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「ういっすー!」

「う、うっす」


 放課後、俺と豪の元に二人の男女が現れた。女の方から元気の良い声が掛かり、俺はぎこちなく対応する。

 彼らのことは知っている。同じクラスの人であった。

 女性の方は細井さん。茶髪のポニーテールで笑顔の絶えない、明るい子である。もう一人は横山君。高身長に黒の短髪が印象的な、愉快な男子である。


「細井さんに、横山君……」

「ああ。今回俺が呼んだ助っ人ってやつだ」


 唖然とする俺に、豪は得意げに話を進める。そう、彼らは豪が呼んできた味沢さんと仲良くなるための助っ人……らしい。豪が何を企んでいるのか、俺には皆目検討がつかなかった。


「実はこいつら、付き合ってるんだよ」

「えっ、そうなの?」

「はっはっは、よせやい、照れるじゃねーか」


 豪の一言に、照れ気味に髪をかきむしる横山君。うちのクラスにカップルが出来ていたとは……知らなかった。確かに、言われてみると仲良く話しているところをよく見かける気がする。


「話は聞いたよ、港君。ももちーに告りたいんでしょ?」

「ぶっ! そ、それは話が飛躍しすぎというか……」

「あはは! 今のは言い過ぎたけど、ももちーと仲良くなりたいんなら、ももちーと友達のこの私に任せておいてよ、ね」


 細井さんはウキウキした態度で語る。

 そういえば、細井さんは味沢さんと仲が良いはずだ。二人は休み時間なんかの時もよく雑談している。すごく仲が良いんだろう。


「豪、一体どういうこと?」

「ま、簡単に説明するとだな……このメンバーに加えて味沢さんを呼んで、遊びに行こうってことさ」

「ああ」


 そういうことか。合点がいった。

 細井さんは、味沢さんと友達。その二人の中に俺が溶け込むのは難しい。けど、こうやって人を集めて皆で遊ぶという体にすれば、自然に味沢さんと交流が可能。おまけに味沢さん以外はみんな今の状況を知ってて、フォローしてくれるという話か……。

 ……。


「港、お前の事情は豪から聞いたぜっ。味沢のことが好きなんだってな。男ならやるっきゃないぜ、大丈夫、お前なら出来る!」

「ももちーフリーだから大丈夫だよ。私ももちーの好みとか、何でも知ってるから。なんかあったら話に乗るよ~」

「ふ、二人とも……ありがとう」


 横山君と細井さんが頼もしい言葉を掛けてくる。

 なんだ、この熱い展開は。泣ける。人とのコミュニケーションって、素晴らしいな。豪の人脈は素晴らしい。なるほど、これが豪の策か。城を落とすなら、まずは周りから責め立てるのが定石。ただ闇雲に突撃したところでいい結果は得にくいわけだ。

 そこで、味沢さんと仲の良い細井さん、そして細井さんの彼氏である横山君を味方に付け、味沢さんに接近するということだ。すごい、この作戦は完璧だ。この作戦を見るとタワーの作戦が実に荒削りであったように感じる。これなら、やれる……! 俺の心に火が灯った。


「じゃあボウリングとかどうかな? わいわい楽しめるし。湊君、ボウリング得意?」

「うん、まあまあスコアは出せるかな。別に苦手じゃないよ」

「よっしゃ、ならそういう方向性で行こうぜ。俺らで適当に何回か遊びに行って、行けると思ったらコクっちまえよ、な!」

「そ、それは気が早すぎないか? でもまぁ、頑張ってみるよ」


 細井さんと横山君は実にノリが良かった。大して絡みの無かった俺のことも信用してくれているようだし、あまり深いことを考えないタイプなのかも知れない。豪が引っ張ってきたのも、なんとなくわかる気がする。

 というわけで、俺に豪、細井さん横山君カップル、そして味沢さん……というメンバーで、遊び尽くそうという計画が企てられていったのである。







「よかったねー、秀介。この流れは結構、いいんじゃないかな」

「そ、そうか? ありがとう、お前のおかげだよ」


 そして学校から帰り、自室。タワーの奴はまた脳天気な感じで現状を喜んでいた。思わず俺は感謝の言葉を返す。


「まぁーね! 結果的に御厨君の提案がナイスな訳だけど、ここまで来られたのは私の力添えがあったからだよねー。さすが東京タワー。ぶい」


 一仕事終えたように満足げな顔でタワーはピースを作った。


「そうだな……結局の所、今回はタワーの計画をきっかけに好転していったもんな。ありがとう、マジで嬉しいよ」

「お、おおう? め、珍しく秀介が褒めてる……は、はははっ! ねー、だから言ったでしょ? 東京タワーは、東京スカイツリーよりもすごい! 素晴らしい! 文句なし! てなわけでぇ、秀介も私の方がすごいって、認めたよね!?」

「その問いに真っ向から頷くのはなんか不服だが……今回ばかりは感謝せざるを得ないな」


 俺の感謝の言葉を受けたタワーは、子供のようにはしゃいでいる。余程に嬉しいのだろう。そんなに勝ちたかったか、東京スカイツリーに。


「ふふん、どうだ! 思い知ったか! これが東京タワーの実力! スカイツリーの出番は無いんだよ!」


 勝ち誇った締まりの無い顔でビシッと指を差すタワー。その指の先にはスカイツリーが考え込むように座っている。


「…………」

「はははっ、言葉も出ないって感じだねぇ。ま、今回は完全に私の勝利だったからねー。しょうがないよね。もともと東京タワーと東京スカイツリーには大きな差が――」

「私は……」


 意気揚々と次々に言葉を捲し立てるタワーを前に、スカイツリーはゆっくりと口を開いた。


「私は、何をしているのだ?」


 その声のトーンは実に重く、自問自答をしているかのようだった。

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