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「東京タワーは映画なんかにもよく使われるんだよ。有名なのだと怪獣特撮ものかな。秀介もいくつか見たことあるでしょ?」

「そういえば巨大な蛾に襲われてる絵を見たことがあるな」


 嬉々として語る東京タワー。

 東京タワーは都市のシンボルとして大きな役割を果たす模様だ。なのでそのシンボルたるゆえんである東京タワーを破壊しようとする構図も多いみたいである。数多くの怪獣がこの東京タワーを制圧しようと目論見ている。……あくまで、フィクションの話。


「ちなみに東京タワーはよじ登る人が度々現れるんだよねぇ、やめてほしいものだよ」

「よじ登るって……もしかして、外の鉄骨を?」

「そうそう。勿論、命綱なんてものはないから、落ちたら真っ逆さまの状態で」

「なんでそんなことするんだ?」

「目立とうと思って、かな。そういう人って結構いるんだよー。そんな悪目立ち、百害あって一利無しだからね。めちゃくちゃ危険だから、良い子は真似しない!」


 言いつつ、何も無い空間にびしっと指を突き出すタワー。真似するか。ってか、誰に向かってやってんだそれ。


「しかし、ここまで昇ってくるの大変だったな」

「階段なんてチョイスするからだよ。エレベーターで上がれば良かったのに」

「エレベーターは激混みだったじゃねぇか。しかたなく選んだに決まってるだろ」


 東京タワーにはエレベーターと階段という二択があった。

 昇るのに必要な料金はどちらも同額だったため、迷わずエレベーターをチョイス……しようと思ったのだけれど、現実は甘くなかった。

 そう考えている人が多いのか、エレベーターは列が出来るほど混み合っていたのである。待っても良かったんだけれど、せっかくだし一段ずつ朱色の階段を噛みしめていくのも面白いかなと思って、階段を選んだ俺。

 しかし、その選択に後悔を感じたのはすぐであった。タワー曰く、東京タワーの大展望台まで繋がる外階段は約六百段もあるらしく、途中までは景色を眺めつつ楽しんでいたのだが後半はそのしんどさに景色どころではなくなってしまった。

 おかげで階段制覇のプチ表彰状は貰ったものの、くたくたになってしまったのだった。


「普段の運動不足をこんなところで痛感するとはな……」

「あれ、秀介って部活でソフトボールやってたんじゃなかったっけ?」

「やってたけどやめてからもう随分経つし、帰宅部と変わらねーって」

「そんなものかなぁ」


 部活をやめた結果、今の俺は運動に触れる機会などない。おかげで体力はぐんぐん落ちるばかりだった。続けていたら、今よりはマシだっただろうか。

 ……今となっては、そんなことを考えていてもしょうがない。

 

「ところで、このカップルの多さは異常と言えないか?」


 展望台から景色を眺めていた俺は傍観を一旦止めた。そして東京タワー内部へと、目線を送ってみる。

 中を閲覧している人達は親子連れの客、老人の方達などという組み合わせもあるのだが、比率で見るとカップルの数がとても多い。


「まーね。デートスポットとして最適でもあるからねぇ。秀介、ドンマイ」

「お前が連れてきたくせにその言いぐさは何だ……泣くぞ」

「まぁまぁ、腐らないでよ。そのうち彼女を作って、一緒に来れば良いじゃん」


 肩をぽんぽんと叩きながらフォローしてくるタワー。

 彼女……今の俺にはとても縁遠き言葉である。


「それまではロンリーな秀介くんのために、私が彼女となってあげましょう!」


 したり顔でタワーは俺の腕に自らの腕を絡ませてきた。必然的に、肘と肘がクロスする形になる。おかげで腕の一部にふにょりとした柔らかな感触が……。


「お、おい。べったりくっつくな!」

「あははっ。秀介照れてるー」


 思わず、条件反射で離れてしまう。

 俺をからかうタワーの姿はとても楽しそうだった。本当に、無邪気というかなんというか……神様だということを忘れてしまいそうだ。


「おいバカップル共。そろそろ東京スカイツリーに赴くのだ」


 そんな俺達のやりとりを分断するように、『ここはもう飽きた』と言わんばかりの顔でスカイツリーが声を上げた。


「次は私の番なのだ。東京スカイツリーの魅力……たっぷり教えてやるから、期待しておくのだ」

「ちょっと待った。スカイツリーはもういい、行かない」


 俺はスカイツリーの言葉にきっかりと、押し売りを断るかのように告げた。


「え。――!? 何故なのだ! まさか、東京タワーの方が素晴らしいとでも――」

「いや、そういうことじゃなくてだな。ここまで金が掛かってるの、わかるか?」

「……金?」

「そう、金。調べてみたところ、東京スカイツリーって昇るために東京タワーの倍以上の金が掛かるみたいじゃんか。ここまで来る電車賃も掛かってるし。ここらで終わりにしておこうぜ」

「なあっ!? な、なんなのだそれは! 東京タワーで終わりにするとでも言う気なのか!?」

「そういうことになるな」 


 神様二人は消えるという芸当が出来るために、ここまで俺一人分の料金しか発生していないわけだけども……それでも、俺にとってはそこそこ痛い出費である。友達やデートで来るというのならまだしも、神様とデート……もとい、視察である。視察の理由はどちらが良いかを見定めること――はっきり言って、どうでもよい。

 俺は無駄なお金は使いたくない主義だ。 


「それぐらいケチらずに出すのだ! 秀介はロンリーボーイなのだから、少しぐらい金など余っているだろう!」

「酷ぇ! ってか、お前までロンリー言うな!」

「この前の財布強奪野郎に金を盗まれたとでも思えばいいのだ!」

「守った意味を根本から否定する気か!?」

「ぎゃははははっ! 東京スカイツリー、敗れたり!」

「うるさいのだ!」


 腹を抱えて爆笑するタワーにキレるスカイツリー。全く持って、容赦相容れないタイプだなぁ。

 確かに東京タワーだけ見ておいて東京スカイツリーに行かないというのは可哀想でもあるんだけど、それはそれだ。俺にだって都合という物があるんだ、うん。







「秀介は全くワイルドじゃない男なのだ。――なのだ」

「そんなに根に持つなよ……」


 東京タワーの外へ出て、都市を歩く一行。

 スカイツリーの奴はなんとも不機嫌であった。ぶつぶつと文句を垂れながら歩行を続けている。結構、傷つきやすい性格なのかも知れない。

 そんなスカイツリーを元気づけようと慣れない労いの言葉を掛けるが、効果は薄い。 

 どうしたものかと考えてみる。そんな折……耳に、誰かの歌声が届いた。

 すぅっと耳の中へと入り込み、心地よく頭の中へ響く。この美声――俺は勿論、タワーやスカイツリーにもよく聞き覚えのある声だった。


「え……?」

「あれ……?」

「この声は……」


 俺達は三人で顔を見合わせると、数秒硬直する。

 そして――皆一様に声を上げた。


「滝上竜一!?」


 街中から響いてくる歌声、それは機械によって流されているような音質ではなく、誰かが近くで歌っている生の声だった。路上に歌っている人――ストリートミュージシャンがいる模様だ。

 その声の主は、どう聞いても…………滝上竜一の物であった。

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