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 その景色は言ってみるなら、綺麗に上下で二分割されている。

 中心に横線の境を置いたとする。中心線より上――は、青一色だ。濃いめの水色。青々としたブルースカイ。つまりは空だ。

 その青の中に点々と、白い雲が漂っている。真っ白で綿菓子のような不定形の形が青の世界を彩るように流れている。

 遠くの方には白い雪に上部が覆われた巨大な山……すなわち、富士山も見えた。

 そして中心線より下側。無機質な灰色の世界。

 所々に緑色や赤色などが見られるが、大部分が灰に近い色で統一されているため、景色のイメージカラーは必然的に灰色だ。

 高層ビル、マンション、一軒家……様々な住居が織りなす世界。多くの人が住んでいるのだろうけれど、遠目から見てみるとこんなにも生気の無い景色だ。俺の主観なので人によってはまた違って見えるだろうけれど。

 また、夜になればこの姿は一変するだろう。限りなく広い青の世界、つまり空は闇の世界に覆われる。昼間のはつらつとした空気はどこかへ去ってしまうかのようだ。

 一方、無機質であった灰色の世界は逆に、光に包まれる。人工的な灯りが、そこかしこに現れるのだ。その光景は活気に満ちているとも言えるだろう。眠らない世界、そんな名称がよく似合いそうだ。人間は夜の世界を手に入れた。


「いやっはー! やっぱり最高だねぇ、東京タワーからの景色は!」


 俺の隣で超ハイテンションな女……こと、東京タワーが陽気な声をあげた。

 まるで子供のように身を乗り出して下界を見下ろすその姿はどうみてもここの神には見えない……。

 そう、俺は今、東京タワーの中に居る。

 東京タワーの窓ガラスから外の光景を覗いていたのだった。


「ふん。こんなもの、東京スカイツリーからの景色には遠く及ばないのだ。東京スカイツリーの方が百倍は凄い景色が見られるのだ」


 そしてもう片方より、やれやれというような東京スカイツリーの声。

 陽光にサングラスをきらめかせ、口にくわえたタバコ…………ではなく、タバコによく似たラムネのようなお菓子(ここに来る途中に立ち寄ったコンビニで欲しがったので買ってあげた)をつまらなさそうに動かしている。人差し指と中指でお菓子を口から外し、燃えかすを捨てるように小刻みに揺さぶるその姿はまさにワイルド――ではなく、愉快であった。


 なぜ今こうしているか、話はさかのぼる。



――――――――――――――――――――――――――――



「ねぇ秀介。私とこいつ、どっちが役に立ったと思う?」


 こんなことを聞かれたのは、滝上竜一のライブから帰ってきた後の自室でのことだった。

 東京タワーが興味深げに質問してきたのだ。


「私が居なかったら、あの犯人を見失うことになったかも知れないよ。やっぱりああいう現行犯は直接追ってこそだよね。秀介だって慌ててただろうし、とにかく犯人を追いたいっていう状況に私は一役買ったわけだよ。良かったよねぇ~、私の判断。でしょ?」

「まあ、そうだなぁ。あのときは無我夢中だったし……」

「何言ってるのだ。結果的には、私が倒したのだ。あれはどうかんがえても私の手柄なのだ。結局の所、私さえ存在していれば秀介は全くピンチじゃなかったのだ。お前の手柄は無いに等しいのだ」

「んー……確かにスカイツリーの一撃で仕留めたことになったけどな」

「そもそも銃になれるってくらいで威張らないで欲しいな。私だって武器への変形くらいお手の物だよ。まぁ、銃は無理かもだけど」

「じゃあ結局は役立たずだったのだ」

「そんなことない!」


 そんな感じで、両者は一歩も譲らない感じで話を続けた。やれ自分の方が良いだの、どこどこが評価に値するだの、はっきりいってどうでも良い論争が繰り広げられる。……この二人はどうしてこう、水と油みたいな感じなのだろうか。互いに相容れないかのようである。人間の場合は自分に似たものに同族嫌悪ってのを感じるらしいが、こいつらもある意味そういうもんなんだろうか。


「秀介、私の方が……良かったよね?」

「秀介、私の方が……良かっただろう?」


 二人して俺に問い詰めるように顔を向けた。……なんだこれは。決めなくちゃならんのか。なんとも面倒なことになった。なんかこう、どっちかって答えたら、それはまたそれでヒートアップしそうな気がするし。

 そんなことを頭の中で考えていると、なかなか答えを出せずに唸ってしまう。


「……ん、そうだ。秀介、良いことを考えたよ」


 急に顎に手を突いて考え出した東京タワーが、何かを思いついたように顔を上げた。


「秀介は、実際に東京タワーに行ってみたことってある?」

「東京タワーに? ……言われてみると、行ったことって無いな」


 タワーの発言は思いも寄らないものだった。

 思い起こしてみると、俺は東京タワーと東京スカイツリーの神様を呼んでしまったくせして、今までその二つに行ったことが無い。この二人を呼んでしまったということが奇跡に近いくらいだ。神への信仰も何もあったもんじゃない。


「よし、なら行こう。東京タワーへ! 実際に行ってみてみれば、私の方がすごいってことに納得するよ」

「えー……」


 なんだそりゃ、と言わんばかりの意見である。実物を見てみればその迫力に打ちのめされるだろう、ってことか。

 確かに、滝上竜一は実物で見た方が何倍も良かったわけだけど……俺、そこまで東京タワー自体に興味が無いし。行ったところで大して感動は得られないような気がする。


「そういうことなら、東京スカイツリーも行って見るべきなのだ。圧巻の喜びを得られるに違いないのだ。秀介は一発で私の虜になるはずなのだ」

「そうですかねぇ……」


 ならない気がぷんぷんするが。

 スカイツリーの奴は根拠の無いことでも自信満々に言うタイプであるということに最近気がついた。


「てか、男一人で東京タワーと東京スカイツリーに行く……っていう状況、考えて見ろよ。寂しすぎるぞ。まさにロンリーボーイじゃねぇか」

「そこは気にしなくていいよ。私達が実体化してついていけば」

「両手に花なのだ」


 


――――――――――――――――――――――――――――




 ということで、東京タワーと東京スカイツリーを連れて東京タワーと東京スカイツリーにデートという、文章にしても訳判らんし状況もよく判らんという事態に巻き込まれてしまった俺が居る……。

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