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(1)※イラストあり

挿絵(By みてみん)

イメージ制作:二式さん http://mypage.syosetu.com/271154/






 東京タワーと東京スカイツリーはどちらが上か。

 ただ字面での印象だとすればスカイツリーの方がちょっとだけ、オシャレな感じに聞こえる。しかしタワーの方が語呂が良く、断然呼びやすいと俺は思う。

 タワー……塔。東京の、塔。

 スカイツリー……空の、樹? 空の樹だって? 空に浮いてるわけでもあるまいし。それとも、空まで届く樹だから、スカイツリーなのか?

 いや、そもそも空ってどこからだよ。定義するのはどの辺りからなんだ。

 しかもよく考えてみればみるほど不思議に思う。あれのどこが一体、樹に見えるんだろうか? ただの電波塔じゃあないか。ちょっと格好つけてみたかったんだろうか。スカイツリーってなんか女子受けも良さそうな名前ではあるし。

 対する東京タワー。名前はむちゃくちゃシンプルである。飾りっ気のない名前ではあるけれど、それだけに分かり易くて良いのではないだろうか。シーも良いけど、やっぱりランドだよな、スタンダードで。それに似た感覚だ。


「今では世間の興味って、スカイツリーに移ってんのかなぁ」


 と、何気なく雑誌に載っていた『東京タワー・東京スカイツリー特集』を読んで何気なく物事を考え、何気なく呟いた俺だったわけだが。


「いや、そんなことはないさぁ。東京タワーの方が断然良いよん?」


 そんな俺の独り言に、部屋の隅から反論する声が聞こえてきた。 


「へ?」

「東京タワーの方が歴史が長いんだよ? 昭和三十三年……あ、西暦にすると千九百五十八年ね。もう五十年以上も前に出来てんだよぉ。五十年って言ったら、人間だと赤子がオジンやオバンになるくらいの月日だよねぇ。いやー、すごいなっ、東京タワー! キミもそう思うよね?」


 テンション高くはつらつとした声で東京タワーを力説するその人。ずいっと、目をきらきらと輝かせて俺の両肩を掴んだ。

 ……な、なんだ、この人!? 何で見知らぬ他人が人の家……しかも、俺の部屋にまで侵入しているんだ!?


 俺はじっくりとその人を眺める。率直に言うとすごく綺麗な人だった。

 身長はちょっと高め、百六十五センチくらいだろうか。すらりとした体躯だ。

 さらっさらの金髪がお尻の辺りまで伸びていて、瞳の色は透き通るようなグリーン。

 目は光が灯っているかのように生き生きとしている。

 赤と黒で織りなされたブリーツスカートを履き、上は白のタンクトップという露出度の高い服を着こなしている。

 胸の方も立派で手には収まらないような大きさ……って、どこを見てるんだ俺は!


「あ、あんた誰だ!?」

「誰って……あれぇ? おかしいな。私は呼ばれてやってきたはずなんだけど……」


 話が違うぞと、困惑する様子を見せる金髪美女。まるで訪問を間違えた押し売りのようだ。

 何よりも困惑しているのはこっちの方なんだけど……。


「ま、とにかく東京タワーは凄いってことさ。東京スカイツリーなんかより、全然ね!」

「は、はぁ……」


 急に満面の笑みとなった彼女はぽんぽんと俺の肩を叩く。

 マジで、この人なんなんだろう……。

 いきなり俺の部屋にいたかと思いきや、まるで本人に罪悪感は無さそうだし、めちゃくちゃフレンドリーな感じがする。

 そのあっけらかんとした雰囲気と見た目から察するに悪い人では無いように感じるが、人の家に不法侵入するって普通に考えたら悪い人だよな、うん。


「いや、そんなことはないのだ。東京スカイツリーの方が素晴らしいのだ」


 俺が金髪美女に言いくるめられているその傍ら――

 部屋のもう片隅で、なんかまた、見知らぬ人が仁王立ちしていた。

 両腕を組んでふんぞり返っている。


「東京タワーなんて古臭いだけなのだ。今や時代は東京スカイツリーなのだ。東京タワーなどという過去の産業廃棄物は消え去るがいいのだ」


 その人はツバでも吐き捨てるように東京タワーを見下す発言をする――


(っていうか、誰だー!?)


 第二の不審者が出現した。

 その不審者をぐるりと眺めてみる。率直に言って、女の子であった。

 中学生に満たないような小学五、六年生ぐらいの体型だ。幼女である。

 足の細さが際立つシャープなジーンズを穿いている。若干色褪せているのがお洒落だ。

 そして上半身は水色のTシャツを着用しているのだが、その胸辺りには『東京スカイツリー』と横文字で格好良く描かれている。ちなみに、胸にふくらみは無い。

 髪は黒色の、背中まで届くロングヘアー。ところどころ重力に逆らって上に跳ねているのが印象的だ。若干、寝癖っぽいが。

 そして顔には何故だかサングラスが掛けられている。真っ黒の四角型のレンズで、こちらから見るとその奥に存在しているはずの彼女の目が見えない。

 でも鼻や口元、輪郭から察するに彼女もまた美少女のように思える。

 ……口は悪そうだが。


「ちょっと、随分と言いたい放題言ってくれるねぇ……このちんちくりん」


 気づくと、さっきのグラサン幼女の発言に、金髪美女さんは大変怒りを露わにしていた。右手を左手で包んで拳を鳴らすポーズを取る……が、鳴っていない。


「今や時代は東京スカイツリーだってぇ? ははっ、脳みそでも沸いてるんじゃないの? 今も何も、最初から東京スカイツリーの時代なんて、来てないよ。世間の方の評判だって『ああ、なんか出来たんだね。でも興味ないね』って、感じだよ。老若男女に幅広く支持されている東京タワーの方が圧倒的に素晴らしい建造物さっ」


 したり顔で語る金髪美女。

 対するグラサン幼女はやれやれといった感じで肩をすくめた。


「はっ、これだからバカは困るのだ。いいか、大衆というのは新しい物が好きなのだ。目新しい存在が現れた場合、興味というものはそちらに移るのだ。古いものは忘れ去られるのが世の常なのだ。つまり、東京タワーなどというでくのぼうはもう世間一般の人々にとって、どうでもいい存在なのだ。いらぬ役者は手早く退場するがいいのだ」

「なにをう!」


 もし俺が東京タワーだったとしたら激怒するだろうな、という台詞を否応なしに呟くグラサン幼女。

 金髪美女はその暴言に耐えられなかったらしく、ついにグラサン幼女へと掴みかかり、取っ組み合いの喧嘩になる――って、人の部屋で何してんだ!?

 ヒートアップする彼女達を見ていられず、二人の間にそっと入る俺。


「まあまあ。あなたは東京タワーの大ファンで、君は東京スカイツリーの大ファンだってことは解ったから……喧嘩はよそでやってくれるかな」


 内心こいつら早く出て行けって感じなのだが、つとめて穏やかな口調で話す俺。

 成功したのか二人の挙動は止まり、きょとんとして、俺を見つめてきた。


「こいつは、何を言っているのだ?」

「さぁ……?」


 グラサン幼女が俺に指を差し、金髪美女に尋ねる。

 まるで俺一人がおかしいみたいな言い方だ。

 こ、こいつら……侵入者の分際でなんて生意気な奴らだ。


「そもそもこの人、私のことを誰だか解っているのかな……?」

「……なんか、理解してなさそうなのだ」


 さっきまで喧嘩してたのにいきなり意気投合している感のある二人。


「とにかく、ここは俺の家なんだ。港秀介(みなとしゅうすけ)の家なの。あ、つっても買ったのは俺じゃなくて親父だけど……ま、細かいことはいい。出てってくれ」

「そんなことを言ったら、私だって東京タワーだよ。キミの側から離れる理由が無い」

「私も東京スカイツリーなのだ。だからここに居る必要があるのだ」


 金髪美女とグラサン幼女は口をそろえて不平不満を漏らした。

 ……何を言っているんだ、この二人は。

 なんかまるで、金髪美女は東京タワーの化身で。

 グラサン幼女は東京スカイツリーの化身みたいな言い分だな。

 ははっ、馬鹿なこと考えてるなぁ、俺。


「うーん、これは説明の余地アリ、なのかな?」

「なのだ。このままじゃ埒があかないのだ……」


 呆れるように見る二人。俺が何をしたって言うんだ……。

 随分と失礼極まりない奴らだな、と考えていると家の呼び鈴がピンポーンと鳴った。

 続けて若者の青年の元気な声が家内に届く。どうやら配達の人がうち宛の荷物を持ってきてくれたらしい。


「ちょっと行ってくる。あ、ここから動くなよ。もしくは動いてもいいから、出てってくれ」


 俺はそう告げてやると二人を置いて、玄関へ出た。

 玄関の扉を開けようとする。が、開かない。どうやらカギが閉められていたようだ。

 ん、あれ? じゃああの二人……どうやって家の中に入ってきたんだ!?

 やはり、家の窓あたりから侵入してきたのだろうか。何て奴らだ。後できつく言っておかなくてはいけない。そんな行為は絶対にダメだよと。

 そんな思考をめぐらせながら配達のお兄ちゃんに応対し、受け取りのサインを書いて荷物を受け取る。

 そんなに大きい荷物では無かった。手に抱えられる程度の長方形の箱である。何が入っているのか。

 差出人は……


「親父だ……」


 父さんからだった。ってことは外国からの荷物だ。

 俺の父さんは特派員という報道関連の仕事をしていて、外国を転々としている。

 今はどの辺りに居るのだったか。まあいい。

 受け取った箱を開けてみようと見つめる――と、箱の側面に何やら文字が書かれた紙が厳重に貼り付けてあった。


――――――――――――――

『親愛なる我が息子へ。大事なお知らせが入っています! そこら辺にほっぽり出して、ホコリに埋もれさせないようにお願いします!』

――――――――――――――



「なんだよ、これ……」


 大事なお知らせって、連絡網じゃねぇんだから……

 親父の意図が読めない。しかしこんな風に書いて送ってくるくらいだから、まあそれなりに大事なお知らせとやらが中には入っているのだろう。

 中身が、気になる。

 いてもたってもいられなくなった俺は箱の封をこじ開けると、中を覗き見る。

 中には一枚のディスクケースが入っていた。CDなんかを入れておくための透明なケースだ。

 そして中には一枚のDVDが収められている。


「……再生しろ、ってことか?」


 あからさまに見てくれと言わんばかりの代物である。

 俺の部屋にもDVDデッキがある。そこで再生してみることにしよう。

 そう考えた俺は自分の部屋へと歩みを進めた。

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