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「おっかえりぃ~」

「おかえりなのだ」


 まだ居やがった。

 部屋に戻ると金髪美女とグラサン幼女がごく自然に部屋に居座っており、まるで自分の部屋に居るようにリラックスしていた。菓子とかあったら寝転んで食べているくらいの空気だ。

 本当にもう、こいつらは何なんだろう。そんなことを考えていると俺の頭に一つの事柄が浮かび上がる。


 《親愛なる我が息子へ。大事なお知らせが入っています!》


 大事な、お知らせ。

 もしかして、このDVDの中身はこいつらと何か関係があるのでは?

 思いっきりピンポイントなタイミングで来やがったし、関係が無いとは言いにくい。

 そう思った俺はDVDデッキへとすぐさま手を付け、送られてきたDVDをセットして再生することにした。

 三十二インチの液晶テレビに真っ黒な画面がしばらくの間流れ、それが終わると目の前にきらびやかな青の世界と、蒸し暑そうな景色が広がった。

 水着姿の人々、一面に広がる砂浜。ヤシの木。

 南国世界の風景そのものだった。


『と、言うわけで父さんは今、ハワイに居ます』


 爽やかな映像からいきなり颯爽とスクリーンインして親父が現れた。

 花柄の赤いアロハシャツを着こなし、手にはウクレレを抱えている。おかげで引き締まった彫りの深い顔は全然格好良く見えない。

 景色に馴染みすぎだろ……。

 

「ず、随分とファンシーな親父さんなのだ……」


 グラサン幼女が汗を垂らすように言う。

 サングラス掛けた幼女であるお前も充分ファンシーだよっ。


「大事なお知らせって、なんで電話とかで伝えねぇんだよ……」

『こっちの方が本気度が伝わるだろうと思ったんだ』

「なるほど……って、録画で応対すんなっ!?」


 親父はまるで目の前に居るように返答した。

 これ、ビデオだよな、撮った映像だよな、なぁ!?


『さて、前置きはいいとして。これから大事なことを話すぞ。心して聞くんだ』


 さんさんとしたハワイの空気を蹴散らすように神妙な顔つきを見せる父さん。

 ただごとではない雰囲気に、俺はぐっと目と耳を傾ける。

 一体、大事なこととは何なのだろうか。


『実は父さんはな、昔……能力者だったんだ』


 余命を告げられた人のように酷く重苦しい口調と表情で父さんが語る。

 ……頭、大丈夫か? 中二病っていう歳じゃねーぞ?

 重大なカミングアウトをしてるみたいだが、背景があまりにも明るいのでギャグにしか見えない。


『普通の人とは異なる体質だったんだ、それはそれは大変だった。しかし、能力者であったという自分の運命を今では前向きに捉えているぞ。お前の母さん……つまり、父さんの妻に出会えたのも、それがきっかけだったからな!』


 頬を赤らめ、握り拳に親指を立てて(サムズアップのポーズ)興奮する実父。

 き、きめぇ……


『父さんの能力者としての体質は徐々に薄まり完全に消えて、まるで問題は無くなった。今となっては一般人と同じになってしまっている。しかし、だ。大切なのはここから』


 通販でお値段を告げる時のようにタメを作ってから、親父は口を開いた。


『息子のお前にその体質は遺伝しているらしい。と、霊能力者から聞いた』


 霊能力者かよっ!

 俺が世界で一番胡散臭いと思ってる職業なんだが……。


『世界的にも有名な霊能力者だからな、安心するがいい』


 心配してるのはそこじゃねーよ!


『そんな能力者であるお前だ。能力者には襲い来る敵というものがいる。今のままではお前は危ない。が、しかーし! ちゃんとお前にも対抗のすべはある! 心配しなくて良いぞぉ!』


 俺が一番心配しているのはこの親父の脳内なんだが……。

 唐突すぎる話に訳がわからなくなった俺は、なかば傍観気味に映像を見ることにした。


『まあ、要約するとだな。お前は近々、危ない目に遭うだろう。そこでお前に守り神を選んで貰うことになる。守り神が居れば、お前の運命はいくらか安全なモノとなるだろう』


 守り神? なんだそれ。

 単語自体は聞いたことがあるが、実際の所どういう物なのか全く知らない。

 しかも、俺の運命って……なんか、やばいのだろうか。


『そこでお前に気をつけて貰いたいことがある』


 父さんは握り拳を口元に当て、こほんと咳をつくと、一言。


『お前は近々、十七歳の誕生日を迎えるはずだな』


 もう迎えているわけだが。

 今日がちょうどその日である。


『そのお前を守ってくれる守り神についてだが。お前が十七歳を迎えてから、“最初に強く考えた物”がお前の守り神になるから、気をつけて決めるんだぞー』


 ……。


『あ、これ、外国から送ってるから。ちょっと遅れて届くかも知れんけど、勘弁してっちょ』


 遅えわああああああっっ!?

 なんだよ、それ。なんで直前に送るんだよ! もっと事前に送れよ! ていうか家にいる母さんに伝えとけよ!  


『お前は優秀な息子だ。あんまり心配はしておらん。なんてったって、父さんの息子だしな! それに霊能力者が言うことだ、アテにならん。お前が能力者だという事実も半信半疑だ』


 さっきと言ってること食い違ってるぞ!?


『いくらか月日が経てばお前の体質は普通の人間に戻るからぁ、頑張れぇー♪』

「おいいいいいいいいいいいいっ!?」


 DVDの再生が止まり、真っ黒な画面が俺の前に映る。

 どうやら映像が終了したらしい。


 振り返ってみるとそこには、にこやかに手を差し出す金髪美女と、グラサン幼女。


「そういうわけで、今日から私がキミの守り神、東京タワー。よろしくっ!」

「そんなわけで、私がお前の守り神の東京スカイツリーなのだ。よろしくなのだ!」


 ……ええと、つまり。

 なんだ、その……俺の守り神は東京タワーと東京スカイツリーってことかよ!?

 二人を前に、俺は唖然とした表情のまま固まっていた……

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