第2話:13回目のゲーム
第2話:13回目のゲーム
「……記憶保持者」
俺は掠れた声で呟き、空になった銃のシリンダーを弾いた。
神が告げた報酬の所在。そこには、今この目の前にいる男が立っている。
鳥頭はクスクスと、鶏の鳴き声のような乾いた笑い声を漏らした。俺が今日殺したあの男も、消費した弾丸も、すべては無駄だったというわけだ。
「ま、そう肩を落としなよ。ここじゃなんだし、あっちで座って話そうか。……ああ、言っておくけど、僕はあんまりベラベラ喋れないんだ。この『不老』の加護、デメリットでね。神様に口止めされてるから、全部は言えないんだよ。ごめんね?」
鳥頭はわざとらしく肩をすくめ、慣れた手つきで瓦礫の隙間を指差した。俺は促されるまま、崩れたコンクリートの塊に腰を下ろす。男は俺の向かい側に座ると、足をぶらぶらさせながら言った。
「さて。君、情報が欲しくてここに来たんだろう?」
「……お前を殺しに来たのかもしれないぞ」
「ありえないね。だって、さっきのゲームの報酬は『僕の居場所の開示』だろ? 神様は公平だ。僕に敵意がある奴に、わざわざ僕の居場所を教えるなんてデメリット、僕に与えるはずがない。だから君は、僕にとって無害な存在だって保証されてるのさ」
鳥頭は自慢げに両手を広げた。
「現に、僕はその加護のおかげで、もう八〇〇年以上も生きてるんだからね」
「……八〇〇年? あんた、算数もできないのか。神が初めて降臨したのは二〇〇年前だ。加護は報酬でしか貰えない。あんたがその加護で生きてるんだとしても、最高で二〇〇年だ。」
一瞬の沈黙。次の瞬間、鳥頭はわざとらしく両手を叩き始めた。
「パチ、パチ、パチ! いやあ、すごいねえ。よく気づいた! 君、頭いいよ。合格、合格!」
仮面の奥で、男がクスクスと肩を揺らす。それは明らかに、子供の拙い指摘をあやすような態度だった。
「バレちゃったんじゃ仕方ない。退屈しのぎに、本当の『昔話』をしようか。神様が公に現れたのは二〇〇年前だと思ってる。でもね、実際はもっと前、三〇〇年前からいたんだよ。場所はある中学校の空き教室。最初は、そこを見つけた一部の生徒たちの秘密だった。彼らは報酬で大金を手に入れたり、お気に入りの女子生徒のクローンを作らせて、性的欲求を満たしたりしていたのさ」
「……」
俺は黙って続きを促した。こいつの話のどこまでが真実で、どこからがデタラメかを見極める必要がある。
「でも今から二五〇年前、清掃中の職員がうっかりその教室に入って見つけちゃった。子供たちの欲望が詰まった、おぞましい『神様の保管庫』をね。その後、国は学校を解体して、神様を隔離するための施設を建てた。今でもそいつはそこから動かずに鎮座してる。そこに行けば、好きなだけゲームを受けられる。……行ってみるかい?」
鳥頭はさらに言葉を重ねた。
「あと聞きたいのは、歴代のゲーム勝利者の報酬だよね。まあ参考がてら教えてあげるよ。過去に十一人。六人はある理由で報酬を受け取れず無効。四人は記憶保持者に。そして――一人が、”神”になった。って感じかな。多分大体あってるよ」
「……神になった人間がいるのか?」
俺が問いかけようとした瞬間、鳥頭が言葉を遮った。
「とっておきの秘密を教えてあげよう。――この世界は、ループしてるのさ!! ……もっと驚くとこだよ。ちなみにね、君は『前回』の優勝者だ。そして今回も、多分その次も、君が優勝すると思うな」
鳥頭は楽しげに笑うが、俺の背中には冷たい汗が伝った。
こいつの話には矛盾がある。さっき「不老の加護のデメリットで口止めされている」と言いながら、今「神様はデメリットを与えない」と断言した。どちらかが、あるいは両方が嘘だ。
「さて、話を戻そう。神様の居場所は、東京。かつての日本の中心地さ」
「今回のゲームはもう満足。言いたいことは全部言ったし、あとは君がどう『踊るか』を見せてもらうとするよ。ここら辺で辞めるね、バイバイ」
「待てっ!――」
鳥頭は懐から一丁の拳銃を取り出し、躊躇なく自分の頭へと押し当てた。
彼は笑っていた。自分のついた嘘が、俺をどう狂わせ、このゲームがどこまで続くかに、自らの命さえも賭けて遊んでいるギャンブラーの顔で。
引き金が引かれた。乾いた音が響き、真っ白だった鶏の仮面が赤く染まって後ろへと弾け飛ぶ。どさりと、肉塊が地面に崩れ落ちた。
東京。
あそこには、”あいつ”がいるという噂がある。鳥頭の言葉が誘い受けの罠だとしたら、向かう先にあるのは更なる絶望かもしれない。
……それでも、行かないわけにはいかない。
俺は血に染まった鶏の仮面を一瞥し、拭いきれない不安を抱えたまま、重い足取りで「東京」へと向かって歩き出した。




