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第二章「兵の強さ」

 アランの決意の日から数年の時が流れ、彼は成人し兵役に行くこととなった。

「一列に並べ。今から徴兵検査を行う」

一等兵が集まってきた青年たちにそう言う。

「お前は仮番号一〇〇五三一〇だ。よく覚えておけ」

アランは兵士にそう告げられる。するとすぐに自分の番が来た。

 検査では身長、体重、足の長さ、血圧などを測り最後に、

「仮番号一〇〇五三一〇、お前は軍事境界線のすぐ近く、ポルベン基地一二五部隊に配属が決定した。明日からしっかり働けよ」

と言われた。

 アランの住むシャインサンからポルベンまで少し距離があり、アランはバスで移動することになった。

「ここが今日からお前たちが働くポルベン基地だ」

バスに乗っている兵士がこう言う。すると、そこにはアランが今までに見たことのないくらい大きな施設が山の奥に不自然に配置されていた。

 基地の入り口来たアランたちに、門は開くことがなく彼らが少しの間待っていると、

「一一二部隊、入れ」

と放送が鳴り、門が開いた。続けて一四一部隊、一二〇部隊、一二四部隊と続き、ついに

「一二五部隊、入れ」

と放送が鳴り、アランたちは我先にと基地の中に入っていった。

 基地に入り整列すると、一発の弾丸を持った百歳くらいの兵士が、

「まず、最初に言わなければならないことがある。この弾丸の価値はお前たちの命よりも重い。これから手りゅう弾と射撃の訓練があるが、一発でも無駄にしてはならぬ。わかったな」

と部隊の隊員に言う。そして、その直後に紙が配られる。

「ここには訓練場の場所とお前たちの部屋番号が書かれている。書かれている部屋で着替えた後、すぐに屋外訓練場三に来るように。遅刻した者は即刻、番号なし部隊へと異動となる」

隊員がさっきの兵士からそう言われ、アランは二〇五号室に行った。そこにはアラン合わせて五人の人が居て、

「早くせな、遅刻するけんな」

アランは部屋の人にそう言われた。

 アランが着替え終わり訓練場に行くと、

「二〇五、遅刻はしてないがお前たちが一番遅かったぞ」

教官からそう告げられた。アランと同じ二〇五号室のメンバーの周りでは隠れて笑っている者もいた。教官はしばらくして、

「今から手りゅう弾の訓練を始める部屋番号順に並べ、そうしたら一人一個手りゅう弾を与える。絶対になくさないように」

と言った。その後、アランたちが並ぶと教官の言った通りに手りゅう弾が渡された。

「今からこの手りゅう弾の使い方を教える。一回しか言わないぞ。狙いを定めたら引き金を引く。十秒後に爆発するからすぐに投げる。投げた後は耳をふさいだ状態でしゃがんで爆発の衝撃に耐える。分かったな」

と教官が言う。新兵たちは言われた通りに一人一人手りゅう弾を投げていき、アランの番が来た。アランが手順通りに手りゅう弾を投げると、手りゅう弾は目標のすぐ近くに落ち、あとは爆発することをしゃがんで待つだけだった。しかしアランの投げた手りゅう弾は不発に終わった。

「なんだお前は」

と言いながら、教官はアランの事を何発も殴った。その間、周りはほんの一瞬だけ静かになったがすぐに新兵たちの話声で埋め尽くされたが、

「黙れ、お前たちもこうなりたいか」

という教官の声で一斉に静かになった。

 その影響か誰も失敗することなく、アラン以外は訓練を順調に進めていった。

 続く射撃訓練では、宿舎三個分くらいの距離の的へ撃つもので、全員で古ぼけた一丁の銃を使いまわして行われた。

「お前らには一人一丁やれるほどの価値はない。一人二十発で十分だ」

教官がそう言い、訓練が始まった。二十分の十七、二十分の十九、二十分の十三、二十分の十八…と皆が七、八割程度を命中させている。アランの番が来た。アランが二十発を打ち切ったとき、二十分の七という結果に終わった。

「お前はこの国が今どんな状態なのかわかってるのか。いつ、北が攻めてくるのか分からないんだぞ」

と教官が言い、射撃中の新兵から銃を取り上げアランの頭を銃床で殴った。周りの人はそれを見て意識しているのか無意識なのか少し緊張している様子だった。

 訓練が終わるころには夕方になっていて、新兵たちは食堂に集まっていた。

 食堂で提供された食事は、とても貧相で量も多いとはいえないものだった。

 アランが食事をとっているとき、ほかの兵から一つだけの味のないザムパンを奪われ、

「なにもされたくないんだったら、おとなしくこれを渡せ」

と言われた。アランが仕方なくその兵士にザムパンを渡そうとしたとき、

「あっ、おい待て」

と女性の新兵がそう言い、ザムパンを奪おうとしていた兵士を追い払って、ザムパンをアランに渡した。

「ありがとう、俺のためにここまでしてくれて」

アランがそう言うと、その新兵はこう言った。

「礼はいい。ところでお前、名前は」

それにアランは、

「アラン…アラン・ルヴャイ」

と答えた。新兵はアランにこう言う。

「俺はイー・サンダブだ。お前、どこの出身か」

「俺はシャインサン出身だけど…」

アランはそう答えた。

「都会出身じゃないか。助けて損だったよ」

イーはそう言う。アランは、

「それって、どうして」

と言った。それにイーはこう答える。

「全く、都会の人間はなんも知らないんだな」

「知らないってどういうこと」

アランはそう言う。それを聞いて、イーはこう答えた。

「この国には、三つの階級がある。上から、特権階級のアン、一般階級のイン、そして俺がいる奴隷階級のエンだ。これは、お前のような都会の成金は知らされてない」

イーの言葉にアランがこう聞く。

「じゃあ、お前はどうして知ってるのか」

それにイーはこう答える。

「そりゃあ、昔から実感してたからさ。俺は、半島の端のチェリュンで農家の娘として産まれた。物心ついた時から、周りのインの人たちとの差を感じていた。インの人たちは学校へ行けて、配給ももらえて、処刑以外で死ぬ心配はあまりない生活ができている。俺たち、エンの人は学校にも行けず、明日の食料に困り、いつ死ぬか分からない生活をしている。俺は子供のころから毎日農作業をし続けて鍬を振り続けた。そして、こうやって兵役に行って、何とか家族を養っている」

その言葉を聞いてアランは、

「俺はこの国を不自由なものだと思っていたが、お前みたいにもっと大変な人もいるんだな」

と言う。イーは、

「分かってくれたならばありがたいよ。お前みたいなやつでも不自由に思ってたんだな」

と言った。それにアランはこう言う。

「だから、シャインサンにある壁を越えたいんだ」

それにイーは、

「ああ、頑張れよ」

と言った。

 そして、会話が終わったアランとイーはそれぞれの部屋に戻り夜を明かした。

カーンという音が基地全体に広がり、アランはその音で起きた。アランたちは慣れない支度を済ませて、朝食を食べに食堂へ向かった。

「朝食はこれだけか」

アランはッタロと魚の切れ端を受け取り、そう言いう。

「魚なんて初めて食べるな」

アランの隣のイーがこう言った。

 アランが朝食を五分で済ませて少しした頃、こんな放送が流れた。

「一二五部隊は屋外訓練場で十三時から訓練があります」

その放送を聞いたアランは二〇五号室の人とすぐに屋外訓練場へ向かった。今回は幸い、一番遅くはないようだ。

 隊の人が整列すると、教官は隊員にこう告げる。

「今から火炎訓練を行う。どうやるかは簡単。火が付いた油の上を盾で突破するだけ。できなかった奴は後で処罰される」

 その訓練内容を聞いて、新兵たちは混乱した。諦めて運命を受け入れる者、どうにかしようと慌てている者、そして余裕そうに意気込んでいる者がいて場は混沌としていた。新兵たちがそうしている中でも教官が地面に油をまき、火をつけて、ぼろぼろの盾を準備した。準備が終わると教官が、

「まず、一〇一号室員、やれ」

と言いながら一〇一号室の人に材質が何かもわからなくなってしまった盾を渡した。一〇一号室の者は結局、誰も炎を通ろうともしなかった。

 その後、大体の人は炎を通ろうとしなかったり、通ろうとしても火傷で脱落したり、また多くはないが炎を通りきった人もいた。

 そんな中で、

「二〇五号室員、やれ」

とアランは言われた。アランは盾を構えるが、なかなか炎の中に入ることができない。アランは雨が降って火が弱まらないかと期待していたが、空は雲一つない快晴のままだ。アランは一歩踏み出そうとしても火傷をして脱落していった人の姿が頭に浮かび体が動かなく、どうすることもできない。教官から早くしろと圧をかけられている中、アランは火傷覚悟で炎を通るか、諦めて教官に殴られてすむかで悩んでいたがツァヴィーカとの、

「あの壁を一緒に越えよう」

という約束を思い出し、決意を固めた。アランは目を閉じ、足を踏みこみ、盾を構え、炎に向かって突き進んだ。アランの盾は炎に耐え、足の熱さなんか気にせずに、無事に炎を通りきった。それを見たほかの二〇五号室の隊員が恐怖を打ち破り、全員が炎に打ち勝った。

 二〇五号室の人たちの姿を見て教官が、

「腰抜けども、あいつらみたいに炎を通り抜けなければどうなるか分かってるな」

と言う。アランやそのほかの人たちにとってはすでに済んだことだったが、まだ終わっていない人たちは教官の言葉に震え上がっていた。

 そんな人たちの訓練も終わり、アランたちは昼食を食べに食堂に向かった。

「今日の飯はンアンゲウルか、懐かしいな。ッタロは食べられないからこればっかり食べていたよ。お前は食べたことあるのか」

とイーがアランに聞いた。アランは、

「いいや、ッタロの茎を食べるなんて聞いたこともないよ」

と言った。それを聞いたイーは、

「まあ、ここでは食べるしかないからね、しょうがないね」

と言った。そう話しているうちにもアランの番が来ていて、今日の昼食を受け取った。

 アランとイーが席に着くとアランはンアンゲウルを食べ始める。イーからすると食べなれた味だがアランからすると草の味とどこか遠くにッタロを思い浮かべる香りで、あまりおいしいものとは思わなかった。

 アランたちが昼食を食べ終わると、彼らは戦闘訓練をするために屋外戦闘訓練場へと向かう。食堂があるところからは少し遠かったが誰一人として遅刻することはなった。

全員が集まると、教官は新兵たちに戦闘訓練の説明を行う。

「まずルールを説明する。訓練用の光線銃が配備されるのは一部隊一部屋だけだ。それ以外の部屋の奴は木の棒だけだ。光線銃は命中すれば一発退場、木の棒は降伏したら退場だ。そして、この戦闘訓練で負けた部隊は番号なしに割り当てられるから覚悟しておけ。」

この説明を聞いた二つの部隊は負ければ人として生きれないと緊張感が漂っていた。

 皆に物資が渡されると戦闘訓練が開始した。

対戦相手の一二四部隊は遠くから一二五部隊の隊員を孤立した者から一人一人的確に狙撃していき、開始から数分で一部屋分を壊滅させた。焦った隊員が部屋規模で敵地に突撃するも、せいぜい二人ほどしか倒せずに追加でやってきた敵に倒された。これが数回続いたせいか、一二五部隊は戦力の五分の一程を失ってしまう。

 そんな状況の中、アランは穴の中に隠れて敵を待っているが、イーはどんどん敵地に行き狙撃されないように物陰に隠れながら敵を十人ほど倒していた。

 イーが戦果を挙げても一二五部隊の隊員は敵に倒されていき、脱落する人は増えていった。

 一二四部隊の勢いはとどまることを知らず、破竹の勢いで次々と潜伏している敵を袋叩きにして、着実に勝利に近づいている。一二五部隊の狙撃隊も少しは戦いに貢献していたが、一二四部隊の狙撃隊のように敵を次々と脱落させることはできず、敗北という崖へと少しずつ落ちていってしまう。それでも隊の皆は何とかして勝とうとは思っているものの、実際に行動する者は少なくそれ以外の者は小さなくぼみや溝の中に隠れて敵を討とうとしていた。しかし、その策略も見抜いていたのか物陰に注意を向けていたのかはたまたただ運が良かっただけなのか、それは本人以外誰も知ることはないが、隠れていた一二五部隊員によって脱落する敵は少なかった。

 だが、そんな状況の中でアランには一つの希望があった。イーを頼ることだ。アランはイーの活躍を見ていたので彼女が十分に強いことを知っていた。アランから彼女までの距離は人が百人分くらいあるがアランにとってはそんなことは関係なく、敵に見つからないようにイーのもとへと向かっていく。アランは敵に見つからないように移動していたが、彼女のすぐ近くまで来ると敵の事なんか忘れて走って彼女の方に行った。

「イー、助けてよ。お前ならなんとかできるだろ」

アランはそういう。しかしそれに対しイーは、

「それは無茶だ。見ろ、この傷を」

そう言い、アランに傷を見せた。イーの体には細かい傷が多くあり、木の棒にたたかれたせいかいたるところで内出血をおこしている。それを見たアランはうつむいたが、イーはそれに気づき、こう言った。

「戦士は戦うことのできない市民を守る。だけど、戦士にもこんな感じに戦うことのできない時もある。そんな時誰が戦うのか。それは市民だ。市民は戦士となり戦うことのできない者を守るんだ。さあ戦士よ、行ってこい」

アランは気づいた。自分は無力な市民ではなく、戦うべき戦士だということを。そして、アランは思い切って木の棒一本で敵地に突撃する。それは一見無謀に見えるが、迷いのない素早い動きは狙撃手の狙いを狂わせ、ひるむことのない戦士は木の棒だけの戦場では無敵に等しかった。

 アランは見違えるほどに華麗な動きで木の棒を腕のように扱い、次々と敵の動きをとらえ、あっという間に一部屋を壊滅させた。そしてその時、アランは知らないだろうがイーは、

「やるじゃねえか」

と誰にも聞こえてないのにもかかわらずつぶやいた。

 アランは無理な動きをしたせいか、疲労で体が動かなくなってしまった。しかし、アランの成果は一部屋分ではない。アランの姿を見た者たちが、次々に敵を倒していったためアランは、そしてイーは多くの敵を倒したと胸を張って言えるだろう。

 決着は二人の知らないところでついた。一二五部隊は敵を打ち破り、奇跡の勝利を果たした。仲間からその知らせを聞いたとき、アランは何が起こっているのかがすぐには理解できなかったが、仲間の顔を見てその意味を理解した。

 仲間の介抱により宿舎に戻ったアランは食堂でイーと少ない夕食を共に食べていた。

「本当によく頑張ったな。お前が動いたおかげで勝てたんだぞ」

イーはアランにそう言う。

 軍での生活も板についたころ、初雪の日に初めての休日が来た。アランは、ほかの人の会話からこれが部隊ごとに回されている一年に一日あるかないかの貴重な休日であることを起きてすぐに聞く。いつも通りに食堂に行くと皆は初雪の話で盛り上がっている。

 別に、この年の初雪は早くも遅くもなく、彼らはただ普通の初雪に盛り上がっている様子は豊かにも貧しくも見えた。

珍しい休日に兵士たちは、何もない宿舎から楽しみを生み出し子供のように無邪気に遊んでいた。互いに異なる地方からやってきた兵士たちは自分の地元や子供のころの話を食堂の机を囲んで語りあうことだけでもそれはとても楽しいことであり、いつもの勤務を忘れるほどである。そんな中、アランは宿舎の裏でイーと話をしていた。

「お前はあの壁ってどんな感じなんだ」

イーがアランにそう聞く。

「人が二人か三人分の高さですぐに超えられそうだけど、絶対に越えられない壁だ。俺は越えようとしたけどあと一歩のところで超えることができなかった」

アランはそう答える。それに、イーはこう言った。

「越えようとしたのか、もしお前が壁を越えていたらどんな生活だったんだろうな」

アランは、

「俺には想像すらできないな。ツァヴィーカは無事だといいな」

と言う。

「ツァヴィーカって誰だ」

イーはそう言う。それにアランはこう答える。

「俺と一緒に壁を越えようとした人だ。あいつだけ、超えることができたんだ」

「会えるといいな」

イーはそう言った。

二人がそう話しているうちにすっかり夜になり、一日の休日が終わりいつもの日々に戻っていった。


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