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「すごい人もいたもんだねー。滝上竜一そっくりの声……あの声は放っておくには勿体ないよねぇ」


 残念そうに呟くタワー。

 星野さんの歌を堪能し終えた後、俺達は家路へと足を滑らせていた。東京タワーからの電車区間はとても長く、乗っているだけで存分にくたびれた気がする。


「あれだけ似てるんだったら、物まねの人でも目指したら良いんじゃないかなぁ」

「それはそれで難しい道だろ……。物まねって、その物まねする対象の人が人気なままじゃないとウケないだろうし、大変だと思うぞ。ま、滝上竜一なら今後も大人気だと思うけどな」


 地元の駅へと辿り着いた電車はゆっくりと停車し、アナウンスと共に乗客達……そして俺達も降車していく。人がぽつぽつと存在するホームをつらつらと歩きつつ、エスカレーターに乗って改札付近まで上がっていく。エスカレーターの隣には階段もあった訳だが、ほとんどの人はエスカレーターを利用しており、階段を使う人は少なかった。階段、人気無し。






「――っていう、滝上竜一にそっくりなストリートミュージシャンの人がいたんだよ」


 翌日。

 いつも通り学校へと通った俺は授業合間の休み時間、豪へと話しかけた。

 話題の内容は俺の持ちかけた、例のストリートミュージシャン、星野守さんについてである。

 もちろん、東京タワーに行ったことと、その化身が付いていったことは内緒で話を進めているが。


「へー、そりゃ珍しい人もいるんだな。そんなに似てるのか」

「うん。あ、CD貰ってきたからあるよ。聴いてみる? それなら明日持ってくるけど」

「おう、聴く聴く。是非とも貸してくれ」


 豪は実に面白そうに俺の話に相槌を打つと、見事なほどのジャニーズスマイルを放つ。嫌味の無いそのにこやかな笑顔は、男の俺でもドキリとすることがあるくらいだ。……ホ、ホモじゃないよ俺は!


「秀介は、弾く方には興味無いのか?」

「弾く方って?」

「楽器だよ楽器。ギターとかな。実は俺、ちょっと遊びで始めてみようかなって思ってるんだ」

「おお、なんか良いなぁ、そういうの」


 イケメンこと、御厨豪は更なるイケメン要素を手に入れようとしていた。ちなみに豪は全くもって、狙ってそういうのを取得している風には見えない。要するにモテようとして、ギターを始めようとしてるようには見えないということ。純粋に面白そうで、始めてみようとしているのだろう。彼はそういうタイプだ。


 ちなみにこうして豪と話している間、神様二人はというと適当にやっている。クラスの中を彷徨いていたり、校舎内を徘徊したり……とにかく自由だ。そりゃまあ姿は見えず、声もせずな訳だから存分にはしゃげるということで。タワーの奴は色々と楽しんでいるみたいだけれども、スカイツリーの奴は最近飽きてきたようで、授業中なんかは適当に壁にもたれかかりながら、昼寝していたりする。俺としては大人しくしてくれていた方が間違いが無くて嬉しいんだけど……。


 教室を見回すと、視線の先に味沢さんを見つけた。クラスメイトの女子と仲良さそうに話している。とろんとした垂れ目に黒々としたショートカット。今日も彼女は元気そうだった。

 うーん、今日も可愛いですねぇ、味沢さん。

 ……思うのだが、一目惚れしたクラスメイトとは、どうやって仲良くなればいいんだろうか?

 いや、ちょっと思ってみただけだが、例えば学校内で何か接点があって仲良くなって好きになる、という流れならば自然な感じだ。同じ部活だったから毎日のように話をして、趣味なんかのプライベートなことを話している内に親密になり、結果どちらかが相手の方にアタックして付き合う――なんてことになれば、それはかなり良い感じだ。

 しかし、俺みたいに普段直接の関わりがないのに好きになってしまった場合って……どうやって相手に近づく? 連絡先でも聞いて、普段から連絡を取り合う感じになれればいいけど、そもそもいきなり連絡先を聞くって……かなり不自然だよな? なんかこう、上手い流れで連絡先を聞ければ別だけども。

 この問題は、なかなかにハードルが高そうだな。……今度、豪に相談してみてもいいかも知れない。借りるべきは友の助けだ。こんなことを話してしまうのは、かなり恥ずかしい感じがするけど……。









「それで秀介くん。覚悟は決まったかな」


 学校から帰って自室へと入ると、こほんと咳払いをしたタワーが口走った。


「覚悟って、何のだよ?」

「そりゃあ決まってるじゃないかい。私とスカイツリー、どっちの方が良いと思うか、ってことさね!」

「またそれか……」


 この前東京タワーを訪問し、星野守さんの歌を聞いて帰ってきた時はなんとかこの“東京タワーと東京スカイツリーどっちがいいか選手権”の話題をはぐらかしたものだが……どうやらタワーの中で再燃したようである。

 鼻息荒く論ずるタワーに、俺はうんざりする思いで迎え撃つ。


「じゃあ秀介。もっと簡単な質問にするよ。巨乳と貧乳……どっちが良い?」

「なんだその唐突に意味のわからない質問は!?」

「やっぱり大きい方が良いよねぇー」


 言いながらタワーは自分の胸を自慢するように、胸の下で腕を組んで強調するように持ち上げる。タンクトップに包まれた豊満な胸は見事な存在感を見せた。……おおう。


「タワーのたわわーな胸、なんちゃってぇ」

「つまらなすぎるのだ。その駄肉に埋もれたまま死ね」

「な、なんだとぅ!」


 胸を揺らしつつオヤジギャグをかますタワーにスカイツリーの容赦ない一撃が入る。

 ……思うんだがこいつらコンビで漫才やったらそこそこ面白いのではないだろうか。


「そもそもそんな贅肉、あるだけ無駄なのだ。邪魔すぎて全く羨ましくないのだ。秀介も、そう思うだろう?」

「えーと……」


 確かにタワーほどデカイ必要はないとは、思うな。かといって無駄な贅肉というには無粋すぎる気もするし……


「何言ってんのさ。男子は少なからず巨乳が好きなんだよ。昨今のオンラインゲームのネット広告だって、おっぱい推しばっかりなんだよ!」

「それは確かにそうだな!」


 的を得た意見に思わず頷いてしまう俺。

 相変わらず神様の知識はどうなっているのかよくわからない……。


「だからといって、貧乳の人気がないわけがないのだ。世の美しいと言われる層を見てみるが良いのだ、胸に余計な肉の無い人間ばかりなのだ。モデルの人間にも貧乳が多いのだ。つまり巨乳はそれだけで醜いということなのだ。お前のような牛女と歩いていたら、それだけで横に並ぶ秀介が可哀想なのだ」


 スカイツリーの有無を言わせぬ口撃に、さすがのタワーの顔からも笑いが消える。両者にらみ合っての対峙。その姿は、まさにマングースとハブの対決のようであった。ちなみにマングースとハブの対決は、マングースが勝つことが多いらしい。彼らの殺し合いは非道徳的だということで動物愛護協会等から動物虐待等のクレームがつき、動物保護観点から最近では闘争をやらせるなんてことは特別でも無い限り行わないそうである。……って、そんなことはどうでも良い。


「秀介……巨乳、最高だよね」

「秀介……選ぶべきは貧乳、なのだ」


 ……俺は今、どうして神様と呼ばれる存在に乳の大きさ議論に関する答えを問い詰められているんだ?


「俺は……」


 悪いことをしてしまった犯罪者のような顔をする俺。

 二人に問い詰められ、どうしようもなくなった俺は……思うままに、答えを告げた。


「俺は、普通の大きさの乳が良い」


 タワーとスカイツリーは絶句した。

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