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遠雷のオーバーロード〜10歳の転生者は『雷魔法』と『神の蔵』で自由な自治都市を創る〜  作者: トール
第一章:大森林のサバイバルと雷霆の覚醒

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第047.5話:白銀の動脈と迷宮都市の併呑

 


 迷宮都市タルタロスの最深部。陽光の届かぬその深淵で、星海を模した「マザー・コア」が、生き物のように静かな脈動を繰り返していた。掌握したその心臓部から、絶え間なく吐き出される高純度の魔石。

「カラン、コロン……」

 脳内の四次元空間へと転送される結晶が立てる、硬質で乾いた音。それは、かつての社蓄生活で聞いた不吉なアラート音とは対照的な、勝利と安寧を約束する甘美な旋律として俺の脳髄に響く。


 レベル12。知力(INT)は105という、人智を軽々と踏み越えた領域に達している。並列処理される思考の奔流は、一つの都市を維持するための膨大な変数を、呼吸をするように容易く片付けていく。もはやエネルギーの枯渇という生存への強迫観念に怯える日々は、遠い前世の記憶のように霞んでいた。


 だが、城塞都市の隠れ家。使い込まれたアンティークの執務机を囲う静寂の中で、俺は羽根ペンの軸を指先で弄びながら、広域地図へ冷徹な視線を落とした。

「……血液は溢れている。だが、血管が細すぎるな」

 吐き出した溜息は、埃っぽい部屋の重い空気に溶けて消えた。

 君臨する城塞都市と、新たな心臓となったタルタロス。この二つの点。それを繋ぐのは、乾燥した土と岩が続く百五十キロの荒野だ。物流という名の「動脈」が通らぬ限り、この供給はただの溜溜に過ぎない。


 腐敗の関所


 数日後。俺は「白銀の街道」と名付けたその物流の要所に立っていた。

 視線の先には、街道を塞ぐように鎮座する石造りの砦。かつては防衛の要であったはずの場所だが、今は権力を笠に着たハイエナどもの巣窟と化している。

「止まれ。ここは『通行税』が必要だ。……金がねえなら、その荷馬車を置いていきな」

 脂ぎった顔に卑屈な笑みを浮かべた男が、錆びた槍を突き出してきた。男の体からは、安酒の酸っぱい臭いと、略奪に手を染めた者特有の淀んだ体臭が漂ってくる。


 俺は無言で男を見据えた。

 10歳の少年の視線。だが、その瞳の奥に広がるのは、雷雲を孕んだ漆黒の空だ。

「――不快だな」

 短く告げた。

『管理者権限:威圧フラッシュ』。

 物理的な破壊ではない。ただ、相手の脳へ「絶対的な捕食者」としての情報を直接叩き込む。


「が……あ、……ぁ……」

 先ほどまで下卑た笑いを浮かべていた男の顔が、一瞬で土気色に染まる。膝が震え、ガチガチと歯の根が合わない音が響く。男はまるで、目に見えない巨大な鉄槌に押し潰されたかのように、泥まみれの地面へと這いつくばった。


「なっ!? てめえ、やりやがったな! 殺せッ!」

 周囲のゴロツキ共が、恐怖を塗り潰すような怒号を上げ、武器を抜く。

 だが、俺の背後に控えていたモヒカン男たちが、地を這うような獣の咆哮を上げて前に出た。彼らの瞳に、もはやスラムのネズミのような怯えはない。大森林の過酷な環境で魔物の命を喰らい、俺のシステムによって「暴力の専門家」へと再定義された者たちだ。

 鈍い肉打音と、骨の砕ける不快な音が響き渡る。

 圧倒的なステータス差の前で、ゴロツキたちは抵抗の術もなく、文字通り泥を舐めることとなった。


 経済という名の暴力


「暴力の底が知れたな。……なら、次は経済だ。グレン」

「ははっ!」

 俺の合図に、グレンが恭しく頭を下げ、荷馬車の幌を一斉に跳ね上げた。


 その瞬間、タルタロスの頽廃的な血と鉄の臭いを一掃する、圧倒的な芳醇さが爆発した。

 オーク樽の中で長年眠っていた魔酒の、むせ返るような琥珀色の香り。そして、炭火を当てるまでもなく溢れ出す、極上肉の暴力的なまでの脂の匂い。

「こ、この匂いは……! 王都の貴族しか口にできないっていう、あの『琥珀の魔酒』か!?」

「肉だ! この街の干し肉みたいなゴミじゃねえ、本物の霜降り肉だぞ!」

 門前に集まった住人たちの喉が、一斉に鳴る音が聞こえた。彼らの瞳に宿っていた猜疑心は、今や純粋な「飢え」と「欲望」へと塗り替えられている。飢えを抱えた者に、これ以上の説得は不要だ。


 俺は不敵な笑みを浮かべ、街の住人たちへ向けて、雷鳴のごとき声で宣言した。

「今日から、この城塞都市とタルタロスを結ぶ『白銀の街道』は、俺の商会が完全に管理する。安全は俺が保証する。そして、俺に従う者には、この『富』を分かち合おう」


 沈黙が支配した。

 次の瞬間、かつての支配者を見捨て、一人の男が地面に額を擦り付けた。それを皮切りに、波紋が広がるように街の人々が膝を突いていく。

「「「オーバーロードに、栄光あれ!」」」


 跪く群衆を見下ろしながら、俺は冷徹な満足感に浸っていた。

 知力105。この脳内に描かれた「支配の青写真」に、また一つ確かな色が塗られた瞬間だった。

 この動脈を通る血流は、やがて俺という心臓をより強大に、より不滅のものへと押し上げていく。

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