今度は、奇跡を。 続編
需要はないでしょうが、続編を書いてみました。
正直自分は楽しかったです。
『今度は、奇跡を。』という作品を読んでないと分からないかと思います。
できれば先にそちらをお読みください。
空はオレンジ色に染まっていた。日が暮れるのが速くなった、そう思いながら教室から外を見る。渚は、グラウンドで部活動に勤しむ人たちの姿を目で追った。
視線をずらすとグラウンドの隅で応援している咲の姿が視界に入る。見るのもつらかったその光景も当たり前になってきていた。
「つーか、渚ちゃん。いつ落ちてくんの?」
声の主に視線を向ける。佐々木龍二。渚の前の席に座り不満そうな表情を浮かべている。
渚は大きくため息をついた。
「まず、なんで落ちるって決めつけてるわけ?」
「だって、俺だよ?」
一瞬その傲慢な発言にいらつく。しかし、その発言が出てきてもおかしくないくらい佐々木は綺麗な顔立ちをしていた。
「何、その自信。なんかむかつく」
渚の言葉に佐々木はなぜか笑った。その反応に渚は首を傾げる。
「何がおかしいの?」
「いや、お前知らないのかな?って思ってさ」
「何を?」
「俺とお前、噂になってる」
「……何?」
「だから、俺と渚ちゃんが付き合ってるって噂が流れてる」
「…はぁ?」
「ま、考えてみればそうだよな。ほぼ毎日一緒に帰ってるし」
「あんたが勝手についてくるだけでしょう?」
渚は佐々木を睨みつける。それに動じず、佐々木は楽しそうな表情を浮かべた。
「咲ちゃんが竜也と付き合うようになって、独り寂しく帰る渚ちゃんを哀れに思っただけだよ」
「…哀れとか、普通にむかつくんですけど」
「いや、俺って優しい」
「人の話を聞け!」
声を荒げる。
そんな渚の顔を覗き込むように見つめ、佐々木は目を合わせた。渚の口から言葉は出てこない。
沈黙が流れた。共に目を逸らさない。
「…」
先に折れたのは渚だった。顔を背ける。視線はグラウンドに向けた。
静かに笑う声。
「だから、何がおかしいの?」
少し強い口調で聞いた。
「横向くから悪いんだよ、バカだな」
「…言ってる意味がわかんない」
「耳、真っ赤」
渚は思わず、両手で耳を覆った。
「あ、自覚はあったのか」
「…」
「前は、赤くもならなかったのにな」
「…」
「一緒に帰るのも、断られたことなんかないぜ、俺」
「…」
「なぁ」
甘い声。卑怯だと渚は思った。そんな声を出す術をこちらは知らない。
頬に熱は集まり、心臓の音は聞こえそうなくらい大きくなっている。それでもごまかすため、他のことに意識を向けようとした。
視線を動かす。動かした先には、竜也がいた。
竜也は優しかった。
接点なんてまるでなかった自分を覚えていてくれた。それだけで大好きになった。
咲と付き合うようになって、皮肉にも竜也と話す時間は増えていた。
話すと楽しかった。冗談も言い合えた。
仲良くなっていく中で、咲を見つめる竜也をより多く見つけた。咲を見つめる竜也には、いつだって愛おしさが含まれていた。
そんな竜也を見るのは苦しかった。だって好きだったのだ。咲よりずっと早くに。想っていた時間は長かった。
けれど、いつの間にか平気になった。つらいと思わなくなった。
咲のことを大切に思ってくれる竜也を心から友だちだと思えた。
そう思えるまでに、季節は一つ過ぎたけれど。
思い返せば、いつも佐々木がいた。
本当にいつも。泣きたい時は隣にいた。寂しい時も隣にいた。
いつだって、隣で支えてくれた。
「…まだ、竜也かよ」
急に低くなった声。
渚の視線を追ったのだろう。佐々木も同じようにグラウンドを見ていた。
「…俺じゃ、無理なのか?」
不安が入り混じる。その声に「らしくない」と渚は思った。
ただ傲慢に、「落ちてこい」と言っていればいい。不安に思わなくたっていいのだ。
「……バカだからな」
「は?」
小さな声。
それも佐々木は聞き逃さない。
「あんたが言ってたの正しいみたい」
「何の話だよ」
「私は、バカってこと」
「だから…何?」
渚は視線をグラウンドから外した。
真っ直ぐ佐々木を見つめる。今度は逸らさなかった。
「好き」
「…」
「私は、佐々木が好き」
「…は?」
間抜けな声。思わず笑った。
「何その声?」
「いや、だって…」
「さっきまで、あんなに自信満々だったのに」
「…」
「あ~あ。やっぱり、バカだな」
「…お前、さっきからなんかむかつく。急に余裕になってんじゃねぇよ」
「う~ん。だってさ」
そう言いながら渚は笑った。
笑ってしまう。笑うくらい嬉しくなってしまう。
だって、奇跡が起こったのだ。
好きな人の好きな人になる。それは一つの小さな奇跡。
「ってか、佐々木は?」
「…は?」
「だから、佐々木は?」
「…お前、知っててそう言うこと聞くか?」
「聞きたいから」
「何いきなり上に立ってんだよ」
「気持ちもちゃんと伝えられない人に言われたくありません」
その言葉に、佐々木は「上等だ」と片頬を持ち上げた。
すっと、顔を近づける。
耳元で囁いた。卑怯なくらい甘い声。
「俺は、渚が好きだ」
渚の頬に、全身に熱は集まり、心臓が音を立てた。「…バカ」そう小さく漏らすのがやっと。
「バカに惚れたバカはどこのどいつですかね?」
そう言って楽しそうに笑う。
悔しかったので、少しずつ離れていく佐々木の頬に軽くキスをした。
佐々木は、一瞬目を大きく開き、そして笑う。それは今まで見た中で、一番の笑顔だった。
渚も笑った。
夕日が教室に差し込む中、2人の影は今度はしっかりと重なった。
読んでいただきありがとうございました。
感想、評価等いただけたら幸いです。