい見た目は建造されたばっかりってことで納得できるけどさぁ!」


 見た目の悪口を言い合う二人。物は言い様だ。

 今の二人は互いの些細な点とてやっかみをかけるための標的となり、悪い方向に利用されるのみだ。


「……決めた。おい、バカ神。お前などこの場で撃ち抜いてくれる」

「望むところだバーカ! こっちこそ斬り捨ててやる!」

「おい、お前らもういい加減にやめろって」


 普段のケンカ具合を軽く凌駕するその様子を見かねた俺は、たまらず二人の間に割って入ろうとした――


「――そもそもだ、秀介」


 ところを、きびすを返したスカイツリーが睨んできた。


「お前は、どうしてこいつも私も呼んだのだ?」

「え?」


 スカイツリーの問いに、一瞬頭が真っ白になる俺。その意味を頭の中で理解するよりも先に、スカイツリーは次の言葉を紡ぐ。


「二人呼ぶ理由などどこにもないはず。おかげで私が今ひどく不快な目に遭っているのだ。それもこれも、元はといえばおまえのせいなのだ!」


 怒りの矛先は、俺だった。さっきまでタワーに向いていたスカイツリーの怒りは、今完全に俺の方へと向けられている。


「なんで二人呼び出したのだ!? どっちか片方呼べば良かったのだ、そうすればこんなのと顔を合わせなくても良かったのだ! こんな、私と比較して明らかに劣っている神、必要ないのだ! 同じ電波塔として恥ずかしいのだ!」

「はぁっ!? 前も言ったけど、東京スカイツリーなんかいらないんだよ! なーにが空の樹だ! ウザイっての! 消えちゃえば!? スカイツリーなんて新参者の電波塔、この世に無くて良かったんだよ!」

「――!」


 一触即発の空気になった二人は、互いに掴みかかる。目の前の相手が、憎くてたまらないらしい。

 そんな光景を目の当たりにして、俺の頭にもイライラが募ってしまったみたいだった。


「そもそも、俺だってお前らなんかお呼びじゃないんだよ! 勝手にケンカばっかしてんなよ!」


 俺は心の内に秘めていた感情を、吐露した。東京タワーと東京スカイツリーの神、二人に向けて、思いの丈を走らせる。

 お前らは呼んでない、と。

 こんなことになったのは、結果論だ。もとより俺が望んだ展開じゃない。不思議な力? ふざけるな。俺はそんな物、別に欲しくなかった。平凡な、高校生でいい。

 近くに親父が居たら、ぶん殴ってやりたいぐらいだった。冷静に考えてみて、電波塔の神二人が俺の周りにいる状況って、何なんだ。

 そういった感情の連なりが、俺に檄を飛ばさせた理由。


「――ふん」


 俺の言葉にしばらく固まっていた二人だったが、スカイツリーの方が自分から掴んでいた手を放すと、俺の方も見ずにすたすたと離れていく。


「そういうことなら、お役ご免なのだ。私は去るのだ。後は勝手にやれ。じゃあな、なのだ」

「あ、おいっ」


 今のは流石に言い過ぎた――心の中ではそう思っていたが、言ってしまった手前、もう遅かった。スカイツリーの奴はそのまま部屋の壁の向こうへと歩を進め、どこかへといなくなってしまった。


「……」

「タ、タワー……?」


 その姿を見据えて、無言で沈痛な表情を浮かべるタワー。いつも明るいタワーがこんな表情を見せることもあるんだと、俺は初めて知った。


「……今のは、流石に私も傷ついたよ。秀介、ももちゃんとお幸せにー」

「え」


 バイバイと手を振りながら、店の営業みたいなスマイルを見せるタワー。スカイツリーと同じように、部屋の窓まで行ったかと思うと、スッとその場から消え失せるように去ってしまった。

 俺の元から、神二人はいなくなった。


「……は、はは。なんだこれ……」


 残された部屋に、異様に不快な気分で取り残される俺。

 神二人がいたせいでここ最近賑やかだった部屋は急激に温度を下げ、狭いというのにおかしいくらいに広い部屋に感じた。

 守り神が、俺を守る神達が、消失した。

 

 でも、これで良かったんだ……

 俺は別に、守って貰う必要なんてないのだから。

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