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第四話 語り手は、牢獄の歴史に就いて考察する。

 一寸したボタンの掛け違いに依って、こうも容易く人を閉じ込めてしまう、抗うだけの気力を挫いてしまう‶異形″とは、一体何なのか。



 それに迫る前に、牢獄という物、概念の変遷について、少し触れておきたい。


 そうする事で、何かしら見えて来る物があるかも知れないから。



 そもそも牢獄とは、咎人、若しくは時の権力者にとって邪魔な人物を咎人に仕立て上げ、幽閉する場所。其処では自由を奪われ、反抗するだけの気力も徐々に無くなって行く、そんな場所。



 その為、文学の世界に於いては、殊更に巨大、且つ見る者を威圧する様な重苦しい様相を見せ、幽閉された人物の絶望を強調する様に描写されるのが常だった。



 重々しく暗い石造りの巨大な建築様式。地下深く、若しくは高所の牢屋で、外との連絡を絶たれ、光と言えば、高所に穿たれた小さな窓から射す、僅かに空いた外へと通じる箇所からのみで、その存在がその向こう側に広がる外の世界、それまで居た世界への憧憬を、しかし決して此処から出る事叶わぬ状況を否応なく知らしめる。


 為に、絶望はより深い物となり、咎人、又は不幸な境遇の貴人の悲哀を、その強烈な対比の下で表現するのに効果的な舞台として使用された。



 その舞台は、囚人の心理描写のみならず、幽閉する側の倒錯的な心裡をも浮き彫りにする。例えば、塔に閉じ込められたラプンツェル。美しい姿の彼女を何処へも行けない様、閉じ込めるその様は、綺麗な羽を持つ蝶をきっちりと区切った標本箱に配置する昆虫収集家を想起させる。



 そんな風に、様々な物語を生み出して来た牢獄。現実の其れではなく、既に概念と化していたが、あくまでそれは個人を閉じ込めておくだけの舞台装置に過ぎなかった。



 それが、何時しか当初の思惑を超えて肥大化し、遂には世界その物となるに至ってしまったのは、果たしてどの時期からだったのだろうか。

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